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season1
第19話:真実を射抜く瞳
1. 霧に消える王都
修道院での過酷な修行を終え、リアンとマリナが王都へ戻る道中、異変は前触れもなく訪れた。白昼堂々、王都へと続く街道が濃密な、それでいて甘い香りの漂う霧に包まれたのだ。
「リアンさん、これ……! 修行で想定していた『幻惑の香』だわ!」
マリナが咄嗟に解毒の魔法を自身とリアンにかける。しかし、霧は晴れない。
「無駄だよ。僕の幻術は、脳の機能を直接書き換える。魔法で霧を消しても、君たちの『認識』はもう僕の手の中にあるんだから」
霧の奥から、優雅だが冷酷な声が響く。『影の円卓』序列十二位、『幻術師のミスト』。
ラゼルが警告していた「情報汚染」の専門家がついに姿を現した。
リアンがナノ・サイトを起動する。しかし、視界に映る情報は支離滅裂だった。
目の前の木々が巨大な蛇に変わり、地面は底なしの沼のように波打つ。あろうことか、隣にいるはずのマリナの姿さえも、叔父を殺した刺客の姿に見え隠れする。
(これが……情報の汚染。脳に届く全ての信号が、敵の意図通りに改ざんされている)
リアンの最強の武器であった精密演算能力が、偽の情報を元に「偽の未来」を次々と弾き出し、彼の精神をパニックへと誘い込む。
2. 視覚の放棄、ブラインド・サイトの覚醒
「どうしたんだい? 最高の冒険者、戦術の支配者さん。足元にいる巨大な蠍(サソリ)を射抜かないのかい?」
ミストの嘲笑と共に、リアンの足元から巨大なハサミが迫る幻影が見える。
普通の人間なら、恐怖に抗えず闇雲に剣を振り回し、自滅するだろう。だが、リアンは違った。
「……五感は、もう信じない」
リアンは静かに目を閉じた。そして、叔父の形見であるストーム・ウィスパーの弦を、瞑想の如く指でなぞる。
(心眼(ブラインド・サイト)起動)
視覚情報の濁流をシャットアウトした瞬間、リアンの意識は、物理的な「像」ではなく、空間そのものが持つ『存在の波動』へと切り替わった。
脳が映し出す蠍の幻影は消え、代わりに、霧の中にたった一つ、澱んだ魔力を放つ『確かな熱源』が浮かび上がった。
(見えた。そこにいるな、ミスト)
リアンは、目を開ければそこには何もない空中に見えるはずの場所へ、ゆっくりと弓を向けた。
「おや、あさっての方向を向いてどうしたんだい? 僕はこっちだよ」
右側から声が聞こえる。しかし、リアンの心眼が捉えているミストの本体は左前。音さえも、空気の振動を操られ偽装されているのだ。
2. 虚飾を切り裂く一矢
リアンは、弦の超振動を開始した。『振動弓術』。
弦が奏でる波長は、ミストが放つ幻惑の香の分子を物理的に弾き飛ばし、リアンの周囲にだけ、真実の空間を作り出す。
「マリナさん、三歩下がってください。そこからなら、僕の放つ『音の壁』の内側に入れる」
「え、ええ……! 分かったわ!」
リアンの確信に満ちた声に、マリナは迷わず従う。リアンの言葉通りに動くと、彼女の視界を覆っていたおぞましい幻影が、魔法の薄皮を剥ぐように消えていった。
「……何をした? なぜ僕の配置した幻覚を無視できる!?」
ミストの声に、初めて焦りが混じる。
「お前は情報を汚染した。だが、『存在の重み』までは消せなかった」
リアンは魔力貯蔵庫から、一滴の濃密な魔力を矢に込めた。
物理的な視覚では何もいない空間。しかし、心眼というスコープには、ミストの心臓の鼓動、恐怖による魔力の乱れが、赤裸々に映し出されている。
「終わりだ」
リアンが放った一矢は、空中の何もない場所を貫いた……かに見えた。
しかし、その直後。
「ぐあああああっ!」
何もないはずの空間から鮮血が舞い、ミストが姿を現した。右肩を深く射抜かれ、彼の集中力が途切れたことで、街道を覆っていた霧が一気に晴れていく。
「僕の……僕の完璧な『世界』が、たかが弓術士に……!」
ミストは崩れ落ち、自身の胸に刺さった矢を信じられないといった様子で見つめる。
「お前が作ったのは、完璧な『偽り』だ。本物の世界は、そんなに都合よくはできていない」
リアンは、ミストにとどめを刺すことはしなかった。円卓の目的、そして「魔力中枢」への干渉について情報を聞き出そうとした、その時。
「おっと、そこまでだ」
上空から、ミストを回収するように巨大な影が降り立った。それは魔物ではなく、機械的な翼を持つ、円卓の新たな増援だった。
3. 戦術の極致へ
増援は深追いをせず、重傷のミストを抱えて飛び去っていった。
リアンは弓を下げ、深く息を吐く。心眼の維持は、これまでのナノ・サイト以上に脳を酷使する。
「リアンさん、大丈夫!? 凄い……あんな状況で、正確に場所を突き止めるなんて」
マリナが駆け寄り、リアンの額の汗を拭う。
「……マリナさんの『存在』が、暗闇の中の灯台になってくれました。あなたを見失わなければ、俺の心眼は狂わない」
リアンは自身の掌を見つめた。
最弱職とされた弓。しかし、今や彼は、魔法使いさえも翻弄される幻術を、たった一人の集中力で無効化するに至った。
だが、敵の増援が見せた「機械的な翼」に、リアンは新たな危機感を感じていた。
「影の円卓は、魔法だけでなく、古代の遺物(アーティファクト)さえも兵器化している。叔父さんの言っていた『技術の支配』は、もう最終段階に入っているのかもしれない」
王都の塔が遠くに見える。そこには、王国を支える「魔力中枢」が眠っているはずだ。
リアンとマリナは、自分たちの戦いが、もはや一冒険者の枠を超え、この世界の「理(ことわり)」を守るための唯一の希望であることを確信し、王都への最後の一歩を踏み出した。
修道院での過酷な修行を終え、リアンとマリナが王都へ戻る道中、異変は前触れもなく訪れた。白昼堂々、王都へと続く街道が濃密な、それでいて甘い香りの漂う霧に包まれたのだ。
「リアンさん、これ……! 修行で想定していた『幻惑の香』だわ!」
マリナが咄嗟に解毒の魔法を自身とリアンにかける。しかし、霧は晴れない。
「無駄だよ。僕の幻術は、脳の機能を直接書き換える。魔法で霧を消しても、君たちの『認識』はもう僕の手の中にあるんだから」
霧の奥から、優雅だが冷酷な声が響く。『影の円卓』序列十二位、『幻術師のミスト』。
ラゼルが警告していた「情報汚染」の専門家がついに姿を現した。
リアンがナノ・サイトを起動する。しかし、視界に映る情報は支離滅裂だった。
目の前の木々が巨大な蛇に変わり、地面は底なしの沼のように波打つ。あろうことか、隣にいるはずのマリナの姿さえも、叔父を殺した刺客の姿に見え隠れする。
(これが……情報の汚染。脳に届く全ての信号が、敵の意図通りに改ざんされている)
リアンの最強の武器であった精密演算能力が、偽の情報を元に「偽の未来」を次々と弾き出し、彼の精神をパニックへと誘い込む。
2. 視覚の放棄、ブラインド・サイトの覚醒
「どうしたんだい? 最高の冒険者、戦術の支配者さん。足元にいる巨大な蠍(サソリ)を射抜かないのかい?」
ミストの嘲笑と共に、リアンの足元から巨大なハサミが迫る幻影が見える。
普通の人間なら、恐怖に抗えず闇雲に剣を振り回し、自滅するだろう。だが、リアンは違った。
「……五感は、もう信じない」
リアンは静かに目を閉じた。そして、叔父の形見であるストーム・ウィスパーの弦を、瞑想の如く指でなぞる。
(心眼(ブラインド・サイト)起動)
視覚情報の濁流をシャットアウトした瞬間、リアンの意識は、物理的な「像」ではなく、空間そのものが持つ『存在の波動』へと切り替わった。
脳が映し出す蠍の幻影は消え、代わりに、霧の中にたった一つ、澱んだ魔力を放つ『確かな熱源』が浮かび上がった。
(見えた。そこにいるな、ミスト)
リアンは、目を開ければそこには何もない空中に見えるはずの場所へ、ゆっくりと弓を向けた。
「おや、あさっての方向を向いてどうしたんだい? 僕はこっちだよ」
右側から声が聞こえる。しかし、リアンの心眼が捉えているミストの本体は左前。音さえも、空気の振動を操られ偽装されているのだ。
2. 虚飾を切り裂く一矢
リアンは、弦の超振動を開始した。『振動弓術』。
弦が奏でる波長は、ミストが放つ幻惑の香の分子を物理的に弾き飛ばし、リアンの周囲にだけ、真実の空間を作り出す。
「マリナさん、三歩下がってください。そこからなら、僕の放つ『音の壁』の内側に入れる」
「え、ええ……! 分かったわ!」
リアンの確信に満ちた声に、マリナは迷わず従う。リアンの言葉通りに動くと、彼女の視界を覆っていたおぞましい幻影が、魔法の薄皮を剥ぐように消えていった。
「……何をした? なぜ僕の配置した幻覚を無視できる!?」
ミストの声に、初めて焦りが混じる。
「お前は情報を汚染した。だが、『存在の重み』までは消せなかった」
リアンは魔力貯蔵庫から、一滴の濃密な魔力を矢に込めた。
物理的な視覚では何もいない空間。しかし、心眼というスコープには、ミストの心臓の鼓動、恐怖による魔力の乱れが、赤裸々に映し出されている。
「終わりだ」
リアンが放った一矢は、空中の何もない場所を貫いた……かに見えた。
しかし、その直後。
「ぐあああああっ!」
何もないはずの空間から鮮血が舞い、ミストが姿を現した。右肩を深く射抜かれ、彼の集中力が途切れたことで、街道を覆っていた霧が一気に晴れていく。
「僕の……僕の完璧な『世界』が、たかが弓術士に……!」
ミストは崩れ落ち、自身の胸に刺さった矢を信じられないといった様子で見つめる。
「お前が作ったのは、完璧な『偽り』だ。本物の世界は、そんなに都合よくはできていない」
リアンは、ミストにとどめを刺すことはしなかった。円卓の目的、そして「魔力中枢」への干渉について情報を聞き出そうとした、その時。
「おっと、そこまでだ」
上空から、ミストを回収するように巨大な影が降り立った。それは魔物ではなく、機械的な翼を持つ、円卓の新たな増援だった。
3. 戦術の極致へ
増援は深追いをせず、重傷のミストを抱えて飛び去っていった。
リアンは弓を下げ、深く息を吐く。心眼の維持は、これまでのナノ・サイト以上に脳を酷使する。
「リアンさん、大丈夫!? 凄い……あんな状況で、正確に場所を突き止めるなんて」
マリナが駆け寄り、リアンの額の汗を拭う。
「……マリナさんの『存在』が、暗闇の中の灯台になってくれました。あなたを見失わなければ、俺の心眼は狂わない」
リアンは自身の掌を見つめた。
最弱職とされた弓。しかし、今や彼は、魔法使いさえも翻弄される幻術を、たった一人の集中力で無効化するに至った。
だが、敵の増援が見せた「機械的な翼」に、リアンは新たな危機感を感じていた。
「影の円卓は、魔法だけでなく、古代の遺物(アーティファクト)さえも兵器化している。叔父さんの言っていた『技術の支配』は、もう最終段階に入っているのかもしれない」
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