第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第二章:帝国の滅亡

十七話:帰還

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 未だ遠方に見えるバルギス軍を、深呼吸して高揚する気分を鎮めながら正門前で見据える。

 「住人の避難はまだかかりそうか?」
 「はっ、いまだ完了の報は入っておりません」
 「そうか……」

 グステンの戦時避難所となっている管理協会区ならば、全住民を収容できる十分な敷地が確保されているはずだが、昨晩から急がせている住民の避難にここまでかかっているということは、やはり町の中は指揮系統に問題がありそうだ。
 今回防衛にあたっている兵士の内訳はグステン正規兵五千に対して、傭兵や冒険者としてロイタージェンに登録している非正規兵が八千と、総勢一万三千人のうち大半が専業軍人ではないため、内部の守りも、外部の守りも、どうしても動きがにぶる。
 イマイソウタと別れた後、急ぎグステンへと戻って準備を進めていたのだが、結局は間に合わずにバルギス軍との衝突を迎えそうで残念だ。

 「大丈夫。ソウタ様は必ず来ます」
 「……うむ、そうだな」

 エルフの村を救うためにセルフィと共に駆け去ってからここまで、日の跨ぎを三度経ても戻らぬ創世の救主イマイソウタの生還を妄信的に信じているメリシアだが、たとえ第四創世主でも、かの皇帝ディモズを相手にすれば無事に生還する保証などはどこにもなくなる。
 戦場を知らぬメリシアにとっては無理もないことではあるが、イマイソウタの、この世界の物理法則がほぼ適用されていないのではないかと思わされる、あのでたらめな力をもってしても……あの優しさと甘さがある限り勝負は五分となろう。
 バルギスの皇帝とはそれほどの存在なのだ。

 「報告! バルギス軍、進軍を再開しました!」
 「きたか……全軍傾聴! 我らが守っているのは国ではなく家族である! 友人である! 恋人である! 財産である!」

 城でも砦でも要塞でもない、ただ壁が張られただけの都市国家など、バルギス軍にとっては木造の小屋と同等の、吹けば飛ぶような存在に過ぎない――

 「ゆえに逃げることは許されん! 我らが逃げれば家族が、友人が、恋人が死に! 財産は全て略奪され失うことになる! 生き残りたいのなら、救いたいのなら、命を捨てろ! 活路はそこにある!」

 オオオオオオオオオ!!

 全身を使ってあらん限りに声を張り上げて戦場全体にげきを飛ばすと、兵が吼えるようにそれに応え、士気が一気に上がっていくのを感じる。
 この空気……内部の守りを買って出てくれたカースディル殿にも味わって貰いたかった。

 「第一隊、槍構えぇ!」
 「第一隊、前へー!」
 「槍を構えろー!」

 再び声を張り上げると、騎乗した伝令官が復唱しながら隊列の隙間を駆けまわって隅々まで令を伝えていく。

 「進めぇ!」
 「前進ー!」
 「進めェー! 前進だー!」

 バルギス軍は定石通り、まずは守備の穴をあけるために騎兵で突撃してきたため、こちらも定石通り前もって前線に配置しておいた槍隊を前進させ、騎馬の足を潰しにかかる――と、バルギス軍とグステン軍の丁度中心に、は現れた。

 「ソ、ソウタ様……!」
 「なっ……!?」

 隣でメリシアが叫んだ名を耳にして驚愕する。
 ソウタ? あ、あれが……イマイソウタだというのか!?
 さすがに距離が遠すぎて、突然転移してきた三人組であることや、全身を赤く染めひときわ存在感を放つ人物――人間の男性と思われる――が、何かを抱えていることくらいしか分からない。
 あれがイマイソウタだと言われても、雰囲気が違い過ぎてにわかには信じがたい。

 ズゥゥゥゥン……ドズゥゥゥン……

 開戦間際にも関わらず、驚愕と興味で目が離せないでいると、人間の男性が抱えていたものをおろしてから何やら地面を足で打ち鳴らし始めた。

 ズドォォォン……ズズゥゥゥン……

 「何を……しているんだ……?」
 「ほ、報告ー! 女のエルフ二名と人間の男が突如出現! お、男が抱えている人物はバルギスの皇帝と思われます!!」
 「なん、だと!?」

 や、やったのかイマイソウタ……!
 まったくお主という奴は……!

 「報告します! 突如出現した人間の男、どうやらバルギス軍へ停戦を要求している模様!」
 「停戦要求だと!?」

 ここまで事態が発展してしまった今となっては、いくらなんでも不可能だ。
 逆に、皇帝の死という炭を手に入れたバルギス軍は、炉のように一気に加熱してしまいかねない!

 「……止めに行かねば! メリシア、お主も来い!」
 「は、はい!」

 イマイソウタ、ここまできて判断を誤ってはならぬぞ……!
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