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ヒロインもしくは悪役令嬢
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「そういえば、誰が訪ねて来たのか聞くのを忘れていたのだけど、あなたたちは知ってる?」
真新しいやや胸の開いた薄いピンクのドレスに着替えさせられながら、私は側にいた侍女に声をかけた。
すると側にいた若い侍女たち三人は、一往に目を合わせる。
「それを聞かないと私も対応出来ないのだから、大丈夫よ」
ルドのことだ。
出入りする侍女たちにも皆、口をきかぬように言ってあるのだろう。
「あ、あの。恐れ入ります……アーシエ様」
「で、どこのどなたなの?」
「クルム公爵家のユイナ令嬢様です」
公爵家と言えば、貴族の中でも一番位の高い人たちを指す。
アーシエの家は侯爵家で、本来ならばヒロインのユイナ令嬢よりも身分は低い。
ただ今は違う。
私は次期王たるルドの婚約者であり、その寵愛を独り占めしている次期王妃候補なのだ。
元の身分では下であっても今私より身分が高いのは王と王妃、そしてルドだけ。
こんな風に押しかけて、会えるようなものではないはずだ。
それなのに自分の身分を盾にし、身分の低い侍女たちを脅してまで私と会おうとするなんて、一体何を考えているのだろうか。
そういえば、アーシエが彼女に毒を飲ませたとルドは言っていたっけ。
そのための嫌味か、謝罪要求か。
どちらにしても、アーシエの記憶のない私になにか言われても……。
「も、申し訳ありません。わたくしどもが不甲斐ないばかりに、アーシエ様にすべてお任せしてしまうことになってしまいまして」
土下座するのではないかと思うくらいに、三人は頭を低く下げた。
どうやら沈黙している私が、怒っていると思ったらしい。
「大丈夫よ。あなたたちのせいではないわ。それにちょうど暇をしていたから。ほら、頭を上げて仕度を手伝ってくれるかしら」
彼女たちに微笑んで見せると、ほっとしたように笑顔を返してくれる。
そんな様子に、少し自分の心も温かくなった。
初めからこんな風に話していれば、彼を待って不安で泣くだけの日々はもっと違っていたのかもしれない。
「お綺麗です、アーシエ様」
ドレスを着替え終わったあと丁寧に髪をハーフアップにしてもらい、そこにルドからの贈り物である宝石の付いたピンたちを付けた。
縦巻ではない朱色の髪に、キラキラと輝く宝石たちがまるで夕暮れを見せてくれているようだった。
今思えば、あの髪型のせいで私はアーシエを悪役令嬢と思い込んだのだから。
そこまで考えて、ふと気づいた。
アーシエは悪役令嬢ではなく、ルドの攻略対象であったということに。
それならば、ユイナ令嬢はヒロインではなく本来の役割はもしかすると悪役令嬢なのでは……。
ただそうだと仮定すると、話が少しおかしくなる。
もしアーシエがヒロインだとするならば、ユイナ令嬢に毒を飲ませる意味がないのだ。
そんなことをしたとしても、アーシエにはなんのメリットもない。
例えルドのヤンデレから逃げたかったとしても、それがユイナ令嬢に毒を盛ることにはならないのだから。
むしろ彼女こそが悪役令嬢だとして、自作自演か、または毒を飲んだのがアーシエだったと考える方が無難ではないのだろうか。
アーシエの中に彼女ではなく私がいるということが、それを物語っている。
ユイナ令嬢は、アーシエにとっての敵。
そう思って相手をした方がいいのかもしれない。
すべては仮定の話でしかないけど、それでも自分の身を守るためならば仕方ない。
私は大きく息を吸い込んだ後、応接間へと歩き出した。
真新しいやや胸の開いた薄いピンクのドレスに着替えさせられながら、私は側にいた侍女に声をかけた。
すると側にいた若い侍女たち三人は、一往に目を合わせる。
「それを聞かないと私も対応出来ないのだから、大丈夫よ」
ルドのことだ。
出入りする侍女たちにも皆、口をきかぬように言ってあるのだろう。
「あ、あの。恐れ入ります……アーシエ様」
「で、どこのどなたなの?」
「クルム公爵家のユイナ令嬢様です」
公爵家と言えば、貴族の中でも一番位の高い人たちを指す。
アーシエの家は侯爵家で、本来ならばヒロインのユイナ令嬢よりも身分は低い。
ただ今は違う。
私は次期王たるルドの婚約者であり、その寵愛を独り占めしている次期王妃候補なのだ。
元の身分では下であっても今私より身分が高いのは王と王妃、そしてルドだけ。
こんな風に押しかけて、会えるようなものではないはずだ。
それなのに自分の身分を盾にし、身分の低い侍女たちを脅してまで私と会おうとするなんて、一体何を考えているのだろうか。
そういえば、アーシエが彼女に毒を飲ませたとルドは言っていたっけ。
そのための嫌味か、謝罪要求か。
どちらにしても、アーシエの記憶のない私になにか言われても……。
「も、申し訳ありません。わたくしどもが不甲斐ないばかりに、アーシエ様にすべてお任せしてしまうことになってしまいまして」
土下座するのではないかと思うくらいに、三人は頭を低く下げた。
どうやら沈黙している私が、怒っていると思ったらしい。
「大丈夫よ。あなたたちのせいではないわ。それにちょうど暇をしていたから。ほら、頭を上げて仕度を手伝ってくれるかしら」
彼女たちに微笑んで見せると、ほっとしたように笑顔を返してくれる。
そんな様子に、少し自分の心も温かくなった。
初めからこんな風に話していれば、彼を待って不安で泣くだけの日々はもっと違っていたのかもしれない。
「お綺麗です、アーシエ様」
ドレスを着替え終わったあと丁寧に髪をハーフアップにしてもらい、そこにルドからの贈り物である宝石の付いたピンたちを付けた。
縦巻ではない朱色の髪に、キラキラと輝く宝石たちがまるで夕暮れを見せてくれているようだった。
今思えば、あの髪型のせいで私はアーシエを悪役令嬢と思い込んだのだから。
そこまで考えて、ふと気づいた。
アーシエは悪役令嬢ではなく、ルドの攻略対象であったということに。
それならば、ユイナ令嬢はヒロインではなく本来の役割はもしかすると悪役令嬢なのでは……。
ただそうだと仮定すると、話が少しおかしくなる。
もしアーシエがヒロインだとするならば、ユイナ令嬢に毒を飲ませる意味がないのだ。
そんなことをしたとしても、アーシエにはなんのメリットもない。
例えルドのヤンデレから逃げたかったとしても、それがユイナ令嬢に毒を盛ることにはならないのだから。
むしろ彼女こそが悪役令嬢だとして、自作自演か、または毒を飲んだのがアーシエだったと考える方が無難ではないのだろうか。
アーシエの中に彼女ではなく私がいるということが、それを物語っている。
ユイナ令嬢は、アーシエにとっての敵。
そう思って相手をした方がいいのかもしれない。
すべては仮定の話でしかないけど、それでも自分の身を守るためならば仕方ない。
私は大きく息を吸い込んだ後、応接間へと歩き出した。
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