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第38話 英雄の帰還と、思い出の宝石箱(ちらし寿司) (38-3)
しおりを挟む宴の時間は、来た。
食堂の中央に置かれた、巨大な木の桶(おけ)に、俺たちが作った、ちらし寿司が、その全貌を現した瞬間。
「おおおおおおっ!」という、地鳴りのような歓声が、食堂全体を、揺るがした。
月光樹の香りがする、美しいシャリの上には、色とりどりの具材が、それこそ、宝石箱をひっくり返したかのように、キラキラと、輝きながら、散りばめられている。
ルビーのように輝く、自家製のイクラ。
ドワーフの国の、力強い土の香りがする、岩盤茸の甘辛煮。
港町の、新鮮な海の幸。
そして、弟子たちが、心を込めて刻んだ、錦糸卵の、黄金色の輝き。
それは、もはや単なるちらし寿司ではない。
俺たちの、長く、厳しい冒険の物語を、そのまま絵にしたような、**「食べる冒険譚」**だった。
人々は、我を忘れたように、その宝石箱を、自分の皿へと取り分けていく。
そして、一口。
「……うまいっ!」
「なんだこりゃあ! 海の味と、山の味が、口の中で、最高の踊りを踊ってるぜ!」
「ああ……。俺たちの街の、誇りの味だ……!」
食堂は、人々の、幸せそうな笑顔で、満ち溢れていた。
リリィアが、俺の隣で、嬉しそうに、ちらし寿司を頬張っている。
その視線の先には、レオの姿があった。
「レオさん! この、キノコ、すっごく美味しいです!」
「……っ! あ、ああ。そうだろう。あれは、俺が、師匠に教わった、特別な調理法で……」
レオは、リリィアに話しかけられ、顔を真っ赤にしながら、しどろもどろになっている。
その姿は、もう、王都から来た、プライドの高い青年ではない。
この宿屋の、少し不器用で、でも、心優しい、新しい「家族」の顔だった。
俺は、そんな、温かい光景を、ただ、静かに見つめていた。
厨房の隅では、モグモグが、満足そうに、尻尾を揺らしている。
俺が、この世界に来てから、ずっと探し求めていたもの。
それは、伝説の食材でも、最高の料理人という名声でもない。
この、何でもない、温かくて、最高に愛おしい、食卓の風景だったのだ。
俺は、心の底から、思った。
(ああ、ただいま。俺の、本当の家に)
俺と、新しい家族たちの、物語は、まだ、始まったばかりだ。
この、世界で一番温かい食卓で、これからも、たくさんの「美味しい」を、紡いでいくのだ。
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