異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第30話 苦くなった蜂蜜と、女王様のバクラヴァ (30-1)

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クラウスさんのパン屋に、再び温かいパンの香りが戻ってきた頃。
街に、新たな、そして静かな異変が訪れていた。
この街の特産品であり、子供から大人まで、皆に愛されていた**『虹色の蜂蜜』**が、ある日を境に、**薬のように苦く、黒く濁ってしまった**のだ。

パンに塗っても、紅茶に入れても、顔をしかめるほどの苦さ。
蜂蜜を採る『虹色蜂』たちも、元気をなくし、巣からほとんど出てこなくなってしまったという。
街の養蜂家(ようほうか)たちは、原因も分からず、ただ頭を抱えるばかりだった。

「日向さん、どうしちゃったんだろう……。あんなに美味しかった蜂蜜が、一晩でこんなになるなんて……」
リリィアが、黒く濁った蜂蜜の瓶を、悲しそうに見つめている。

厨房では、弟子たちが、その異変を巡って議論を交わしていた。
「何かの病気だろうか?」
「いや、誰かが巣に毒でも入れたんじゃ……」

その中で、俺は、静かに決意を固めていた。
これこそが、あの若き獅子たちに、「本物の料理人」への道を示す、最高の機会だと。

「お前たち、全員、準備をしろ」
俺の、静かだが、有無を言わせぬ声に、弟子たちが、はっと顔を上げる。
「今から、虹色蜂の巣があるという、森の奥深くへ、調査に向かう」

「調査、ですか?」
一番弟子のレオが、訝しげな顔で尋ねる。
「我々は、料理人です。森の調査など、専門外では?」

「レオ。お前は、まだ分かっていない」
俺は、彼の目を、真っ直ぐに見つめ返した。
「俺たちは、ただ食材を調理するだけの、作業員じゃない。**食材が、どんな場所で、どんな物語を経て、俺たちの厨房に届くのか。その源流までを知り、敬意を払うこと。**それこそが、最高の料理人への、第一歩なんだ。今日は、お前たちに、そのことを、体で覚えてもらう」

俺の言葉に、弟子たちの目に、緊張と、そして、新しい学びへの期待の光が灯った。

俺と、十数人の弟子たち、そしてもちろん、最高の案内人であるモグモグは、虹色蜂の巣があるという、森の奥深くへと、足を踏み入れた。
数時間後、たどり着いたその場所で、俺たちは、息を呑んだ。

かつては、色とりどりの、魔法のような花々が咲き乱れていたという、美しい谷。
その花畑が、まるで生命力を吸い取られたかのように、広範囲にわたって、枯れ果てていたのだ。
蜂たちも、力なく巣の周りを飛ぶだけで、蜜を集める元気もない。

「……ひどい……。これじゃあ、蜂たちも、病気になるはずだ……」
弟子の一人が、悲痛な声を上げる。

「ああ。問題は、蜂蜜じゃない。この森そのものが、病んでいるんだ」

俺たちが、原因を探して、枯れた花畑を調べていると。
「きゅい! きゅい!」
モグモグが、何かを見つけて、俺のズボンの裾を引っ張った。
彼が指し示す先には、見たこともない、黒くて、不気味な蔓(つる)植物が、大地に深く根を張り、他の植物の養分を、根こそぎ吸い取っているようだった。

「……こいつか。この森の、生態系のバランスを崩している、元凶は」

俺は、その蔓を、力強く引き抜いた。
さあ、冒険の始まりだ。
料理人たちの、森を救うための、奇妙で、しかし、最高に熱い戦いが、今、始まろうとしていた。

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