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season2
第1話 嵐の目覚め
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1
王都を揺るがしたあの大戦から数年。辺境の街アストリアに流れる風は、どこまでも穏やかだった。
「リアン先生、見ててください! 今日こそ真ん中に当ててみせます!」
幼い少年の元気な声が、新設された道場に響き渡る。かつて「最弱の弓術士」と蔑まれた青年、リアン・アークライトは、いまやこの街の子供たちの憧れの的となっていた。
「焦るな。弓は腕で引くものじゃない。自分の心拍、そして風の囁きと一つになるんだ」
リアンの声は、かつての刺すような鋭さを削ぎ落とし、深い慈愛を湛えていた。彼の背後、道場の壁には、かつて世界の理を射抜いた黄金の弓『ストーム・ウィスパー』が静かに掛けられている。魔導神エグゼスとの決戦を経てその輝きは失われ、今は一振りの古びた弓に見えるが、リアンにとっては戦友のような存在だった。
「リアンさん、そろそろ休憩にしましょう? 皆にお茶を淹れたわ」
道場の入り口から、柔らかな微笑みを湛えたマリナが顔を覗かせる。彼女の首元で、リアンが贈ったペンダントが陽光を反射してキラリと光った。
「ああ、ありがとう。……平和だな、マリナさん」
リアンが弓を置き、マリナの手から茶を受け取ろうとした、その時だった。
2.
「リアン! 大変だ……シグルドが!!」
血相を変えて道場に飛び込んできたのは、かつての戦友、カイルだった。彼の衣服は乱れ、その表情には隠しようのない恐怖と動揺が貼り付いている。
「シグルドがどうした。落ち着いて話せ」
リアンの瞳が、一瞬で教師から「冒険者」のものへと切り替わった。
「王都で……『欠落した英雄』を名乗る連中に襲われたらしい。今朝、街の近くの森で見つかったんだが……様子がおかしいんだ。あれは、もう俺たちの知ってるシグルドじゃねえ!」
リアンは無言で壁に手を伸ばした。
指先が『ストーム・ウィスパー』に触れた瞬間、死んでいたはずの弓の弦が、微かに、だが力強く共鳴した。
3.
一行が辿り着いた「嘆きの森」は、かつての面影を失っていた。瘴気が霧のように立ち込め、植物は黒く変色している。
その中心に、「それ」はいた。
「……シグルド……さん?」
マリナが息を呑む。そこにいたのは、筋骨隆々とした剛剣士の面影を残しながらも、全身に血管のように浮き出た黒い魔力の紋様を宿し、瞳から感情の光を失った「兵器」だった。
彼の背中からは、生体部品と機械が混ざり合ったような異形の「魔導触手」が無数に伸び、周囲の巨木を紙細工のように粉砕していた。
「あはは、久しぶりだね。最高の観測者さん」
「僕たちの新しいおもちゃ、気に入ってくれたかな?」
霧の奥から現れたのは、かつてリアンが倒したはずの『糸使いのラゼル』と『幻術師のミスト』。だが、その言葉は録音された音声のように抑揚がなく、瞳には機械的な赤い光が宿っていた。
「魂を汚染し、英雄を人形に変えたか……。相変わらず、趣味が悪いな」
リアンは静かに弓を構えた。だが、矢は番えない。
「リアン、何をしてる! 早くあいつを止めないと!」
カイルが叫ぶが、リアンは動かない。
「……シグルドを、傷つけるわけにはいかない」
4.
「ハッ、無慈悲な決断を期待していたのに。なら、死んじゃえ!」
ラゼルの指先から放たれた無数の「見えない糸」が、リアンの回避路をナノ単位の網で封鎖する。同時にミストが幻術を展開し、リアンの視界は上下左右が反転した地獄絵図へと変わる。
そこへ、シグルドの魔導触手が、音速を超えて叩きつけられた。
――だが。
リアンの体は、物理法則を無視したかのような滑らかな軌道で、その全てをすり抜けた。
「なっ……!?」
リアンは弓を引かない。代わりに、弓のブレードを剣のように振るい、ラゼルの糸を「切る」のではなく、弦の振動波で「分解」した。
ミストの幻術に対しては、弦を弾いて「逆位相の波長」を放射し、空間の歪みを物理的に打ち消す。
そして、シグルドの猛攻に対し、リアンは舞うように接近した。
触手と触手のわずかな隙間、呼吸の合間、因果の流れ。
リアンは一本の矢も放たず、ただ弓を操る「体術」だけで、三人の強敵を圧倒し始めた。
「これが……リアンさんの、新しい力……」
マリナは震える声で呟いた。それは敵を殺すための武力ではなく、世界を「あるべき姿」に留めるための支配。
5.
「お前たちが『未来』を予測し、それを『破壊』しようとするなら――」
リアンが、シグルドの胸元に手を添えた。
ストーム・ウィスパーの弦が、かつてない高周波で唸りを上げる。
「――俺は『未来』を『創造』する。『零式・全距離支配:因果再構築(イデア・リライト)』!」
リアンの弓から放たれたのは、破壊の光ではなく、マリナの浄化魔法を増幅した「純白の波動」だった。
その波長が戦場を駆け抜けた瞬間、シグルドを縛っていた黒い紋様が砂のように崩れ落ち、背中の異形が霧となって霧散していく。
ラゼルとミストの人形は、自身の核(コア)を内側から粉砕され、悲鳴を上げる間もなく活動を停止した。
「……り、リア……ン……?」
瞳に光を取り戻したシグルドが、ゆっくりと膝をつく。
「ああ。おかえり、シグルド」
リアンは弓を下ろした。
彼の瞳は、かつてないほど澄み切っている。最弱の弓術士は、もはや「射る者」ですらなく、この世界の「バグ」を修正する守護者へと昇華していた。
だが、リアンは空を見上げた。
王都の遥か彼方、天を突くような巨大な魔力の渦が、新たな嵐の到来を告げていた。
「マリナさん。……どうやら、隠居生活は少しお預けになりそうだ」
一張の弓が、再び運命の風に震えた。
最強の弓術士リアンの、新たな伝説がここから始まる。
王都を揺るがしたあの大戦から数年。辺境の街アストリアに流れる風は、どこまでも穏やかだった。
「リアン先生、見ててください! 今日こそ真ん中に当ててみせます!」
幼い少年の元気な声が、新設された道場に響き渡る。かつて「最弱の弓術士」と蔑まれた青年、リアン・アークライトは、いまやこの街の子供たちの憧れの的となっていた。
「焦るな。弓は腕で引くものじゃない。自分の心拍、そして風の囁きと一つになるんだ」
リアンの声は、かつての刺すような鋭さを削ぎ落とし、深い慈愛を湛えていた。彼の背後、道場の壁には、かつて世界の理を射抜いた黄金の弓『ストーム・ウィスパー』が静かに掛けられている。魔導神エグゼスとの決戦を経てその輝きは失われ、今は一振りの古びた弓に見えるが、リアンにとっては戦友のような存在だった。
「リアンさん、そろそろ休憩にしましょう? 皆にお茶を淹れたわ」
道場の入り口から、柔らかな微笑みを湛えたマリナが顔を覗かせる。彼女の首元で、リアンが贈ったペンダントが陽光を反射してキラリと光った。
「ああ、ありがとう。……平和だな、マリナさん」
リアンが弓を置き、マリナの手から茶を受け取ろうとした、その時だった。
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「リアン! 大変だ……シグルドが!!」
血相を変えて道場に飛び込んできたのは、かつての戦友、カイルだった。彼の衣服は乱れ、その表情には隠しようのない恐怖と動揺が貼り付いている。
「シグルドがどうした。落ち着いて話せ」
リアンの瞳が、一瞬で教師から「冒険者」のものへと切り替わった。
「王都で……『欠落した英雄』を名乗る連中に襲われたらしい。今朝、街の近くの森で見つかったんだが……様子がおかしいんだ。あれは、もう俺たちの知ってるシグルドじゃねえ!」
リアンは無言で壁に手を伸ばした。
指先が『ストーム・ウィスパー』に触れた瞬間、死んでいたはずの弓の弦が、微かに、だが力強く共鳴した。
3.
一行が辿り着いた「嘆きの森」は、かつての面影を失っていた。瘴気が霧のように立ち込め、植物は黒く変色している。
その中心に、「それ」はいた。
「……シグルド……さん?」
マリナが息を呑む。そこにいたのは、筋骨隆々とした剛剣士の面影を残しながらも、全身に血管のように浮き出た黒い魔力の紋様を宿し、瞳から感情の光を失った「兵器」だった。
彼の背中からは、生体部品と機械が混ざり合ったような異形の「魔導触手」が無数に伸び、周囲の巨木を紙細工のように粉砕していた。
「あはは、久しぶりだね。最高の観測者さん」
「僕たちの新しいおもちゃ、気に入ってくれたかな?」
霧の奥から現れたのは、かつてリアンが倒したはずの『糸使いのラゼル』と『幻術師のミスト』。だが、その言葉は録音された音声のように抑揚がなく、瞳には機械的な赤い光が宿っていた。
「魂を汚染し、英雄を人形に変えたか……。相変わらず、趣味が悪いな」
リアンは静かに弓を構えた。だが、矢は番えない。
「リアン、何をしてる! 早くあいつを止めないと!」
カイルが叫ぶが、リアンは動かない。
「……シグルドを、傷つけるわけにはいかない」
4.
「ハッ、無慈悲な決断を期待していたのに。なら、死んじゃえ!」
ラゼルの指先から放たれた無数の「見えない糸」が、リアンの回避路をナノ単位の網で封鎖する。同時にミストが幻術を展開し、リアンの視界は上下左右が反転した地獄絵図へと変わる。
そこへ、シグルドの魔導触手が、音速を超えて叩きつけられた。
――だが。
リアンの体は、物理法則を無視したかのような滑らかな軌道で、その全てをすり抜けた。
「なっ……!?」
リアンは弓を引かない。代わりに、弓のブレードを剣のように振るい、ラゼルの糸を「切る」のではなく、弦の振動波で「分解」した。
ミストの幻術に対しては、弦を弾いて「逆位相の波長」を放射し、空間の歪みを物理的に打ち消す。
そして、シグルドの猛攻に対し、リアンは舞うように接近した。
触手と触手のわずかな隙間、呼吸の合間、因果の流れ。
リアンは一本の矢も放たず、ただ弓を操る「体術」だけで、三人の強敵を圧倒し始めた。
「これが……リアンさんの、新しい力……」
マリナは震える声で呟いた。それは敵を殺すための武力ではなく、世界を「あるべき姿」に留めるための支配。
5.
「お前たちが『未来』を予測し、それを『破壊』しようとするなら――」
リアンが、シグルドの胸元に手を添えた。
ストーム・ウィスパーの弦が、かつてない高周波で唸りを上げる。
「――俺は『未来』を『創造』する。『零式・全距離支配:因果再構築(イデア・リライト)』!」
リアンの弓から放たれたのは、破壊の光ではなく、マリナの浄化魔法を増幅した「純白の波動」だった。
その波長が戦場を駆け抜けた瞬間、シグルドを縛っていた黒い紋様が砂のように崩れ落ち、背中の異形が霧となって霧散していく。
ラゼルとミストの人形は、自身の核(コア)を内側から粉砕され、悲鳴を上げる間もなく活動を停止した。
「……り、リア……ン……?」
瞳に光を取り戻したシグルドが、ゆっくりと膝をつく。
「ああ。おかえり、シグルド」
リアンは弓を下ろした。
彼の瞳は、かつてないほど澄み切っている。最弱の弓術士は、もはや「射る者」ですらなく、この世界の「バグ」を修正する守護者へと昇華していた。
だが、リアンは空を見上げた。
王都の遥か彼方、天を突くような巨大な魔力の渦が、新たな嵐の到来を告げていた。
「マリナさん。……どうやら、隠居生活は少しお預けになりそうだ」
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最強の弓術士リアンの、新たな伝説がここから始まる。
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