異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第1話 はじめてのまかない~心温まる異世界のシチュー~ (1-3)

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「なんだ、この匂いは……」

食堂の隅で一人、エールを呷っていた屈強な冒険者が、思わずといった様子で呟いた。その声に、他の客たちも次々と顔を上げ、鼻をくんくんと鳴らし始める。

「おいおい、ベアトリスの婆さんが作るメシとは、まるで違う匂いだぜ」
「ああ……なんだか、腹の底から力が湧いてくるような……」

客たちのざわめきが、波のように広がっていく。リリィアは期待に満ちた目で厨房の入り口を見つめ、ベアトリスでさえ、腕組みをしながらも、その視線は鍋が置かれたカマドに注がれていた。

やがて、俺は木のトレイに深皿をいくつか乗せて、食堂へと姿を現した。

「お待たせしました。今夜のまかない、『心まで温まる肉シチュー』です」

俺がテーブルに皿を置くと、客たちはゴクリと喉を鳴らした。
見た目は、彼らが普段食べているシチューと大差ない。だが、立ち上る湯気から香る匂いの豊かさは、全くの別物だった。干し肉と野菜がじっくり煮込まれた深いコクのある香りに、モグモグが見つけてくれた岩塩のミネラル豊かな香りが、絶妙な調和を生み出している。

「……本当に、俺たちが食っていいのか?」

冒険者の一人が、おずおずと尋ねた。

「もちろんです。皆さんのために作りましたから。さあ、温かいうちにどうぞ」

俺がにっこりと微笑むと、彼らは弾かれたようにスプーンを手に取った。
そして、最初の一口を、口に運ぶ。

――その瞬間、食堂から全ての音が消えた。

誰もが、目を見開いたまま動きを止め、自らの舌の上で起きている奇跡を、ただ懸命に味わっていた。

「……う……まい……」

最初に声を発したのは、一番強面だった冒険者だった。その目には、うっすらと涙さえ浮かんでいる。

「なんだこりゃあ……! 硬かったはずの肉が、口の中でとろける……!」
「野菜の甘みが、体に染み渡るようだ……!」

次々と上がる感嘆の声。彼らは夢中でシチューを口に運んだ。
一日の疲れ、戦いの傷、心のささくれ。それら全てが、この温かい一皿に優しく溶かされていく。

「日向さん……これ、本当にいつものお肉と野菜なの……?」

リリィアも、目をきらきらさせながら尋ねてきた。

「ああ。でも、少しだけ時間をかけて、食材が持っている本来の美味しさを、丁寧に引き出してあげただけだよ。モグモグが見つけてくれた、この塩のおかげでもあるかな」

俺がモグモグの頭を撫でると、彼は「きゅん!」と誇らしげに胸を張った。

「すごい……日向さんの料理、まるで魔法みたい……!」

リリィアの言葉に、食堂にいた全員が、深く頷いた。

その日の夜、「木漏れ日の食卓亭」の灯りは、いつもよりずっと遅くまで、温かく輝いていた。
空になった皿を前に、笑顔で語り合う人々。
その光景を眺めながら、俺は静かに思う。

(ああ、そうか。俺がやりたかったことは、これなんだ)

高級レストランの星を追い求めることじゃない。食通を唸らせることでもない。
ただ、こうして「美味しい」の一言で、誰かの心を温め、笑顔にすること。

異世界での生活は、まだ始まったばかり。
だが、この温かい食卓がある限り、きっと大丈夫だ。
最高の相棒、モグモグと共に。

俺の、異世界クッキングロードが、今、静かに幕を開けた。

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