第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

文字の大きさ
34 / 120
第二章:帝国の滅亡

十四話:初陣

しおりを挟む
 太陽が真上を通り過ぎようとしている頃、おっさん、メリシア、俺、セルフィの四人は、見渡す限り草一本生えていない荒野のど真ん中でバルギスの進軍を待っていた。

 「うおお……」

 遠くに見える土煙が、ゴゴゴゴという地鳴りと共に徐々に大きくなってきて、心臓が脈打つ音もそれに呼応して高くなっていく。
 早く来て欲しいような……来ないで欲しいような……大学のセンター試験の結果通知を待っている時の、あの感覚に良く似た複雑な心境で顔をこわばらせていると、おっさんが話しかけてきた。

 「緊張しておるな。これがお主の初陣だ、無理もないが……あまり気負うでないぞ」
 「お、おう……」
 「ソウタ様、後ろは私たちにお任せください。いざとなれば撤退も視野にいれて、無理だけはなさらないでくださいね」
 「あ、ありがとう……メリシア」
 「報告、間もなく接敵」
 「うん……報告されなくても分かってる……っつーかそういうこと言わないでくれるか。き、緊張で吐きそうになるから……」

 相手側の魔術に対抗するためということでセルフィに来て貰えたのは正直心強い……のだが、さっきから相手は総数二万八千人だとか、ここを突破されたら万一に備えてグステンに待機中の一万三千の兵は全滅だとか、今さらそれを言われたところでどうしようもない情報ばかりを言ってきて、俺にプレッシャーを与えるのだけはマジでやめて欲しい。

 「――きたぞ!」

 おっさんが指を差した方角に目を向けると、人の群れがこちらへ迫ってきていた。

 「う、あ……」

 はじめは一点から広がっていったのが、今では首を横に動かさなければ端から端まで見通せないほどの黒い津波となって押し寄せてくる。
 これが戦場か……。

 「は、迫力が凄いな」
 「ガッハッハッハ、圧巻だな!」
 「笑いごとじゃないから……」
 「何を縮こまっておる! この戦はこれからお主が掌握するのだ! 胸を張れぃ!」
 「無理……」

 俺の考えた策はこういう現場を知らない机上の空論であるかのような気がしてきて、緊張のあまり手も足もガタガタと震えだす――と、突然メリシアが俺の手をギュッと両手で握ってきた。

 「ソウタ様」

 ハッとしてメリシアを見ると、そこには微笑み交じりのいつものメリシアが居た。

 「私やトルキダスを……何よりも自分を、信じてください。ソウタ様の考えた策は必ずうまくいきます」
 「メ、メリシア……」
 「宿舎で待つユーリちゃんのところへ、早く帰ってあげましょう」

 そういってニッコリと笑うメリシアを、腕を組んでニカっと笑うおっさんを、無表情で何やらこちらに手をかざすセルフィを、順番に見る。
 そうだ。
 俺がみんなを――守るんだ。

 「報告、体組成強化、機能向上、知覚向上、完了。高位魔術障壁のため、効果は日没まで」
 「おっし……じゃ、頑張ってみるわ」
 「はい! ご武運をお祈りしております!」
 「お主の活躍、ここで見ておるからな」
 「おう、笑い話じゃなかったってところを見せてやるよ」

 昨晩、おっさんとルルーさんへ策を話した時の、二人の反応がフラッシュバックする。

 ♦

 「へぇ、その方法っていうの、是非とも教えて貰いたいわね」

 ルルーさんが、それは私の役目よ、と言わんばかりに手を差し出してきたため、灰皿を渡してから自分の席へと戻る。

 「その魔術障壁ってのは、恐らく地上部分にはないんだろ?」
 「当たり前じゃない。地上にそんなもの展開したら、兵の移動に支障が出るわ」
 「だよな。だからさ、策というのもおこがましいほど単純な思いつきなんだけど……誰の目にも止まらないほどの速度で、そのディモズってやつのところまで駆け抜ければいいんじゃないかなって――」
 「フッ……フフッ、フフフフフッ」
 「ガハッハッハッハッハ!」

 突然二人が大笑いし始めたため、キョトンとしてしまう。

 「な、なんだよ」
 「いや、なかなかどうして、良いではないか。誠にお主らしい明快な策だ」
 「フフフフ……そうね、確かにその発想は無かったわ」

 なにか、とんでもなく馬鹿にされてないか……?

 「……や、やっぱダメかな?」
 「――ん? おお、いやいや。違うのだ、お主が考えているようなことではない。オレもクシュナもメリシアも、ずっと、進軍を食い止めるためにはどうしても犠牲は必要という固定観念のもとで、お主にどうやって戦って貰おうかと考えを巡らせていたものでな」

 おっさんがテーブルに手をついて頭を下げる。

 「勘違いさせてすまぬ。お主ができると思うのなら、できるのやもしれぬ。いや、それが可能ならば是非やってみせて欲しい」
 「あの三兄弟を子ども扱いしたアナタの実力、信じているわ」

 ♦

 ――気が付けば、体の震えは既に止まっていた。
 スゥーッと大きく息を吸い、目を閉じて自分の鼓動と呼吸に全神経を集中させていく。

 「フゥー……」

 やがて鼓動が聞こえなくなり、呼吸音もしなくなる。
 目を開けると、周囲にはゆっくりとした時の流れが訪れていた。

 「そういえば、こうして冷静にスローモーション状態になったのは初めてだな……」

 今までは必要な場面が突然きたり、無我夢中でワケも分からずこの状態になっていたから――なんか新鮮だな。
 とりあえず前方に向けて駆けると、ゆっくり動く世界を自分だけが高速で動いているからか、まるですべてが止まっているように感じられるが、この状態をどれくらい続けられるのか自分でも分からないため、急いでディモズを探し出す必要がある。
 そのまま先陣を切っていた兵士の目前まで迫り、思いきり跳躍する。

 「うっわ」

 上から見ると、その数の多さに改めて驚愕する。
 心配になっておっさん達のほうをチラっと振り返る――地上で見ていたときは、プレッシャーやら何やらで先頭集団が目と鼻の先まで迫ってきているように思っていたが、こうして見てみるとまだまだ距離があるようで一安心だ。

 「それにしても、この中から見つけることなんてでき――ん?」

 兵士の群れが黒い雲の塊のようになって地面を埋め尽くしている中に、台風の目のような、明らかに茶色い荒地の色が目立つ一角があることに気づく。
 ルルーさんが言っていた結界というやつなのか、その真上を卵の殻のような楕円形の青い膜が薄っすら覆っていて、厳重さから言ってもあそこが本陣で間違いなさそうだ。

 「フッ!」

 着地するときに人を踏まないか心配だったが、運よく地面に着地することができた。
 間髪入れずに再度跳躍し、本陣の手前へと降り立つ。

 「悪いけど少しどいてくれ」

 隙間なく本陣を囲っている、おっさん並みに屈強な兵をかき分けてようやく開けた場所へ出ると、この場にあって明らかに異質な、六頭のシュロルが引くどでかい馬車と、それを守るように佇む五人の衛兵が広場の中心にいた。

 「あれか……」
 
 馬車へと駆け寄り、意を決して扉を開ける。

 「えっ?」

 予想外なことに馬車の中には人影がなく、金や銀で彩られた豪奢な玉座があるのみだった。
 驚きのあまり固まっていると外が突然騒がしくなったため、慌てて馬車から飛び出る――

 「ぬ!? 貴様、何者だ!!」
 「御座から離れんかぁ!」

 と、馬車の扉側にいた二人の衛兵が俺に気付いて襲いかかってきた。
 まずい、スローモーションが切れたのか!
 
 「うわぁっ!?」

 一人は槍で、一人は剣で斬りかかってきたが、動きが速すぎてまったく見えず、みぞおちと首にモロに食らってしまう。

 ガギッ――ギャリンッ――

 「なにぃ!?」
 「バカなっ!?」

 が、槍は柄の真ん中あたりで縮むように曲がり、剣は下の部分を四分の一ほど残してポッキリと折れてしまい、それを目にした二人が信じられないものを見たかのように顔を見合わせたあと、俺へと視線を戻す。
 
 「まさか貴様、創世の救主かっ!」
 「くそっ、グステンにもいたとは……!」

 ジリジリと俺との間合いを図る二人に気が付いたのか、馬車の反対側にいた残り三人も駆け寄ってきた。
 ……これ以上ダラダラと時間をかけるわけにはいかなそうだ。

 「……あんたらの大将、ディモズはどこだ?」
 「馬鹿が、答えると思うか! 貴様はここで死ぬのだ!!」
 「だよな」

 再び呼吸を整え、スローモーション状態に移行する。
 集まってきた衛兵の鎧を全て剥がし取り、ついでに手に持っていた武器を回収、さらに場を混乱させるためにシュロルのくつわを解いてやる。
 俺への攻撃に失敗して間合いを図っていた衛兵二人を小脇に抱え、不測の事態が発生したため、前もって言われていたようにとりあえずおっさん達の元へと戻る。

 「おっさん、やばいわ。本陣っぽいとこに大将がいない」

 見たことを報告しながら連れてきた二人を放り投げる。

 「うぐっ!?」
 「ぐあっ!」
 「こいつらと、他にも三人の衛兵が本陣にある馬車を守ってたんだけど、中はもぬけの殻で玉座っぽい椅子しかなかったわ」
 「ぬっ!? ず、随分と早かったな……こちらは交戦までまだまだ猶予があるぞ」
 「おかえりなさいませソウタ様! この短い間に捕虜を二名も連れてくるなんて、さすがですっ!」

 あ、そうか。いちおう捕虜って扱いになるのか。

 「もしかして、この二人を使って進軍を止めさせたり……なんてことはできないか?」
 「これがディモズであれば交渉材料になるであろうが、それ以外は無理だ」
 「そうか……」

 まぁ、そりゃそうだよな。

 「じゃあこの二人から大将の居場所を何とかして聞き出せないか?」
 「回答、聞き出す必要はない」
 
 セルフィが二人の頭に手をかざしたかと思えば、次の瞬間、俺に向かって駆け寄ってきた。

 「報告、ディモズは現在セルフィの村を攻撃中」
 「……え? グステンに向かってきてるんじゃないのか?」

 セルフィの村を攻撃って、じゃああの中にはいないのか?
 というか、なんでセルフィの村を攻撃?
 予想だにしない言葉に混乱してしまうが、いつも無表情のセルフィが眉根を寄せて涙を流しているのに気が付く――

 「ソウタ、お願い……みんなを助けて……」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します

burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。 その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...