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第10話 首都の天才料理人と、究極の親子丼 (10-2)
しおりを挟む収穫祭当日。
街の中央広場は、大勢の人々でごった返していた。
その一角に、特設の調理台が二つ並べられ、俺とアントワーヌは、それぞれの持ち場に立っていた。
「やあ、日向耕介。ずいぶんと貧相な食材を並べているじゃないか。そんなもので、僕の芸術に対抗するつもりかい?」
アントワーヌが、俺の調理台に並べられた食材を一瞥して、嘲笑う。
俺の台の上にあるのは、この街の市場で、今朝仕入れたばかりの、ごく普通の、しかし最高に新鮮な鶏肉と卵、米、そして数種類の野菜だけ。
伝説の食材など、どこにもない。
一方、彼のアントワーヌの調理台には、見たこともないような豪華な食材が、これでもかと並べられていた。
ゴングの音と共に、対決の火蓋が切って落とされた。
アントワーヌが、華麗な手つきで、煌びやかな海産物の調理を始める中、俺は、ただ、ひたすらに、出汁を引く。地味だが、料理の魂を作る、最も重要な作業だ。
「日向さん、本当に、これだけで勝てるの……?」
隣で手伝いをしてくれるリリィアが、不安そうな顔で尋ねる。
「ああ。リリィアちゃん、見ててごらん。料理の魔法は、珍しい食材の中にだけあるんじゃない。**昆布と、この世界の鰹節に似た干し魚から引く、この一杯の『出汁』の中にも、宇宙は宿っている**んだ」
俺は、丁寧にアクを取りながら、黄金色に輝く出汁を完成させる。
「そして、親子丼っていうのはね、鶏、つまり『親』の肉と、その『子』である卵を、一つの丼の中で一緒に味わう、**家族の絆を象徴する、温かい料理**なんだ。俺は今日、この一皿に、この街で出会った皆との『絆』を込めて作る」
俺の言葉に、リリィアは力強く頷いた。
最高の魂は、この出汁の中に、そして、俺の心の中に、すでにある。
俺は、鶏肉を、絶妙な厚さに切り分けていく。
そして、究極の出汁で作った特製の割り下で、さっと煮る。
「ここだ」
俺は、呟いた。
鶏肉が、硬くなる寸前の、最高の柔らかさを保った、その一瞬。
そこへ、溶きほぐした卵を、二回に分けて回し入れる。
「リリィアちゃん、見てろよ。卵が、ただの卵じゃなくなる瞬間だ」
一回目は、肉に衣を着せるように。
そして、二回目。
鍋の中の卵が、とろりとした半熟状態になった、その、コンマ数秒のタイミングで、俺は火から鍋を下ろした。
それは、神業だった。
炊き立ての飯を丼によそい、その上に、完成したばかりの具材を、そっと滑らせるように乗せる。
中央に、卵黄だけを乗せ、刻み海苔と三つ葉を散らして、完成だ。
見た目は、どこにでもある、ただの親子丼。
だが、その一杯には、俺の、料理人としての、全ての技術と、哲学が、凝縮されていた。
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