異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第38話 幕間・少女の宝石箱

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食堂が、笑い声で、揺れている。
こんなにも、この場所が、人でいっぱいになったのは、いつ以来だろう。
私、リリィアは、カウンターの隅から、その、夢のような光景を、ただ、ぼんやりと眺めていた。

おかえりなさい、日向さん。

数ヶ月ぶりに会った彼は、少しだけ、日に焼けて、精悍な顔つきになっていた。
でも、その笑顔は、昔と少しも変わらない。
私の心を、いともたやすく、陽だまりのように温めてくれる、あの優しい笑顔のままだった。

(……でも、やっぱり、少しだけ、遠くなった、気もする)

彼の周りには、新しい仲間たちがいた。
レオさんをはじめとする、お弟子さんたち。
彼らは、日向さんを、ただの「料理人」としてではない。「師匠」として、尊敬と、信頼の眼差しで見つめている。
ドワーフのボルギンさんとも、まるで旧知の友のように、楽しげに言葉を交わしている。

嬉しい。
心の底から、嬉しい。
日向さんが、遠い場所で、こんなにも素晴らしい仲間たちと出会い、そして、英雄になって帰ってきてくれたことが。

でも、ほんの少しだけ。
ほんの、ほんの少しだけ、胸の奥が、チクリと痛んだ。
もう、彼は、この小さな宿屋だけの、私だけの、日向さんでは、なくなってしまったんだな、って。

そんな、私の、小さな、小さな感傷を、吹き飛ばしてくれたのは。
やっぱり、彼が作った、あの料理だった。

『思い出の宝石箱(ちらし寿司)』。

巨大な桶に盛られた、あの、キラキラと輝くお寿司。
それは、ただ綺麗なだけじゃなかった。
一口、食べた瞬間。
私の知らない、ドワーフの国の、ゴツゴツとした岩の味や、厳しい峠を越えた時の、風の味がした。
そして、その奥に、確かに、この港町の、懐かしい潮の香りがした。

ああ、そうか。
日向さんは、この一皿で、教えてくれようとしていたんだ。
新しい仲間たちに、「ここが、君たちの、新しい故郷だよ」って。
そして、私や、お母さんや、街の皆に、「遠くへ行っても、俺の心は、いつも、この街と共にあるよ」って。

気づけば、私は、レオさんの隣に立っていた。
最初は、王都から来たっていう、その自信に満ちた姿に、少しだけ、緊張していた。
でも、彼が、少し照れくさそうに、「このキノコは、俺が、師匠に教わった技術で作ったんだ」と、説明してくれた時。
彼の瞳が、日向さんに向ける、純粋な尊敬の光で、キラキラと輝いているのを見て。
私は、もう、大丈夫だって、思った。

この人たちは、日向さんを、遠くへ連れて行ってしまう人じゃない。
この『木漏れ日の食卓亭』という、私たちの温かい食卓を、もっと、もっと、大きくて、賑やかなものにするために、日向さんが連れてきてくれた、新しい「家族」なんだ、って。

私は、空になったお皿を持っていたレオさんに、満面の笑みで、言った。
「レオさん! おかわり、いかがですか? デザートに、とっておきのプリンも、ありますよ!」

私の言葉に、彼は、一瞬、驚いたような顔をした後、顔を真っ赤にしながら、こくりと、頷いた。
その顔は、もう、王都の天才料理人なんかじゃない。
少し不器用で、でも、心優しい、私たちの、新しい仲間の一人の顔だった。

ありがとう、日向さん。
そして、おかえりなさい。
私たちの、新しい家族の食卓へ。
これからも、この場所で、たくさんの「美味しい」を、一緒に、紡いでいこうね。
私は、心の中で、そっと、そう呟いた。
その声は、きっと、厨房で笑っている、彼にも、届いているはずだから。
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