「私と結婚して、娘になってくれないか」と言われましても…

リオン(未完系。)

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「私と結婚して、娘になってくれないか」と言われましても…

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「私と結婚して、娘になってくれないか」

「は?」

意味がわからない。

淑女らしくない返答をしてしまったが許して欲しい。

「すみません、よく聞こえなかったのですが」

「私と結婚して、娘になってくれないか」

私は黙って紅茶をいただく。

一度状況を整理しようじゃないか。





私の名前は、メイル・アーシャ。

アーシャ伯爵家の次女。

美しい姉と聡明な弟に挟まれた目立たない存在。

うちはまぁ平凡な伯爵家だが、姉はその美貌から隣国の公爵家に嫁ぐことが決まり、弟は学園で王子達に気に入られていて、伸び代があると評判だ。

私宛にも、我が家と縁を繋ぎたい相手からのお見合い話が絶えなかった。



そんな中送られてきたのが、ジョーンズ・マーシャル様からの求婚話だ。

ジョーンズ・マーシャル。

マーシャル公爵家に産まれ、貴族学園を優秀な成績で卒業。その後、騎士団に入団しメキメキ頭角を表す。第一騎士団で己を磨き、以後、国王陛下の近衛として常に王の側を守っている。現在は騎士子爵の位を賜っている。エリート中のエリート。



一応本人の爵位は「騎士子爵」とは言え実家は公爵家。

間違っても平々凡々な伯爵次女に求婚するような格ではない。

本人同士に交流があって…ということもなく、ほぼ初対面。

そして私は18歳、ジョーンズ様は33歳。

接点などまるでない。

「これは所謂お飾りの妻を求められているのでは?」

私も両親もそう考えたが、こちらから一方的に断るのも難しい話である。

ついでに私も恋愛ごとにはとんと縁もなくこのまま野心家に嫁がされるのもなーという感じだったので、とりあえず一度会ってみることになったのである。



そしてお見合いの席。

一通りの挨拶が終わり、人払いがすみ、第一声がこれである。



「私と結婚して、娘になってくれないか」



はい整理した。

はい意味わからん。

「ジョーンズ様」

「お父様と呼んでくれ」

「…」

「どうしたメイル嬢」

「すみません、少し話が見えなくて…」

「ああ、すまない。急ぎすぎたようだ。待っていてくれ」

ジョーンズ様は立ち上がり、しばらくするとなにかを抱えて帰ってきた。

それはそれは美しい、銀髪のお人形を。



「…こちらは?」

「私の最愛、アイルだ」

銀の長髪がさらさらと流れ、水色の瞳がキラキラと輝く。

精巧な作りのそれは、学園入学前の子女が集まるお茶会に持っていけば阿鼻叫喚の奪い合いが行われることが容易に想像できる、そんな逸品だ。

「すみませんもう一度」

「アイル。私の最愛だ」

聞き間違いじゃなかった。

「つまり、ジョーンズ様の奥様がアイル様だと」

「君は頭もいいのか!」

至極嬉しそうにジョーンズ様が笑う。なんてこった当たってしまった。

「私がアイルに出会ったのは18の頃。たまたま出掛けたさきの店で私が一目惚れをしてな。我が家に来てもらった」

それから12年間、一途に人形を愛してきたのだという。

「私にはアイルがいるから結婚は出来ないと国王には伝えているのだが、なかなか周りが納得しなくてな」

「国王様は納得してるんですか」

「ああ。アイルへの愛を一晩中語り合ったこともある」

それは語り合ったのではなく洗脳したのではないだろうか。大丈夫か国王陛下。

「結婚しないなら養子を取らないかと言われてな、私としても我が子を愛でたい気持ちはあるんだが、何分忙しい身だ。乳母を雇うにしても預けっぱなしと言うわけにもいかない。ならば自分のことは自分で出来る年齢の養子がいいと思ってな」

「ごもっともです」

いくら愛する奥様でも、人形に子育ては難しかろう。

「そんな折りに君を見かけてな、この出会いは運命じゃないかと思ったよ」

なるほど。

私の容姿は可もなく不可もなく、という感じたが、この国では珍しい銀色の髪と、水色の瞳をしている。

アイル…奥様と同じだ。

「養子ではなくて結婚相手である理由をおうかがいしても?」

「兄に相談したら『妙齢の女性に申し込むなら養子ではなく求婚に決まっているだろう馬鹿か貴様は』と言われてしまってな。それに養子となるとすぐに嫁に行ってしまうかもしれないじゃないか」

まぁ確かに18歳を養子に取るとしたら、元の家が没落したか、家格を整えて別の家に嫁がせる時くらいだろう。

「と言うことは私は書類上と世間体的には結婚相手であり、その実、家の中ではジョーンズ様とアイル様の娘として扱われる、と言うことでしょうか?」

「アイルと同じ瞳にアイルと同じ髪というだけでも素晴らしいのに頭の回転も早いのか」

ジョーンズ様はとても嬉しそうに笑った。

「幾つか質問をしても?」

「いいだろう」

「白い結婚ですか?」

「当たり前だろう、私に娘と交渉する趣味はない」

「私は一生純潔を守るべきですか?」

「数年は我が家で娘として過ごして欲しいし、不特定多数との婚前交渉は父親として認められないな。一途な交際であるならば相手を精査の上嫁に出すことも視野に入れている。その場合に私との契約は問題なく破棄されるよう神殿にも申し入れをしよう」

「ジョーンズ様の体外上の妻としての役目は?」

「基本的には仕事が忙しいからな、エスコートができない以上夜会などに出席する必要はない。家のなかのことは執事等が回しているが、君が手を出したければやってもらって構わない」

「家からは出られますか?」

「友人とのお茶会等なら自由に出掛けてくれ。城下に出るなら護衛をつける。泊まりとなるなら私も同行しよう、休みを申請するから早めに伝えてくれ」

「私の趣味はピアノの演奏と読書と詩作なのですが」

「どれも素晴らしいじゃないか。是非続けてくれ。ピアノと詩はアイルにも聞かせてあげてくれないか。私がいないと退屈しているようなんだ」

お茶を口に含み、しばらく考える。 



…アリだな。



「わかりました。それではジョーンズ様と結婚して、娘になります」

「お父様と呼んでくれ」

「よろしくお願いしますお父様」

そういって頭を下げると、ジョーンズ様…お父様は花が咲いたかのように笑う。

隣に座るアイル様の表情も、なんとなく明るくなった気がした。







それから十年。

私はジョーンズ様の妻として娘として、穏やかな毎日を送っている。

もうすぐ甥と姪が一人ずつ養子として我が家に来ることになっている。二人ともとても可愛いので楽しみだ。

「メイル、アイルとお茶を飲むんだ、一緒にどうだ」

「すぐ行きますお父様。そうだ、新しい曲を練習したんです、お母様もお好きなんですよ」

「では後で聴かせてもらおうか」

妻として娘として、私は今日もジョーンズ様の隣で生きている。
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