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第13話 初めての“黒い”シチューと、大航海時代の知恵 (13-3)
しおりを挟む「さあ、皆さん! 船乗りたちの魂の味、『月光イカの漆黒シチュー』、お待たせしました!」
俺が、出来立てのシチューを深皿に盛り付け、食堂に運ぶと、集まった客たちから、再びどよめきが上がった。
その見た目は、やはり強烈だ。
艶やかに輝く、漆黒のソース。その中に、白く美しいイカの身と、赤いパプリカに似た野菜が浮かび、まるで夜の海に浮かぶ宝石のようだ。
「……本当に、これを食うのか……?」
常連客の一人が、ゴクリと喉を鳴らす。
「まあ、見た目で判断するなよ。一口、食ってみな」
マードックが、ニヤリと笑いながら、一番にスプーンを手に取った。
そして、たっぷりとシチューをすくい、豪快に口へと運ぶ。
その瞬間、彼の日に焼けた顔が、ふにゃりと、とろけるように緩んだ。
「……ああ……うめえ……」
心の底から絞り出したような、感嘆の声。
「これだ……これだよ……。体の隅々に、故郷の海の味が、染み渡るぜ……」
マードックは、目を閉じ、ただひたすらに、故郷との再会を味わっている。
そのあまりに幸せそうな表情に、他の船乗りたちも、そして、恐る恐る見ていた街の人々も、次々とスプーンを手に取った。
そして、一口。
その刹那。
食堂は、静寂に包まれた。
次の瞬間、それは、爆発的な感動の声へと変わった。
「なんだ、この味は!?」
「真っ黒なのに、めちゃくちゃ美味いぞ!」
「イカの旨味が、口いっぱいに広がる……!こんな味、初めてだ!」
見た目のインパクトからは、到底想像もつかない、深いコクと旨味の洪水。イカ墨の濃厚な味わいを、トマトの酸味と、『潮風のハーブ』の爽やかさが、完璧なバランスで支えている。
人々は、我を忘れたように、夢中でシチューを頬張った。
最初は「気味が悪い」と言っていた者たちも、今や、その真っ黒なソースの虜になっていた。
「日向さん、すごいよ! みんな、真っ黒なのに、すごく美味しそうに食べてる!」
リリィアが、興奮気味に俺の腕を掴む。
「だろ? だから言ったじゃないか。物事を見かけだけで判断しちゃいけない、ってね」
その夜、「木漏れ日の食卓亭」は、陽気な船乗りたちの歌声と、街の人々の笑顔で、深夜まで賑わったという。
そして、この『漆黒シチュー』は、宿屋の新しい名物料理として、メニューに加えられることになった。
数日後。
船乗りたちが、街を離れる日がやってきた。
「日向の旦那、世話になったな! おかげで、最高の船旅になりそうだぜ」
マードックは、俺の手を、力強く握りしめた。
「今度、俺たちの故郷にも、必ず遊びに来てくれよ。最高の酒と、最高の仲間たちと、そして、世界一の漆黒シチューで、あんたをもてなしてやるからな!」
遠ざかっていく船を見送りながら、俺は思う。
料理は、時に、文化と言葉の壁を越える。
一杯の黒いシチューが繋いだ、港町と、遠い南の海との、温かい絆。
俺の異世界クッキングロードは、また一つ、新しい航路図を手に入れたのだった。
◼️◼️◼️◼️◼️
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