異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第28話 嵐の夜の百人前と、竜窯(りゅうがま)のピッツァ (28-1)

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カステラの優しい甘さが、街の人々の心を癒した数日後のこと。
港町は、記録的な大嵐に見舞われていた。
空は墨を流したように暗く、海は牙を剥いた獣のように荒れ狂い、人々は家に閉じこもり、ただ嵐が過ぎ去るのを祈るしかなかった。

そんな、夜。
『木漏れ日の食卓亭』の分厚い扉が、まるで破壊されるかのように、激しく叩かれた。
俺が慌てて扉を開けると、そこには、ずぶ濡れになった屈強な船乗りたちが、松明(たいまつ)の火を頼りに、ずらりと並んでいた。
そして、その先頭に立っていたのは。
濡れた黒髪をなびかせ、その美しい顔に、獰猛(どうもう)な笑みを浮かべた、一人の女性だった。

巨大な竜の船首を持つ、勇壮な商船団『海竜の牙』。それを率いるのは、『女海賊』の異名で、七つの海にその名を轟かせる、豪快で美しき女船長、キャプテン・イソラ。
彼女は、緊急避難のために、その巨大な船団ごと、この港へと入港してきたのだ。

「あんたが、この店の主かい?」
イソラは、濡れたコートを翻し、ずかずかと店の中に入ってきた。その歩き方は、女王のように、威厳に満ちている。
「いいかい、話は短い。あたしの可愛い船乗りたちが、この嵐で、腹を空かせて凍えている。今夜、この百人の腹と心を満たす、最高の宴会料理を用意しな!」

「……ひゃ、百人前!?」

その、あまりにも無茶な要求に、厨房から顔を出したレオたち弟子は、息を呑んだ。
しかも、彼女は続けた。
「時間は、二時間だ。もし、あたしたちを満足させられなかったら……。ふふっ、この店がどうなるか、分かりゃしないよ?」

それは、もはや依頼ではない。脅迫だった。
「む、無理です! 百人前の宴会料理を、たった二時間でなんて、絶対に不可能です!」
レオが、真っ青な顔で叫んだ。王都の厨房で、伝統的なコース料理を学んできた彼にとって、それは常識では考えられないことだった。
「一人一人に最高の料理を提供するには、どんなに急いでも、最低でも三日は必要です!」

他の弟子たちも、絶望的な表情で、ただ震えている。
だが、俺は。
この、絶望的な状況を、ニヤリと笑って、見つめていた。
これこそが、この生まれたばかりのチームを、本物の「家族」にするための、最高の試練だ。

「……面白い。その挑戦、受けましょう」
俺の言葉に、レオたちが「日向さん!?」と悲鳴のような声を上げる。
イソラは、満足そうに、口の端を吊り上げた。
「威勢のいいこった。気に入ったよ。せいぜい、あたしたちを、楽しませてみな!」

嵐が、窓ガラスを叩きつける。
絶望的な状況の中、俺は、弟子たちに向き直った。
「いいか、お前たち。確かに、百人前のコース料理を作るのは不可能だ。だが、百人前の『祭り』を、この厨房で起こすことはできる」

俺は、厨房の奥にある、忘れ去られたように、埃をかぶっていた、巨大な石窯(いしがま)を指差した。
パンを焼くためだけに使われていた、この宿屋の、眠れる心臓部。
その巨大な口は、まるで、竜の顎(あぎと)のようだった。

「今から、この『竜窯(りゅうがま)』に、火を入れる。そして、俺たちの、最高の宴会を、始めるぞ!」

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