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第8話 ご両親への挨拶と、お父様に憑いた「頑固の霊」
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「雅人、いい? 今日は私の実家に行くんだから、絶対に『霊』とか『穢れ』とか言わないでね。お父さん、ああいうの本当に嫌いだから」
鈴木花は、実家の玄関前で雅人のネクタイを整えながら、最後のアドバイスを送った。
今日の雅人は、花のリクエスト通り清潔感のあるスーツ姿だ。しかし、その懐には数千枚の護符が隠され、靴の中には清め塩が仕込まれているのを花は知っている。
「分かっている、花。今日は一人の男として、君のご両親に誠意を見せる日だ。……だが、門を潜った瞬間から、この家を包む『過保護な気』が私の肌を刺す。お父上の娘を思う念が、物理的な結界となって立ちはだかっているぞ」
「それはただの『愛情』! ほら、行くよ!」
茶の間で対面した花の父・健一は、腕組みをして雅人を睨みつけていた。
「……橘さんとおっしゃるのか。娘がお世話になっているようだが、失礼ながら、お仕事は何を?」
「はい。私は、目に見えぬ万物の理を整え、人々の生活に淀む『穢れ』を……」
「雅人! 専門職、個人事業主です!」
花が慌てて割って入る。雅人は真剣な顔で健一を見つめた。
「お父上。お言葉ですが、今すぐその肩を回された方がいい。あなたの右肩には、『会社での理不尽を耐え抜いた残滓(ざんし)』が、どす黒い塊となって憑りついています。それが原因で、先ほどからお茶を飲む手が震えておられる」
「な、何を……! これはただの四十肩だ!」
「いいえ、これは『頑固の霊』です。私が今すぐ、その意固地な気を霧散させて差し上げましょう」
雅人が懐からスッと護符を取り出した瞬間、健一は激怒した。
「ふざけるな! 娘をこんなインチキ霊媒師のような男に預けられるか! 帰れ!」
場は最悪の空気になった。花は涙目になりながら雅人を外へ連れ出そうとしたが、雅人は動かなかった。
「お父上。私はインチキではありません。私がこの力を使うのは、大切なものを守るためだけです。……あなたが四十年、その肩に重荷を背負いながら花を育ててこられたこと、その尊い『気』の集積を、私は敬意を持って祓いたいのです」
雅人は深々と頭を下げた。
「花を大切に思う気持ちは、私とお父上で、属性は違えど同じはずです」
その言葉の真っすぐさに、健一は毒気を抜かれたように沈黙した。
「……ふん。肩が軽くなるなら、やってみろ。……ただし、一回だけだぞ」
雅人が小さく呪文を唱え、健一の肩を軽く叩くと、不思議なことに健一の表情から険しさが消え、顔色が良くなった。
「……おや。本当に、少し軽いな」
帰り道。二人は夕暮れの住宅街を歩いていた。
「雅人、一時はどうなるかと思ったよ。でも、お父さん、最後は『また来なさい』って言ってたね」
「うむ。お父上の『頑固の霊』は手強かったが、最後には『娘への信頼という陽気』に変わっていた。……花、私は確信した。君の家族を守ることも、私のこれからの大きな任務になるだろう」
「任務じゃなくて、家族になる、でしょ?」
「……そうだな。そのための修行(結婚準備)は、前途多難だが、私の結界があれば問題ない」
二人の関係は、まだ「入籍」というゴールまでは遠い。
けれど、雅人が花の家族さえもお祓いの対象(守るべきもの)に加えたこの日は、二人の未来にとって大きな一歩となった。
「あ、雅人! 実家から持たされたお土産のメロンに、『甘すぎる誘惑の精』が宿ってる気が……」
「よし、今すぐ『糖分過多防止の儀』を……」
「だから! 普通に食べて!」
鈴木花は、実家の玄関前で雅人のネクタイを整えながら、最後のアドバイスを送った。
今日の雅人は、花のリクエスト通り清潔感のあるスーツ姿だ。しかし、その懐には数千枚の護符が隠され、靴の中には清め塩が仕込まれているのを花は知っている。
「分かっている、花。今日は一人の男として、君のご両親に誠意を見せる日だ。……だが、門を潜った瞬間から、この家を包む『過保護な気』が私の肌を刺す。お父上の娘を思う念が、物理的な結界となって立ちはだかっているぞ」
「それはただの『愛情』! ほら、行くよ!」
茶の間で対面した花の父・健一は、腕組みをして雅人を睨みつけていた。
「……橘さんとおっしゃるのか。娘がお世話になっているようだが、失礼ながら、お仕事は何を?」
「はい。私は、目に見えぬ万物の理を整え、人々の生活に淀む『穢れ』を……」
「雅人! 専門職、個人事業主です!」
花が慌てて割って入る。雅人は真剣な顔で健一を見つめた。
「お父上。お言葉ですが、今すぐその肩を回された方がいい。あなたの右肩には、『会社での理不尽を耐え抜いた残滓(ざんし)』が、どす黒い塊となって憑りついています。それが原因で、先ほどからお茶を飲む手が震えておられる」
「な、何を……! これはただの四十肩だ!」
「いいえ、これは『頑固の霊』です。私が今すぐ、その意固地な気を霧散させて差し上げましょう」
雅人が懐からスッと護符を取り出した瞬間、健一は激怒した。
「ふざけるな! 娘をこんなインチキ霊媒師のような男に預けられるか! 帰れ!」
場は最悪の空気になった。花は涙目になりながら雅人を外へ連れ出そうとしたが、雅人は動かなかった。
「お父上。私はインチキではありません。私がこの力を使うのは、大切なものを守るためだけです。……あなたが四十年、その肩に重荷を背負いながら花を育ててこられたこと、その尊い『気』の集積を、私は敬意を持って祓いたいのです」
雅人は深々と頭を下げた。
「花を大切に思う気持ちは、私とお父上で、属性は違えど同じはずです」
その言葉の真っすぐさに、健一は毒気を抜かれたように沈黙した。
「……ふん。肩が軽くなるなら、やってみろ。……ただし、一回だけだぞ」
雅人が小さく呪文を唱え、健一の肩を軽く叩くと、不思議なことに健一の表情から険しさが消え、顔色が良くなった。
「……おや。本当に、少し軽いな」
帰り道。二人は夕暮れの住宅街を歩いていた。
「雅人、一時はどうなるかと思ったよ。でも、お父さん、最後は『また来なさい』って言ってたね」
「うむ。お父上の『頑固の霊』は手強かったが、最後には『娘への信頼という陽気』に変わっていた。……花、私は確信した。君の家族を守ることも、私のこれからの大きな任務になるだろう」
「任務じゃなくて、家族になる、でしょ?」
「……そうだな。そのための修行(結婚準備)は、前途多難だが、私の結界があれば問題ない」
二人の関係は、まだ「入籍」というゴールまでは遠い。
けれど、雅人が花の家族さえもお祓いの対象(守るべきもの)に加えたこの日は、二人の未来にとって大きな一歩となった。
「あ、雅人! 実家から持たされたお土産のメロンに、『甘すぎる誘惑の精』が宿ってる気が……」
「よし、今すぐ『糖分過多防止の儀』を……」
「だから! 普通に食べて!」
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