異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第23話 氷の国の使者と、心を包む水餃子 (23-2)

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厨房の大きな調理台に、俺は小麦粉を広げた。
若い料理人たちが、「今さら、パンでもこねる気か」と、嘲笑の視線を向けてくる。

「皆さん」
俺は、ぬるま湯を少しずつ加えながら、生地をこね始める。
「今から作る『水餃子』という料理の、物語をしてもいいですか?」

俺は、訝しむバスティアンや、若い料理人たちに、語りかけた。
「俺の世界ではね、小麦粉の皮で具材を包む、こういう料理が、世界中の、ほとんどの国々にあるんです。イタリアのラビオリ、ロシアのペリメニ、そして俺の故郷の餃子。どうしてだと思いますか?」

誰も、答えられない。

「それは、この料理が、**『家族の食卓』**の象徴だからです。皆でテーブルを囲んで、ああでもない、こうでもないと喋りながら、一緒に皮で具を包んでいく。**大切なものを、愛情で優しく包み込んで、それを皆で分ち合う。**これは、王様のための、見せびらかすための料理じゃない。凍える冬の夜に、家族が体を寄せ合って食べる、世界で一番温かい、**平和の料理**なんですよ」

俺の言葉に、厨房の空気が、少しずつ変わり始めた。
嘲笑は消え、皆、真剣な眼差しで、俺の手元を見つめている。

だが、ただの温かい料理だけでは、彼らの氷の心は溶かせない。
相手への、「敬意」という名の、最高の隠し味が必要だった。

「きゅいん!」

その時だった。
厨房の隅で、俺たちの様子を見ていたモグモグが、弾かれたように走り出した。
向かった先は、晩餐会の最初に、ニヴルヘイムの使節団が、エレオノーラへの手土産として持ってきた、贈り物の山だ。豪華な宝飾品や、美しい毛皮が並ぶ中、モグモグは、誰にも見向きもされていなかった、一つの小さな木箱の前で立ち止まった。

そして、その箱を、一生懸命、俺の足元まで押してくる。
「モグモグ、これは?」
箱を開けると、中には、黒く乾燥した、石ころのようなキノコが入っているだけだった。

「……これは、ニヴルヘイムの『氷晶茸(ひょうしょうたけ)』か。保存食にはなるが、味も香りもほとんどない、ただのキノコだ。あんなもの、料理には……」
バスティアンが、吐き捨てるように言った。
だが、俺は、そのキノコを手に取ると、静かにお湯に浸した。

数分後。
奇跡が、起きた。
石ころのようだったキノコが、まるで花が開くように、元の瑞々しい姿を取り戻していく。
そして、厨房に、これまで誰も嗅いだことのないような、深く、気高く、そして、どこか懐かしい、北の国の、針葉樹の森の香りが、ふわりと立ち上ったのだ。

「……なんだ、この香りは……」
バスティアンが、息を呑む。

「これですよ、バスティアン様。これこそが、彼らの『故郷の魂』の味だ」

俺は、戻した氷晶茸を、細かく刻み、豚肉とキャベツの餡(あん)に、丁寧に混ぜ込んでいく。
そして、こね上げた生地を、一つ一つ、丸く伸ばし、その餡を、優しく、優しく、包み込んでいった。
それは、もはや単なる調理ではなかった。
凍てついた相手の心に、「あなたの故郷に、敬意を」という、温かいメッセージを、一皿に込める、神聖な儀式だった。

「……おい、お前たち!」
バスティ-アンが、若い料理人たちに、檄を飛ばした。
「ぼさっと見ていないで、手を貸さんか! 最高の一皿を、我々の手で、作り上げるのだ!」

その声は、もう、嫉妬や絶望の色ではなかった。
一人の料理人として、純粋な、熱い情熱の色を、取り戻していた。

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