異世界ほのぼのクッキングロード ~元フードコーディネーター、不思議な食材で今日も一皿~

はぶさん

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第10話 首都の天才料理人と、究極の親子丼 (10-3)

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一方、アントワーヌの料理も、完成を迎えていた。
『海の宝石箱パエリア』と名付けられたその一皿は、巨大なロブスターを中心に、色とりどりの魚介が、まるで宝石のように散りばめられた、まさに芸術品だった。

いよいよ、投票の時間だ。
街の人々は、まず、アントワーヌのパエリアの前に、長い列を作った。
「うおお!なんだこの豪華さは!」
「美味い!こんな美味いもん、食ったことねえ!」
絶賛の声が、次々と上がる。アントワーヌは、得意げに胸を張った。

次に、人々は俺の親子丼を手に取った。
派手さはない。だが、その温かい湯気と、優しい香りに、人々はどこかホッとしたような顔つきになる。
そして、一口。

その瞬間、人々の顔から、驚きの表情が消え、ただ、ひたすらに、穏やかで、幸せそうな笑顔が広がっていった。
「……うまい……」
「なんだろう、この味……。涙が出てくらあ……」
「ああ、母ちゃんの飯を思い出す……」

それは、味覚だけで味わう料理ではなかった。
一人一人の心の中にある、温かい記憶を呼び覚ます、魔法の料理だった。

投票の結果は、言うまでもない。
人々が手にしていた投票用の木札は、そのほとんどが、俺の丼の箱へと入れられていった。

「……なぜだ……」
アントワーヌが、呆然と呟いた。
「なぜ、僕の芸術が、こんな素朴な丼に負ける……!? 僕の料理の方が、高価で、技術も上のはずだ……!」

俺は、彼の前に、一杯の親子丼を差し出した。
「……食べてみてください。そうすれば、分かります」

アントワーヌは、屈辱に顔を歪めながらも、その丼を受け取り、一口食べた。
そして、彼もまた、動きを止めた。

(……馬鹿な。材料は、そこらの市場で手に入る、ただの鶏肉と卵のはずだ。なのに、なぜ、これほどまでに、味が深い? なぜ、これほどまでに、温かい……!? この、完璧な出汁の風味と、神の領域の火入れ……。これが、この男の、本当の力……)

彼の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
彼はずっと、一人で戦ってきた。誰にも負けないために、最高の技術だけを追い求めてきた。
だが、俺の丼の中には、俺一人の力だけではない、リリィアの笑顔、モグモグの奮闘、そして、この街の人々の温かさが、確かに溶け込んでいた。

「……僕の、負けだ」

アントワーヌは、深々と頭を下げた。

この日、収穫祭は、かつてないほどの盛り上がりを見せた。
そして、日向耕介という料理人の名は、ただの「奇跡の料理人」から、人々の心を繋ぎ、絆を生み出す、「伝説の料理人」として、王都にまで、広く知れ渡ることになるのだった。


◼️◼️◼️◼️◼️
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