異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第62話 瓶詰めの奇跡と、南海の宴 (62-1)

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あれから、三日が過ぎた。
その三日間、南の島は、奇妙な静寂に包まれていた。人々は、神殿で祈りを捧げる長老たちに倣い、息を潜めるようにして、ただ、その時が来るのを待っていた。広場の中央に置かれた、あの石造りの食料貯蔵庫。その暗闇の中で、今、この島の運命を賭けた、静かな戦いが繰り広げられているのだ。

そして、運命の日の朝。
貯蔵庫の前には、キャプテン・マードックをはじめ、島の全ての民が集まっていた。彼らの顔には、期待よりも、むしろ、これから目の当たりにするであろう絶望への、諦めに似た覚悟の色が浮かんでいる。
「…開けてくれ」
一番年嵩の長老が、かすれた声で言った。
マードックが、数人がかりで、重い石の扉を、ゆっくりと開けていく。

ギイイイイイィィィ…。

扉が開いた瞬間。これまでとは比べ物にならないほど、強烈な腐敗臭が、まるで黒い悪魔のように、外へと溢れ出した。人々は、思わず後ずさり、鼻と口を押さえる。
貯蔵庫の中は、地獄だった。この三日間で、赤黒いカビは、さらにその勢力を増し、壁という壁、天井という天井を、禍々しい絨毯のように覆い尽くしている。かつて保存食だったものは、もはや原型を留めておらず、ただの、ぬめりを帯びた黒い塊と化していた。

「…ああ…。やはり、ダメだったか…」
誰かが、力なく呟いた。長老たちは、天を仰ぎ、その目に、深い絶望の色を浮かべる。
だが、その時だった。

「…見ろ!」
一番弟子のレオが、震える声で、貯蔵庫の奥を指差した。
その、絶望の闇の、ただ一点。
日向 耕介が置いた、あの、小さなガラス瓶だけが、まるで、暗闇に灯された、たった一つの蝋燭の光のように、静かに、そこにあった。
瓶の周りでは、赤黒いカビが、まるでそれを避けるかのように、不気味な円を描いている。だが、瓶の内側。黄金色の油に満たされた、その清浄な聖域の中では、小魚たちが、一点の曇りもなく、美しい姿を保っていたのだ。

その、あまりにも非現実的な光景に、島の民たちは、言葉を失った。
呪いが、この瓶だけを、避けている…?
いや、違う。
「…すごい…」
マードックが、ただ、呆然と呟いた。「旦那の言った通りだ…。ガラスの鎧が、呪いを、完全に弾き返してやがる…!」

俺は、静かに、その瓶を手に取った。ひんやりとしたガラスの感触。その中では、俺たちの世界の「科学」という名の知恵が、この世界の「呪い」から、か弱い食材の命を、確かに守り抜いていた。
「さあ、皆さん」
俺は、集まった人々の、信じられないものを見る目に向かって、にっこりと、笑ってみせた。
「実験は、成功です。これから、この勝利を祝う、最高の宴を始めましょう」

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