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第三章:第四創世主の弱点
二話:切れ者の大食漢
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「あ……いえ、ディブロダール――エリウスに先手を打たれてしまった今となっては、次策でその先を行かねばこちらの被害は増すばかりでは、と」
俺が困惑していることに気付いたのか、メリシアが気まずそうに補足をいれる。
「ぬぅ……やはりそれしかないか……」
「疑問、相手との戦力差がはっきりと分からない現状で攻撃した場合、結果は予測不可能」
確かに……そもそも五万人も魔術師がいるというディブロダールを相手に、そんな奇襲みたいなことが可能なのか?
それに、もし奇襲が成功したところで返り討ちにされそうだ……。
一緒に行きたいどうしても行きたい連れてかなかったら嫌いになる――って、さんざんグズられて悩んだけど……あのあとユーリをロイタージェンで預かって貰う判断をしたことはやっぱり正解だったな。
「……また俺が一人で出るしかないか」
呟くように言うと、ファフミルとセルフィが揃って首を横に振った。
「無理、ソウタがいくら強くても魔術から身を守る術が無ければ利用されて終わる」
「そうなのか?」
「ご主人様には申し訳ございませんが、ボクとセルフィで寝ているご主人様に何度か精神操作を試したことがあります。強力な魔術障壁による無効化補正はございましたが、十分な効果を得られました」
「せ、精神操作?」
「はい。術者の意のままに対象を操るような魔術と考えて頂ければ分かり易いかと存じます」
「俺に黙ってそんなことしたのかよ!?」
「報告、気持ちよかった」
「ナニが!?」
セルフィとファフミルが恍惚とした表情を浮かべて下腹部を押さえる。
い、いったい俺を操作してナニをさせ――シてくれたんだ!
クソッ! まったく覚えてねぇ!
「んんっ……その、精神操作してた時の記憶ってのは、魔術で蘇らせられ――」
「ソウタ様」
「ハイッ!!」
静かに怒鳴るメリシアにシャキッと背筋を伸ばして返答する。
「今は御身に関わる真面目な話をしているのです……そのように茶化すのはおやめくださいね?」
「以後、気を付けます……」
「……それで? 遠距離からでも対象の精神を操作することは可能なのでしょうか」
「それをさせないためにボクとセルフィがいるのです」
「肯定、ソウタを対象に行った操作試験ではある程度の距離があっても一定の効果は得られたが、距離に比例して操作難度は上昇。よって、術者の魔力量や演算能力などによって限界距離は伸びると予測はできるが、術者が対象を視認できないほどの遠距離からでは不可能」
「なるほど。では、遠見でソウタ様の正確な居場所を特定し、至近距離に転移してすぐに精神操作を行う……などの手段であれば、ソウタ様を捕縛することは可能というわけですね」
「そんな手もあるわけか……つくづく何でもアリだなぁ……」
「とにかく、今は優先順位を決め一つずつ取り掛かるしかあるまいな」
というおっさんの意見から、ディブロダールへ先制攻撃を行うにしてもまずは魔術への対策が必要という結論に達し、夕方くらいまで話し合った結果――いくつかの具体策が決定した。
魔術への対策その一
ファフミル、セルフィ、メリシアの三名は常時俺と一緒に行動。
もし俺が魔術によって操作などされてしまった場合は、ファフミルとセルフィで解除を試みている間にメリシアが俺を無力化する。
魔術への対策その二
帝都の広域魔術防壁の強化。
防壁作成に使用しているダイヤモンドの不足分はグステンとの交渉で手に入れる。
魔術への対策その三
魔術障壁効果のある神器と呼ばれる武具の入手。
当初はディモズの鎧の再利用が検討されたが、静金属の鎧は破片回収済みも鎧として再度作り直すにはまったく量が足りず不可。ディモズの神剣は、俺の意向もあり引き続き遺体と共にあの場所に埋葬しておくことになったため、神器の入手はその他の対策と並行して調査などを行うこととなった。
「……ぬぅ。ディブロダールやエリウスへの対処以前に、やることが多すぎるな……」
「セルフィ、最悪の場合を想定したとして、ディブロダールとの全面戦争まで猶予はどれくらいありそうなんだ?」
「回答、早ければ三週間。長くても一月」
「……先制攻撃を考えるなら、実質三週間もないって考えたほうがいいか……短いなぁ」
「やはり問題は時間になるか。どの戦も変わらぬな……」
「これ、間に合うのか……?」
「分からぬが……間に合わねば、世界は終わる」
とんでもないプレッシャーだが、ここまできて引き下がるわけにはいかないし、もちろんそのつもりもない。
それに、いざって時には――アレがあるしな。
「それではご主人様、お話もひと段落つきましたし、お食事に致しましょう」
「そうだな、そうしようか」
みんなでゾロゾロと食堂へと移動する……と、一度目にすれば忘れようがない人物が既に席へ座って食事中だった。
「んむっんぐっ、んももっ? ンッグ、これは失礼しましたっ」
モシャモグと口の中いっぱいに咀嚼していた食べ物を慌てて飲み込んで席を立ち、ドスドスと鈍重な足音を響かせながらこちらへ駆け寄ってくる、この、見事なまでにでっぷりと肥えた青年は――
「グステン管理協会長の……グエン・ドーズ」
「依頼達成の報酬交渉会のとき以来ですね。お久しぶりです、イマイソウタ皇帝陛下」
「久しぶり。元気そうで何よりだ」
「商人は体が資本ですからね。陛下におかれましても、この度のディブロダールとの一件もあり心配しておりましたが、お元気そうで安心いたしました」
相変わらず喋るたびにブルブルと動くアゴの肉が気になってしまうが、そんなむさくるしさを爽やかな春風のような屈託のない笑顔が帳消しにする。
その、気が付くとこちらの懐へと入ってくる手腕は、さすが若干二十六歳にして商人たちを取りまとめる地位にいるだけはある。
「で、なんで協会長がここにいるんだ?」
「おや? お聞きになられてませんか……?」
「陛下、グエン殿が謁見許可を求めていると近衛兵長が申していたではありませんか」
「あっ」
おっさんがすかさずフォローを入れてくれる。
やっべ、すっかり忘れてた。
「ハハハハ。何か手違いがありましたかな? いやいや、謁見許可が降りたと転移管理室から報告を受けたので、取り急ぎ食事もせずに転移して参った次第でして。通された部屋で使用人の方にそのことを漏らしたところ、なんと食事を用意して頂けるとのことではありませんか!」
食事の直後だからか、元々そうなのか、まん丸に膨らんだ腹をサスサスと撫でる。
「そういうわけで、一人でご相伴に預からせて貰っていたのです」
「なるほど、そうだったのか。俺らも食事にしようと思って来たからちょうど良かった。その様子じゃまだ食べ足りないだろ? 一緒に食べようぜ」
「なんと……私などがご一緒してよろしいのですか?」
「ほかでもない陛下が申しておるのだ。構わんよ、グエン殿」
「ありがとうございます、トルキダス将軍閣下。それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」
食堂の無駄に長いテーブルの端へ俺が座ると、少し後ろで椅子を挟むようにして――エルフは人前で食事をしないらしい――セルフィとファフミルが姿勢正しく佇む。
メリシアは俺のすぐ左隣の席に座り、おっさんはその隣へ、グエンはテーブルをグルっと回り込んでおっさんの目の前に座る。
ほどなくして料理が運ばれてくると、肉の焼けるいい香りが唾液の分泌を促した。
今日の献立は俺の大好物のゴモス(ほぼ牛肉)の霜降りステーキとセイフォワ(鯛っぽい白身魚)のムニエル、キノコとタマネギのコンソメスープ、色とりどりの新鮮な野菜とチーズがたっぷり盛られたシーザーサラダ、糖度抜群の各種果物盛り合わせ、小麦が香るふんわり柔らかなパンだ。
皇帝になってガラリと食生活が豊かになり、好きなものを好きなだけ食べるような日々がしばらく続いたため当初は太るのではないかと思ったのだが、特に運動もしていないのに不思議と体に肉が付くようなこともなくここまできている。
俺の体の構造は普通の人間と変わらないらしいが、消費していないカロリーはいったいどこへ消えているんだろう?
その謎を解明してグエンに教えたら喜んだりするのかな?
などというどうでもいいことを考えながら、いつものようにメリシアが口へと運んでくれる料理に舌鼓を打っていると、グエンがポツポツとディブロダールからの国家依頼について、語るようにしながら話し始めた。
「……グステンは長いあいだ自由な貿易が可能な唯一の都市として、中立の立場を守って参りました。国として認められているとはいえ、正式な軍隊も少数しか持たない単なる貿易拠点なのです」
グエンがグラスに三分の一程度残っていたワインを一気に飲み干す。
「そんな、愛すべき我が故郷でもあるグステンにきた国家依頼の内容は、貴国との商取引の停止や戦時物資供給を含めた戦争協力とも呼べる、とても承認できないものでした……しかし、協力しない場合は我々とも事を構える用意があると明文されており、もはや依頼ではなく脅迫に近い内容のため、管理協会や商工会の会員をはじめとした多くの商人が賛同の意向を示しております」
「まぁ、無理もないよ。誰だって自分が一番かわいいものだしな」
「私は嫌なのです! 祖父が、父が……歴代の商人が誇りをもって守ってきたグステンの自由貿易という信念を、脅されたくらいで曲げたくない!」
ツーッと、グエンの瞳から涙がこぼれる。
初めて会った時も、ついさっきまでも商人として笑顔を絶やさなかったグエンが……泣いている。
「……失礼しました」
「気にするな」
男の悔し涙は、抱えているものが多いほど胸に迫るものがある。
「ですので、表向きは事実確認ということで謁見許可を願い出たのですが、実はお願いがあってまいりました」
「お願い? もし助けてくれってことだったら、こっちがお願いしたいくらいだけど……」
「いえ、グステンの管理協会長にのみ代々受け継がれる物語……というより神話があるのですが、お願いというのはその中で語られている、とある実在する洞窟の最奥に眠る神器――ラファムレアを入手して頂きたいということと、その神器を使ってディブロダールに打ち勝てた暁には、グステンとの独占貿易権をお約束頂きたいという二点です」
「……それ、実質のお願いは一点だな」
「ハハハハ、さすがは陛下。お察しが鋭くらっしゃいますね」
つい今しがた泣いていたのが嘘のように屈託なく笑うその姿は、まさしく商人のそれだった。
まったく、これだから商人は……。
「分かった、ディブロダールを倒せたら独占貿易権な」
俺が困惑していることに気付いたのか、メリシアが気まずそうに補足をいれる。
「ぬぅ……やはりそれしかないか……」
「疑問、相手との戦力差がはっきりと分からない現状で攻撃した場合、結果は予測不可能」
確かに……そもそも五万人も魔術師がいるというディブロダールを相手に、そんな奇襲みたいなことが可能なのか?
それに、もし奇襲が成功したところで返り討ちにされそうだ……。
一緒に行きたいどうしても行きたい連れてかなかったら嫌いになる――って、さんざんグズられて悩んだけど……あのあとユーリをロイタージェンで預かって貰う判断をしたことはやっぱり正解だったな。
「……また俺が一人で出るしかないか」
呟くように言うと、ファフミルとセルフィが揃って首を横に振った。
「無理、ソウタがいくら強くても魔術から身を守る術が無ければ利用されて終わる」
「そうなのか?」
「ご主人様には申し訳ございませんが、ボクとセルフィで寝ているご主人様に何度か精神操作を試したことがあります。強力な魔術障壁による無効化補正はございましたが、十分な効果を得られました」
「せ、精神操作?」
「はい。術者の意のままに対象を操るような魔術と考えて頂ければ分かり易いかと存じます」
「俺に黙ってそんなことしたのかよ!?」
「報告、気持ちよかった」
「ナニが!?」
セルフィとファフミルが恍惚とした表情を浮かべて下腹部を押さえる。
い、いったい俺を操作してナニをさせ――シてくれたんだ!
クソッ! まったく覚えてねぇ!
「んんっ……その、精神操作してた時の記憶ってのは、魔術で蘇らせられ――」
「ソウタ様」
「ハイッ!!」
静かに怒鳴るメリシアにシャキッと背筋を伸ばして返答する。
「今は御身に関わる真面目な話をしているのです……そのように茶化すのはおやめくださいね?」
「以後、気を付けます……」
「……それで? 遠距離からでも対象の精神を操作することは可能なのでしょうか」
「それをさせないためにボクとセルフィがいるのです」
「肯定、ソウタを対象に行った操作試験ではある程度の距離があっても一定の効果は得られたが、距離に比例して操作難度は上昇。よって、術者の魔力量や演算能力などによって限界距離は伸びると予測はできるが、術者が対象を視認できないほどの遠距離からでは不可能」
「なるほど。では、遠見でソウタ様の正確な居場所を特定し、至近距離に転移してすぐに精神操作を行う……などの手段であれば、ソウタ様を捕縛することは可能というわけですね」
「そんな手もあるわけか……つくづく何でもアリだなぁ……」
「とにかく、今は優先順位を決め一つずつ取り掛かるしかあるまいな」
というおっさんの意見から、ディブロダールへ先制攻撃を行うにしてもまずは魔術への対策が必要という結論に達し、夕方くらいまで話し合った結果――いくつかの具体策が決定した。
魔術への対策その一
ファフミル、セルフィ、メリシアの三名は常時俺と一緒に行動。
もし俺が魔術によって操作などされてしまった場合は、ファフミルとセルフィで解除を試みている間にメリシアが俺を無力化する。
魔術への対策その二
帝都の広域魔術防壁の強化。
防壁作成に使用しているダイヤモンドの不足分はグステンとの交渉で手に入れる。
魔術への対策その三
魔術障壁効果のある神器と呼ばれる武具の入手。
当初はディモズの鎧の再利用が検討されたが、静金属の鎧は破片回収済みも鎧として再度作り直すにはまったく量が足りず不可。ディモズの神剣は、俺の意向もあり引き続き遺体と共にあの場所に埋葬しておくことになったため、神器の入手はその他の対策と並行して調査などを行うこととなった。
「……ぬぅ。ディブロダールやエリウスへの対処以前に、やることが多すぎるな……」
「セルフィ、最悪の場合を想定したとして、ディブロダールとの全面戦争まで猶予はどれくらいありそうなんだ?」
「回答、早ければ三週間。長くても一月」
「……先制攻撃を考えるなら、実質三週間もないって考えたほうがいいか……短いなぁ」
「やはり問題は時間になるか。どの戦も変わらぬな……」
「これ、間に合うのか……?」
「分からぬが……間に合わねば、世界は終わる」
とんでもないプレッシャーだが、ここまできて引き下がるわけにはいかないし、もちろんそのつもりもない。
それに、いざって時には――アレがあるしな。
「それではご主人様、お話もひと段落つきましたし、お食事に致しましょう」
「そうだな、そうしようか」
みんなでゾロゾロと食堂へと移動する……と、一度目にすれば忘れようがない人物が既に席へ座って食事中だった。
「んむっんぐっ、んももっ? ンッグ、これは失礼しましたっ」
モシャモグと口の中いっぱいに咀嚼していた食べ物を慌てて飲み込んで席を立ち、ドスドスと鈍重な足音を響かせながらこちらへ駆け寄ってくる、この、見事なまでにでっぷりと肥えた青年は――
「グステン管理協会長の……グエン・ドーズ」
「依頼達成の報酬交渉会のとき以来ですね。お久しぶりです、イマイソウタ皇帝陛下」
「久しぶり。元気そうで何よりだ」
「商人は体が資本ですからね。陛下におかれましても、この度のディブロダールとの一件もあり心配しておりましたが、お元気そうで安心いたしました」
相変わらず喋るたびにブルブルと動くアゴの肉が気になってしまうが、そんなむさくるしさを爽やかな春風のような屈託のない笑顔が帳消しにする。
その、気が付くとこちらの懐へと入ってくる手腕は、さすが若干二十六歳にして商人たちを取りまとめる地位にいるだけはある。
「で、なんで協会長がここにいるんだ?」
「おや? お聞きになられてませんか……?」
「陛下、グエン殿が謁見許可を求めていると近衛兵長が申していたではありませんか」
「あっ」
おっさんがすかさずフォローを入れてくれる。
やっべ、すっかり忘れてた。
「ハハハハ。何か手違いがありましたかな? いやいや、謁見許可が降りたと転移管理室から報告を受けたので、取り急ぎ食事もせずに転移して参った次第でして。通された部屋で使用人の方にそのことを漏らしたところ、なんと食事を用意して頂けるとのことではありませんか!」
食事の直後だからか、元々そうなのか、まん丸に膨らんだ腹をサスサスと撫でる。
「そういうわけで、一人でご相伴に預からせて貰っていたのです」
「なるほど、そうだったのか。俺らも食事にしようと思って来たからちょうど良かった。その様子じゃまだ食べ足りないだろ? 一緒に食べようぜ」
「なんと……私などがご一緒してよろしいのですか?」
「ほかでもない陛下が申しておるのだ。構わんよ、グエン殿」
「ありがとうございます、トルキダス将軍閣下。それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」
食堂の無駄に長いテーブルの端へ俺が座ると、少し後ろで椅子を挟むようにして――エルフは人前で食事をしないらしい――セルフィとファフミルが姿勢正しく佇む。
メリシアは俺のすぐ左隣の席に座り、おっさんはその隣へ、グエンはテーブルをグルっと回り込んでおっさんの目の前に座る。
ほどなくして料理が運ばれてくると、肉の焼けるいい香りが唾液の分泌を促した。
今日の献立は俺の大好物のゴモス(ほぼ牛肉)の霜降りステーキとセイフォワ(鯛っぽい白身魚)のムニエル、キノコとタマネギのコンソメスープ、色とりどりの新鮮な野菜とチーズがたっぷり盛られたシーザーサラダ、糖度抜群の各種果物盛り合わせ、小麦が香るふんわり柔らかなパンだ。
皇帝になってガラリと食生活が豊かになり、好きなものを好きなだけ食べるような日々がしばらく続いたため当初は太るのではないかと思ったのだが、特に運動もしていないのに不思議と体に肉が付くようなこともなくここまできている。
俺の体の構造は普通の人間と変わらないらしいが、消費していないカロリーはいったいどこへ消えているんだろう?
その謎を解明してグエンに教えたら喜んだりするのかな?
などというどうでもいいことを考えながら、いつものようにメリシアが口へと運んでくれる料理に舌鼓を打っていると、グエンがポツポツとディブロダールからの国家依頼について、語るようにしながら話し始めた。
「……グステンは長いあいだ自由な貿易が可能な唯一の都市として、中立の立場を守って参りました。国として認められているとはいえ、正式な軍隊も少数しか持たない単なる貿易拠点なのです」
グエンがグラスに三分の一程度残っていたワインを一気に飲み干す。
「そんな、愛すべき我が故郷でもあるグステンにきた国家依頼の内容は、貴国との商取引の停止や戦時物資供給を含めた戦争協力とも呼べる、とても承認できないものでした……しかし、協力しない場合は我々とも事を構える用意があると明文されており、もはや依頼ではなく脅迫に近い内容のため、管理協会や商工会の会員をはじめとした多くの商人が賛同の意向を示しております」
「まぁ、無理もないよ。誰だって自分が一番かわいいものだしな」
「私は嫌なのです! 祖父が、父が……歴代の商人が誇りをもって守ってきたグステンの自由貿易という信念を、脅されたくらいで曲げたくない!」
ツーッと、グエンの瞳から涙がこぼれる。
初めて会った時も、ついさっきまでも商人として笑顔を絶やさなかったグエンが……泣いている。
「……失礼しました」
「気にするな」
男の悔し涙は、抱えているものが多いほど胸に迫るものがある。
「ですので、表向きは事実確認ということで謁見許可を願い出たのですが、実はお願いがあってまいりました」
「お願い? もし助けてくれってことだったら、こっちがお願いしたいくらいだけど……」
「いえ、グステンの管理協会長にのみ代々受け継がれる物語……というより神話があるのですが、お願いというのはその中で語られている、とある実在する洞窟の最奥に眠る神器――ラファムレアを入手して頂きたいということと、その神器を使ってディブロダールに打ち勝てた暁には、グステンとの独占貿易権をお約束頂きたいという二点です」
「……それ、実質のお願いは一点だな」
「ハハハハ、さすがは陛下。お察しが鋭くらっしゃいますね」
つい今しがた泣いていたのが嘘のように屈託なく笑うその姿は、まさしく商人のそれだった。
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