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第3話 街の麺料理店へ~頑固親父の、知識が紡ぐ、時と想いの麺~ (3-1)
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ミートパイが騎士団の「奇跡の携帯食」としてすっかり定着した頃。
俺、日向耕介は、ベアトリスから半日ほどの休みをもらった。
「日向さん、せっかくだから街に行きましょうよ! 私、案内します!」
目をきらきらさせたリリィアに手を引かれ、俺とモグモグは、初めて宿場町をゆっくりと散策することになった。活気のある市場、行き交う人々、石畳の道。何もかもが新鮮で、見ているだけで心が躍る。
「わあ、すごい人……!」
「お昼時だからな。どこか、美味いものが食える店はないか?」
俺が言うと、リリィアは少し困った顔で、通りの外れにある一軒の店を指差した。
「あのお店……昔はおじいちゃんがやってて、すっごく人気だったんだけど……」
そこにあったのは、古いが手入れの行き届いた、一軒の麺料理店だった。だが、昼時だというのに、店には客の姿が一人も見当たらない。
がらんとした店内に、職人といった風情の、白髪の老人が一人、腕を組んで仁王立ちしているのが見えた。
「……行ってみよう」
俺のフードコーディネーターとしての血が、なぜか騒いだ。
店に足を踏み入れると、豚骨と野菜を煮込んだであろう、素朴で飾り気のないスープの香りがした。
「いらっしゃい」
老人は、こちらを一瞥(いちべつ)しただけで、低い声でそう言った。
俺たちは席につき、名物らしい麺料理を三つ注文した。
やがて、俺たちの前に三つの丼が置かれる。
透き通ったスープに、丁寧に整えられた自家製の麺。その上には、柔らかく煮込まれた肉と、青々とした野菜が彩りよく乗せられている。
(すごい麺だ……)
一口すすって、思わず目を見開いた。強いコシがありながら、噛むと小麦の豊かな風味が鼻に抜ける。これほどレベルの高い自家製麺は、日本の専門店でもそうそうお目にかかれない。
(だけど……あまりにも、もったいない)
スープが、麺の力強さに完全に負けているのだ。優しく実直な味だが、力強い麺とは別の場所で鳴っている、孤独な音色のようだった。
俺の鞄から顔を出していたモグモグが、丼の匂いをくんくんと嗅いだかと思うと、「きゅぅ……」と悲しそうな声を出し、ぷいっと顔を背けてしまった。一口も、食べようとしない。
「リリィアちゃん、どう?」
「う、うん……美味しいよ? 美味しいけど……なんだか、すぐに飽きちゃう、かも」
その言葉が聞こえたのか、頑固親父の眉がぴくりと動いた。
「親父さん、この麺は素晴らしいですね。感動しました」
俺の言葉に、老人は少しだけ表情を和らげた。
「だが、もったいない。この最高の麺を活かすには、スープが少しだけ……優しすぎる」
その瞬間、店の空気が凍りついた。
「……気に入らねえなら、とっとと出ていきな」
地を這うような低い声。老人の瞳には、静かな怒りの炎が宿っていた。
「この味は、親父の代から受け継いできたもんだ。流行りの小細工なんざ、俺の麺には必要ねえ!」
リリィアが息を呑む。
だが、俺は怯まなかった。それどころか、目の前の職人への敬意で、胸が熱くなっていた。
「ええ、分かります。だからこそ、なんです」
俺は真っ直ぐに老人を見つめ返した。
「あなたの麺は、宝物です。だからこそ、悔しい。ほんの少しの知識と工夫で、この一杯は、この街の誰もが忘れられない、伝説の味になる。……俺に、その手伝いをさせてはもらえませんか?」
---
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになっています。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。
俺、日向耕介は、ベアトリスから半日ほどの休みをもらった。
「日向さん、せっかくだから街に行きましょうよ! 私、案内します!」
目をきらきらさせたリリィアに手を引かれ、俺とモグモグは、初めて宿場町をゆっくりと散策することになった。活気のある市場、行き交う人々、石畳の道。何もかもが新鮮で、見ているだけで心が躍る。
「わあ、すごい人……!」
「お昼時だからな。どこか、美味いものが食える店はないか?」
俺が言うと、リリィアは少し困った顔で、通りの外れにある一軒の店を指差した。
「あのお店……昔はおじいちゃんがやってて、すっごく人気だったんだけど……」
そこにあったのは、古いが手入れの行き届いた、一軒の麺料理店だった。だが、昼時だというのに、店には客の姿が一人も見当たらない。
がらんとした店内に、職人といった風情の、白髪の老人が一人、腕を組んで仁王立ちしているのが見えた。
「……行ってみよう」
俺のフードコーディネーターとしての血が、なぜか騒いだ。
店に足を踏み入れると、豚骨と野菜を煮込んだであろう、素朴で飾り気のないスープの香りがした。
「いらっしゃい」
老人は、こちらを一瞥(いちべつ)しただけで、低い声でそう言った。
俺たちは席につき、名物らしい麺料理を三つ注文した。
やがて、俺たちの前に三つの丼が置かれる。
透き通ったスープに、丁寧に整えられた自家製の麺。その上には、柔らかく煮込まれた肉と、青々とした野菜が彩りよく乗せられている。
(すごい麺だ……)
一口すすって、思わず目を見開いた。強いコシがありながら、噛むと小麦の豊かな風味が鼻に抜ける。これほどレベルの高い自家製麺は、日本の専門店でもそうそうお目にかかれない。
(だけど……あまりにも、もったいない)
スープが、麺の力強さに完全に負けているのだ。優しく実直な味だが、力強い麺とは別の場所で鳴っている、孤独な音色のようだった。
俺の鞄から顔を出していたモグモグが、丼の匂いをくんくんと嗅いだかと思うと、「きゅぅ……」と悲しそうな声を出し、ぷいっと顔を背けてしまった。一口も、食べようとしない。
「リリィアちゃん、どう?」
「う、うん……美味しいよ? 美味しいけど……なんだか、すぐに飽きちゃう、かも」
その言葉が聞こえたのか、頑固親父の眉がぴくりと動いた。
「親父さん、この麺は素晴らしいですね。感動しました」
俺の言葉に、老人は少しだけ表情を和らげた。
「だが、もったいない。この最高の麺を活かすには、スープが少しだけ……優しすぎる」
その瞬間、店の空気が凍りついた。
「……気に入らねえなら、とっとと出ていきな」
地を這うような低い声。老人の瞳には、静かな怒りの炎が宿っていた。
「この味は、親父の代から受け継いできたもんだ。流行りの小細工なんざ、俺の麺には必要ねえ!」
リリィアが息を呑む。
だが、俺は怯まなかった。それどころか、目の前の職人への敬意で、胸が熱くなっていた。
「ええ、分かります。だからこそ、なんです」
俺は真っ直ぐに老人を見つめ返した。
「あなたの麺は、宝物です。だからこそ、悔しい。ほんの少しの知識と工夫で、この一杯は、この街の誰もが忘れられない、伝説の味になる。……俺に、その手伝いをさせてはもらえませんか?」
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*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
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