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第42話 聖なる守護獣と、虹色のバーニャカウダー (42-1)
しおりを挟むエルフの使者リラに導かれ、俺たちがたどり着いたエルフの王国『アルヴェンハイム』は、人の理を超えた美しさに満ちていた。天を突くほどの巨木が陽光を緑色のレースのように編み込み、苔むした大地には水晶の如き小川が竪琴のような音色を奏でる。空気そのものが、生命の輝き…エルフたちが言うところの『マナ』で満ちているのが肌で感じられた。
だが、その完璧な美しさの中に、俺は微かな不協和音を感じ取っていた。木々の葉の色が、どこか精彩を欠いている。流れる水の音に、以前リラから感じたような力強さがない。鳥のさえずりさえも聞こえない、静寂が支配する森。それは、静けさというよりも、生命の活力が失われた「沈黙」に近かった。森全体が、静かに、そして深く病んでいる。それが、この光景の裏に隠された悲しい真実だった。
「こちらです、日向様」
リラが案内してくれた里の中心部は、張り詰めた空気に支配されていた。神殿を思わせる広場に集うエルフたちは、皆、銀の髪を編み上げ、美しい彫刻が施された弓や槍を手入れしている。その厳しい視線の先にあるのは、里を見下ろす一際大きな樹の上に作られた巣。そこには、この森の守護獣であるはずの、聖なるグリフォンの姿があった。
「グルオオオオォォッ!」
鷲の頭と翼、獅子の胴体を持つ、あまりにも気高い獣。だが、その声は気高さとは程遠く、苦痛に満ちた威嚇の咆哮だった。その翼は傷つき、かつて陽光を浴びて輝いていたはずの黄金の毛並みも、ところどころ色褪せ、見るからに生気を失っている。
「ご覧の通りです、人間よ」
俺たちを出迎えた、エルフの長老の一人…その名をロルエンという…が、忌々しげに吐き捨てた。その目は、俺たち人間を明確に見下している。「火を弄び、自然の命を捻じ曲げるお主たちには分からんだろうが、この森は調和で成り立っている。だが、数ヶ月前から、我らの守護獣は心を失い、荒ぶる獣と成り果てた。森の病は、あの獣がもたらした穢れに違いあるまい。我らも、これ以上は待てぬ。やむを得んが、討伐隊を編成し、森の浄化を行う」
「お待ちください、長老!」
リラが、悲痛な声を上げる。「グリフォンは、何百年もこの森を守ってきた、我らの友です! 彼が、森を傷つけるはずなどありません!」
だが、長老たちの決意は、氷のように固かった。
一番弟子のレオが、俺の隣で「なんと傲慢な…!話も聞かずに決めつけるなど!」と憤りを露わにするが、俺はそれを手で制した。この、張り詰めた空気。それは、王都の外交の場にも似ていたが、もっと根源的で、変えがたい価値観の壁を感じさせた。
俺は、静かに一歩前に出た。
「長老様。どうか、半日だけ、私に時間をいただけないでしょうか。あなた方が森の声を聴くように、私もまた、食材の声を聞く者。あの気高き獣が発しているのは、怒りの声ではない。苦しみと、悲しみの声です。剣を抜く前に、まず、その声の本当の意味を知るべきではないでしょうか」
ロルエンは、わしの言葉に鼻で笑った。「対話だと? 人間よ、獣の言葉が分からるとでも言うのか」
「ええ」
俺は、肩の上で心配そうにしていた相棒を見つめた。「私の、最高の通訳が、おりますので」
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