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第59話 はにかみ少女と、恋心のマカロン (59-3)
しおりを挟む夕焼け色の生地を、レオは、リリィアの手を取りながら、天板の上に、一つ一つ、丁寧に絞り出していく。そして、宿屋の窯の、穏やかな熱で、絶妙な火加減で焼き上げる。
やがて、厨房は、アーモンドと砂糖が焼ける、甘く、そして、どこか切ない、夕暮れのような香りに満たされた。
焼きあがったマカロンの生地…コックは、ふっくらと膨らみ、美しい艶と、繊細な「ピエ」(生地の縁のギザギザした部分)ができていた。完璧な出来栄えだった。
「…すごい…」
リリィアが、感嘆の声を漏らす。
二人は、そのコックの間に、この街で採れた柑橘の果汁を少しだけ加えた、爽やかなクリームを挟んでいく。その共同作業は、どこか、ぎこちなく、しかし、二人だけの、温かい空気に満ちていた。
完成した、夕焼け色のマカロン。それは、まるで、小さな宝石のようだった。
「…味見、してみろよ」
レオが、照れくさそうに、その一つをリリィアに差し出した。
リリィアは、おそるおそる、それを受け取り、一口、口に運んだ。
サクッ、という軽やかな歯触り。しっとりと、そして、もちもちとした、独特の食感。そして、口の中に広がる、アーモンドの香ばしさと、クリームの優しい甘み。
だが、彼女が味わったのは、それだけではなかった。これは、ただ美味しいだけの菓子ではない。食べる人物の主観的な「体験」としての奇跡が、彼女の内面で起きていた。
(…この、きれいな夕焼け色は、わたしが、毎日お水をあげていた、あのお花の色…。この、完璧な形は、レオさんが、優しく教えてくれた、技術の結晶…)
彼女は、自分の手で、こんなにも美しくて、美味しいものを、生み出すことができたのだ。その事実が、彼女の心の、一番奥深くを、温かい光で、満たしていった。
パーティーの当日。
リリィアは、少しだけおめかしをして、手作りのマカロンが詰まった箱を、大切そうに抱えていた。店のホールに下りてきた彼女の姿を見て、俺もベアトリスも、息を呑んだ。
彼女の顔にはもう、不安や、劣等感の色はない。ただ、穏やかで、自信に満ちた、これまで見たことがないほど美しい笑顔だけが、そこにあった。
「…行ってくるね、日向さん、お母さん」
「ああ。いってらっしゃい」
俺は、そんな彼女の後ろ姿を、そして、その隣で、少しだけぎこちなく、しかし、誇らしげに彼女をエスコートする、一番弟子の姿を、ただ、静かに見守っていた。
その日のパーティーで、リリィアが持参した、素朴で、しかし、心のこもった夕焼け色のマカロンが、どんな高価な菓子よりも、人々を笑顔にしたという。
そして、一人の少女が、自分の手で、自分の物語を、見つけ出した、記念すべき一日となったのだった。
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