異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第68話 魔法都市と、天空のスフレ (68-1)

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静寂の修道院で老学者エドワードの魂を救い、次なる目的地への地図を手に入れてから、俺たちは一度港町へと帰還した。短い休息と入念な旅の準備。そして仲間たちの温かい見送りを受けて、俺と一番弟子のレオ、そして最高の相棒モグモグは、前人未到の新しい冒険へと旅立った。

目指すは、エドワードがその著作の最後の一章に記した、古代の**『魔法都市アエルソス』**。地図によれば、それは西の大陸のさらに中央に位置する、巨大な山脈の頂にあるという。
何週間にも及ぶ厳しい旅路だった。だが、修道院での「静寂の修行」を経て、レオは見違えるほどにたくましくなっていた。彼はただ技術を磨くだけではない。旅の途中で出会う名もなきハーブの香りや、岩清水の澄んだ味わいに静かに耳を傾け、その本質を理解しようと努めていた。彼の料理人としての魂は、今、新しいステージへと確かに進化しつつあった。

そして、ついに俺たちはその場所にたどり着いた。
「…すごい…」
レオが息を呑む。目の前に広がるのは、まさに奇跡の光景だった。
山脈の頂にぽっかりと空いた巨大なカルデラ。その内側にアエルソスは存在した。街全体が淡い光を放つ巨大な水晶のドームに覆われ、内部は常に春のように穏やかな気候に保たれている。街を走るのは馬ではなく魔力で動くゴーレム。道端にはゴミ一つ落ちておらず、全てが寸分の狂いもない、完璧な幾何学模様で設計されていた。
「なんて、効率的なんだ…!」
レオの瞳が、感嘆と、そしてほんの少しの憧れにきらめいていた。彼の技術を重んじる職人気質が、この完璧なまでの合理主義の楽園に、強く惹きつけられているのが分かった。

街を治めるという大賢者に謁見するため、俺たちは中央にそびえる水晶の塔へと案内された。そこで、俺たちはこの街のもう一つの驚異を目の当たりにする。
昼食の時間になったのだろう。街の魔法使いたちは食堂に集まるのではない。ただ、壁に設置された配給口から、一人一つ、小さな銀色の錠剤を受け取るだけだった。
「…あれは?」
レオが案内役の若い魔法使いに尋ねる。
「**『魔力タブレット』**です。これ一粒で、一日の活動に必要なマナと栄養素を完璧に摂取できます。食事という非合理的な時間と手間を完全に排除した、我々の偉大な発明ですよ」

その誇らしげな言葉に、レオは再び感嘆の声を漏らした。だが、その足元で、俺の相棒モグモグが、配給された『魔力タブレット』の匂いをふんふんと嗅ぐと、ぷいっと顔を背け、「きゅううん…」と、今まで聞いたことがないほど、悲しくて寂しそうな声で鳴いた。レオは感嘆し、俺は危惧する。だが、モグモグは、その本能で、ただ一瞬で、この錠剤が「いのちのない、にせものだ」と見抜いていたのだ。

俺は、気づいていた。この完璧な楽園に漂う、微かな、しかし深刻な不協和音に。
街には、活気がない。人々は黙々とそれぞれの研究に没頭しているだけ。俺が、すれ違う魔法使いたちに軽く会釈をしても、彼らは俺のことなどまるで存在しないかのように、その視線を通り過ぎさせてしまう。彼らの目には、好奇心も、喜びも、怒りさえもない。ただ、虚ろな、ガラス玉のような光しか宿っていなかったのだ。

レオもまた、その違和感に気づき始めていた。
「師匠…。この街は、完璧です。完璧すぎる…。なのに、なぜでしょう。俺は今、無性に、ギルさんの、あの豪快な笑い声と、クラウスさんの、あの頑固な顔が、恋しくてたまらない…」
彼は、師である俺が常に説いてきた「食事がもたらす温かさ」の意味を、この、あまりにも完璧で、あまりにも冷たい楽園の中で、これまでにないほど痛感することになる。
この街には全てがある。だが、たった一つだけ、決定的に欠けているものがあった。

それは、**「心」**だった。
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