異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第28話 嵐の夜の百人前と、竜窯(りゅうがま)のピッツァ (28-2)

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厨房は、戦場と化していた。
絶望的な時間の中、弟子たちは、ただ呆然と立ち尽くしている。

「日向さん! いったい、何を作るというのですか! この窯で、百人前の肉を焼くのですか!? それでは、時間が……!」
レオが、悲痛な声で叫ぶ。

「レオ。お前は、料理は、貴族のためだけにあると思っていたな?」
俺は、巨大な木のボウルで、小麦粉をこねながら、静かに言った。
「今から作る『ピッツァ』という料理の、本当の物語を教えてやる」

俺は、弟子たちに檄を飛ばすように、語り始めた。
「ピッツァっていうのはね、元々は、俺の世界のある港町で、貧しい人々が、小麦粉を練って、平たく焼いただけの、**『腹を満たすためのパン』**だったんだ。それが、ある時、その土地を訪れた女王様の目に留まった」

「女王……?」
「そうだ。女王様は、豪華な宮廷料理に飽き飽きしていた。そんな彼女のために、一人のピッツァ職人が、国の旗の色である、**赤(トマト)、白(チーズ)、緑(ハーブ)**の三色で飾った、シンプルなピッツァを献上したんだ。女王は、その素朴で、しかし心のこもった味に、いたく感動した。そして、そのピッツァには、女王の名である**『マルゲリータ』**という名が与えられた」

俺は、こね上げた生地を、力強く叩きつけた。
「いいか、よく聞け! **『庶民の料理が、女王を感動させた』**んだ! 料理人の誇りとは、高価な食材を使うことじゃない! 目の前にある食材で、食べる相手を、どれだけ感動させられるかなんだよ! 今夜、俺たちは、あの海の女王に、俺たちの魂を、食わせてやるんだ!」

俺の言葉に、弟子たちの目に、諦めではない、熱い光が灯り始めた。

「さあ、始めるぞ! これは、戦争だ!」
俺の号令で、厨房が一斉に動き出す。
「レオ! お前は、生地を練り続けろ! 百人分だ、気合を入れろ!」
「はい!」
「お前たちは、ソース作りだ! 鍋が焦げ付かないように、絶対に目を離すな!」
「はい!」
「そして、お前たちは、具材を切り続けろ! 指を落とすなよ!」
「はい!」

俺は、オーケストラの指揮者のように、弟子たち一人一人に、的確な指示を飛ばしていく。
厨房は、熱気と、怒号と、そして、不思議な一体感に包まれていった。

だが、最高のピッツァには、最高のトマトソースが不可欠だった。
この嵐では、新鮮な果実など、手に入るはずもない。

「きゅいいいん!」

その時だった。
厨房の裏口から、ずぶ濡れのモグモグが、その口に、燃えるように真っ赤な、不思議な果実を咥えて、帰ってきたのだ。
それは、竜窯の、屋根のすぐそば。その地熱だけで育つという、幻の果実**『竜心(りゅうしん)トマト』**。
信じられないほど濃厚な旨味と、燃えるような赤い色を持つ、奇跡のトマト。

「……ははっ。最高の相棒が、最高の『心臓』を、届けてくれたみたいだな!」

俺は、そのトマトで、究極のソースを作り上げた。
窯の火が、ゴーッという雄叫びを上げて、燃え盛る。
さあ、宴の始まりだ。
俺たちの、魂を焼き付ける、最高に熱い祭りが、今、始まる。

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