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第42話 聖なる守護獣と、虹色のバーニャカウダー (42-2)
しおりを挟む長老たちの、疑いと侮蔑の視線を背中に浴びながら、俺はモグモグと共に、グリフォンの巣へと続く大樹を登っていった。蔦が絡まる天然の螺旋階段は、まるで天へと続くかのようだ。登るにつれ、グリフォンの苦しげな唸り声と、そして、腐敗したような、微かな異臭が強くなっていく。
巣にたどり着くと、そこには親である二頭のグリフォンが、翼で何かを必死に庇うようにして、俺たちを威嚇していた。その瞳には、敵意よりも深い、悲しみと疲労の色が浮かんでいる。
「きゅい!」
モグモグが、俺の肩から飛び降りると、ためらうことなくグリフォンの足元へと歩み寄った。「きゅんきゅん」と、何かを問いかけるように鳴き始める。グリフォンも最初は警戒していたが、モグモグが発する不思議なオーラに気づいたのか、「グルゥ……」と、モグモグに応えるように、悲しげな声を返した。モグモグは時折こちらを振り返り、悲しげな顔で鳴く。俺には、彼の伝えたいイメージが、断片的に伝わってきた。枯れてしまった薬草畑の光景。そして、どんどん冷たくなっていく、小さな温もりの感覚。
しばらくして、モグモグが俺の元へと戻ってきた。そして、悲しそうに首を横に振り、巣の中心を前足で指し示した。親鳥が、おずおずと翼をどけると、そこには、ぐったりと横たわる、一羽の雛鳥がいた。その小さな体は熱っぽく、浅い呼吸を繰り返している。
「……そうか」
俺は全てを理解した。彼らは、凶暴化しているのではない。病に苦しみ、日に日に弱っていく我が子を、ただ必死に守っていただけなのだ。原因は、森の病によって、彼らが体内の穢れを浄化するために食べていた特別な薬草が、枯れてしまったことだった。
里に戻った俺は、長老たちに真実を告げ、厨房を借り受けた。
「衰弱した雛鳥は、もう肉を食べられません。彼に必要なのは、穢れを浄化し、生命力を直接与える野菜料理です」
俺が調理台に並べたのは、ニンニクと、この世界のアンチョビ、そして上質な油だけ。レオが「これだけで、一体何を…」と訝しむ中、俺は集まったエルフたちに語り始めた。
「今から作る『バーニャカウダ』は、火を使う人間の『知恵』と、ありのままの自然の『恵み』が、一つの皿の上で手を取り合う、最高の『調和』の形です」
俺は、穏やかな火で、ニンニクの香りを油にゆっくりと移していく。エルフたちが眉をひそめる中、俺は続けた。
「これは、破壊ではありません。素材の生命力を『活性化』させるための、優しい呼び水。厳しい冬、人々がなけなしの野菜を持ち寄り、一つの温かいソースを囲んで分け合った『団結』の料理でもあるのです」
その言葉に、エルフたちの間に、微かな動揺が走る。
だが、肝心の野菜がない。
「きゅいん!」
その時だった。森を駆け回っていたモグモグが、まだ病に侵されていない瑞々しい**『虹の根菜』**を、誇らしげに咥えて帰ってきたのだ。さらに、枯れかけた薬草の中から、まだ生命力が残っている新芽も見つけ出してきた。
俺は、その新芽をソースに溶かし込む。
厨房に、ニンニクの香ばしさと、薬草の清らかな香りが、奇跡のように溶け合った。それは、新しい生命の誕生を祝福する、温かい祈りの香りだった。
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