異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

文字の大きさ
165 / 293

第42話 聖なる守護獣と、虹色のバーニャカウダー (42-1)

しおりを挟む

エルフの使者リラに導かれ、俺たちがたどり着いたエルフの王国『アルヴェンハイム』は、人の理を超えた美しさに満ちていた。天を突くほどの巨木が陽光を緑色のレースのように編み込み、苔むした大地には水晶の如き小川が竪琴のような音色を奏でる。空気そのものが、生命の輝き…エルフたちが言うところの『マナ』で満ちているのが肌で感じられた。

だが、その完璧な美しさの中に、俺は微かな不協和音を感じ取っていた。木々の葉の色が、どこか精彩を欠いている。流れる水の音に、以前リラから感じたような力強さがない。鳥のさえずりさえも聞こえない、静寂が支配する森。それは、静けさというよりも、生命の活力が失われた「沈黙」に近かった。森全体が、静かに、そして深く病んでいる。それが、この光景の裏に隠された悲しい真実だった。

「こちらです、日向様」

リラが案内してくれた里の中心部は、張り詰めた空気に支配されていた。神殿を思わせる広場に集うエルフたちは、皆、銀の髪を編み上げ、美しい彫刻が施された弓や槍を手入れしている。その厳しい視線の先にあるのは、里を見下ろす一際大きな樹の上に作られた巣。そこには、この森の守護獣であるはずの、聖なるグリフォンの姿があった。

「グルオオオオォォッ!」

鷲の頭と翼、獅子の胴体を持つ、あまりにも気高い獣。だが、その声は気高さとは程遠く、苦痛に満ちた威嚇の咆哮だった。その翼は傷つき、かつて陽光を浴びて輝いていたはずの黄金の毛並みも、ところどころ色褪せ、見るからに生気を失っている。

「ご覧の通りです、人間よ」
俺たちを出迎えた、エルフの長老の一人…その名をロルエンという…が、忌々しげに吐き捨てた。その目は、俺たち人間を明確に見下している。「火を弄び、自然の命を捻じ曲げるお主たちには分からんだろうが、この森は調和で成り立っている。だが、数ヶ月前から、我らの守護獣は心を失い、荒ぶる獣と成り果てた。森の病は、あの獣がもたらした穢れに違いあるまい。我らも、これ以上は待てぬ。やむを得んが、討伐隊を編成し、森の浄化を行う」
「お待ちください、長老!」
リラが、悲痛な声を上げる。「グリフォンは、何百年もこの森を守ってきた、我らの友です! 彼が、森を傷つけるはずなどありません!」

だが、長老たちの決意は、氷のように固かった。
一番弟子のレオが、俺の隣で「なんと傲慢な…!話も聞かずに決めつけるなど!」と憤りを露わにするが、俺はそれを手で制した。この、張り詰めた空気。それは、王都の外交の場にも似ていたが、もっと根源的で、変えがたい価値観の壁を感じさせた。

俺は、静かに一歩前に出た。
「長老様。どうか、半日だけ、私に時間をいただけないでしょうか。あなた方が森の声を聴くように、私もまた、食材の声を聞く者。あの気高き獣が発しているのは、怒りの声ではない。苦しみと、悲しみの声です。剣を抜く前に、まず、その声の本当の意味を知るべきではないでしょうか」
ロルエンは、わしの言葉に鼻で笑った。「対話だと? 人間よ、獣の言葉が分からるとでも言うのか」
「ええ」
俺は、肩の上で心配そうにしていた相棒を見つめた。「私の、最高の通訳が、おりますので」

---
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになっています。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...