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第三章:第四創世主の弱点
一話:引き渡し要求
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相当慌てながらここまで走ってきたらしいギリゴスモが、額を流れる汗を気にも留めずに続ける。
「グステンにあるギルドにも、正式な国家依頼としてディブロダールから届け出があったらしく、グステン管理協会長のグエン・ドーズ様が事実確認のため来城許可を求めてきております!」
「……なん、だと?」
「トルキダス将軍、メリシア宰相。お恐れながら、お二方はオールタニア出身とお聞きしておりますが、確かでしょうか」
「そうだ」
「……はい」
「エリウスというシャイア教の教皇をご存じですか? 陛下の引き渡しを我がバルギスソウタ帝国へ要求してきたのが、そのエリウス教皇なのですが――」
「エリウスが教皇だと!? 確かなのか!」
「はっ。正式な文書で届いたものですので、間違いありません」
「お、お父様……っ」
メリシアが顔を両手で覆うようにして泣き崩れる。
そうか……エリウスが教皇になったということは、メリシアの親父さんは……。
「……要求に応じなかった時は?」
大体想像は付くが、念のため確認する。
「はっ。僭越ながら要求に関する主文書を読み上げさせていただきます」
―――――― 主 文 ――――――
宵闇の使徒イマイソウタの即時引き渡しを要求する。理由は以下の通りである。
1:ディブロダール(旧オールタニア)所蔵の聖宝損壊
2:第一級者殺人未遂
3:刑罰執行前逃亡
また、宵闇の使徒への逃亡教唆及び協力を行った以下の背教者二名についても、即時引き渡しを要求する。
元近衛兵長トルキダス・クロンベルク:生死不問
元枢機卿メリシア・コーネルス:生死不問
なお、バルギスソウタ帝国が不当に要求を拒絶した場合、ディブロダールとの全面戦争を受諾したものと判断する。
シャイア様の御名の元、冷静かつ慎重な判断に期待する。
シャイア教皇 エリウス・フリュイアーノ
「……以上になります」
「ええい! 先手を打たれたかッエリウスめッ!!」
突然激昂したおっさんが机を思い切り叩き、木製の立派な執務机にヒビが入る。
「おいおい、おっさんらしくないな。何をそんなに怒ってるんだよ」
「これが憤慨せずにいられるかッ! よりにもよってディブロダールとの全面戦争だぞ!?」
「そんなにマズイことなのか?」
「当たり前だッ!」
初めて会った時のように熱気すら感じるほどの威圧感を放ちながら吼えるその姿を見ても、いまいち事の大きさが分からない。
戦争ならバルギスとだってしたし、今度だって何とかなるんじゃないかという気がするが……。
「回答、ならない」
「うぉぉい、だから思考を読むなって!」
「拒否、セルフィはいつだってソウタの中に居たい」
「う……」
エルフの村を救った時、俺が気を失っている間に記憶をすべて読み取ったらしいが……何を読み取ったらそうなったのか、あれ以来あからさまな好意をファフミルと共に向けてくるようになり、なんとも扱いに困ってしまう。
上目遣いで胸元を寄せながらグイグイ迫ってくるセルフィから視線を外せないでいると、メリシアがいつものようにセルフィの首根っこを掴んで引き離す。
「……ソウタ様がお困りです。離れてください」
「否定、困っていない。ソウタはセルフィの生理的特徴を観察しながら下腹部の体組成を硬化させ喜んでいる」
「ちょっ!?」
「ソウタ様……」
男の悲しい性をみんなの前で言語化されてしまい、椅子に座ったまま思わず前かがみになる。
……やめてくれメリシア……そ、そんな泣きそうな目で俺を見ないでくれ……。
「じゃれ合っている場合ではないイマイソウタ。ディブロダールは魔術大国……全面戦争ともなれば帝都は間違いなく火の海と化すぞ」
「は? いや、えっ、そうなの?」
「……恐れながら、ディブロダールが擁する魔術兵は五万を超えているという情報もあります。対する我がバルギスソウタ軍の擁する魔術兵は、辺境にいる者を含めても一万と少ししかおりません」
「で、でも歩兵や重騎兵なんかの数はこっちのほうが多いんだろ?」
「グステンへの進軍をたった三人で退けたお主が兵の多寡で語るな。魔術とはそれ自体が戦を左右しかねない代物なのだ」
「……それなら、なんで今までバルギスを攻めなかったんだよ。そんなに圧倒的な差があるならディブロダールだけでこの世界を征服でも何でもできるんじゃないのか?」
「フゥ……お主に今まで教えてきたことはなんだったのだろうな……いまだに根本が理解できておらぬとは……」
おっさんが呆れ顔で葉巻を取り出し、火をつける。
「スー、フハァー……よいか。ディブロダールは、何も独裁による恐怖政治を行っているような狂犬国家というわけではない」
「……どういうことだ?」
「戦争とは、土地や資源や人材の奪い合いを血みどろの争いの中で行うことを言う。主義主張の違いから戦争に発展することもあるが、そういった戦も紐解いていけば、結局は土地や資源や人材欲しさに始まったことだったりするものだ」
おっさんが、歯で噛むようにして咥えていた葉巻を右手の指三本で持ち直し、灰皿の上に持っていく。
そして葉巻の腹を人差し指でトントンと優しく叩き灰を落とすと、再度咥えなおした。
「自分が十分な土地や資源や人材を確保しているなら、戦争など資源の浪費にほかならない愚かな行為。するだけ無駄というもの……ディモズという例外はいたがな」
「……今回は、エリウスからの要求がソウタ様の引き渡しとなっておりますので……例の、シャイア様召喚のために……」
「あー……」
もしかして、俺のせいか……。
「俺がバルギスの皇帝になったから戦争に……?」
「ようやく得心がいったか。それにしても、オールタニアを取れなかったことは痛恨だった……エリウスめ、頭だけは切れる男よ」
そういえば、元々の予定ではバルギスの次にオールタニアだったか……ここ最近の忙しさにかまけて、そのことをすっかり忘れていた。
「ギリゴスモ、グステン管理協会長の……えーと?」
「回答、グエン・ドーズ」
「そうそう、その人には来城許可を出しておいてくれ」
「かしこまりました」
「……ああ、報告ありがとう。下がっていいぞ」
一度は話を終えたつもりでいたのだが、そういえば勝手にいなくなったりしないんだと思い出し、下がるよう命令する。
「はっ、それでは失礼いたします!」
「……で? どうしようか」
ギリゴスモが部屋から出ていくのを確認し、誰にともなく相談する。
みんな同じようにどうしようか考えているようで、暫くのあいだ沈黙が続き……恐る恐るといった感じでメリシアが口を開いた。
「……あの、こちらからディブロダールへ打って出てみてはいかがでしょうか」
「へっ?」
突然、メリシアに似合わない好戦的な提案をしてきたため、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「グステンにあるギルドにも、正式な国家依頼としてディブロダールから届け出があったらしく、グステン管理協会長のグエン・ドーズ様が事実確認のため来城許可を求めてきております!」
「……なん、だと?」
「トルキダス将軍、メリシア宰相。お恐れながら、お二方はオールタニア出身とお聞きしておりますが、確かでしょうか」
「そうだ」
「……はい」
「エリウスというシャイア教の教皇をご存じですか? 陛下の引き渡しを我がバルギスソウタ帝国へ要求してきたのが、そのエリウス教皇なのですが――」
「エリウスが教皇だと!? 確かなのか!」
「はっ。正式な文書で届いたものですので、間違いありません」
「お、お父様……っ」
メリシアが顔を両手で覆うようにして泣き崩れる。
そうか……エリウスが教皇になったということは、メリシアの親父さんは……。
「……要求に応じなかった時は?」
大体想像は付くが、念のため確認する。
「はっ。僭越ながら要求に関する主文書を読み上げさせていただきます」
―――――― 主 文 ――――――
宵闇の使徒イマイソウタの即時引き渡しを要求する。理由は以下の通りである。
1:ディブロダール(旧オールタニア)所蔵の聖宝損壊
2:第一級者殺人未遂
3:刑罰執行前逃亡
また、宵闇の使徒への逃亡教唆及び協力を行った以下の背教者二名についても、即時引き渡しを要求する。
元近衛兵長トルキダス・クロンベルク:生死不問
元枢機卿メリシア・コーネルス:生死不問
なお、バルギスソウタ帝国が不当に要求を拒絶した場合、ディブロダールとの全面戦争を受諾したものと判断する。
シャイア様の御名の元、冷静かつ慎重な判断に期待する。
シャイア教皇 エリウス・フリュイアーノ
「……以上になります」
「ええい! 先手を打たれたかッエリウスめッ!!」
突然激昂したおっさんが机を思い切り叩き、木製の立派な執務机にヒビが入る。
「おいおい、おっさんらしくないな。何をそんなに怒ってるんだよ」
「これが憤慨せずにいられるかッ! よりにもよってディブロダールとの全面戦争だぞ!?」
「そんなにマズイことなのか?」
「当たり前だッ!」
初めて会った時のように熱気すら感じるほどの威圧感を放ちながら吼えるその姿を見ても、いまいち事の大きさが分からない。
戦争ならバルギスとだってしたし、今度だって何とかなるんじゃないかという気がするが……。
「回答、ならない」
「うぉぉい、だから思考を読むなって!」
「拒否、セルフィはいつだってソウタの中に居たい」
「う……」
エルフの村を救った時、俺が気を失っている間に記憶をすべて読み取ったらしいが……何を読み取ったらそうなったのか、あれ以来あからさまな好意をファフミルと共に向けてくるようになり、なんとも扱いに困ってしまう。
上目遣いで胸元を寄せながらグイグイ迫ってくるセルフィから視線を外せないでいると、メリシアがいつものようにセルフィの首根っこを掴んで引き離す。
「……ソウタ様がお困りです。離れてください」
「否定、困っていない。ソウタはセルフィの生理的特徴を観察しながら下腹部の体組成を硬化させ喜んでいる」
「ちょっ!?」
「ソウタ様……」
男の悲しい性をみんなの前で言語化されてしまい、椅子に座ったまま思わず前かがみになる。
……やめてくれメリシア……そ、そんな泣きそうな目で俺を見ないでくれ……。
「じゃれ合っている場合ではないイマイソウタ。ディブロダールは魔術大国……全面戦争ともなれば帝都は間違いなく火の海と化すぞ」
「は? いや、えっ、そうなの?」
「……恐れながら、ディブロダールが擁する魔術兵は五万を超えているという情報もあります。対する我がバルギスソウタ軍の擁する魔術兵は、辺境にいる者を含めても一万と少ししかおりません」
「で、でも歩兵や重騎兵なんかの数はこっちのほうが多いんだろ?」
「グステンへの進軍をたった三人で退けたお主が兵の多寡で語るな。魔術とはそれ自体が戦を左右しかねない代物なのだ」
「……それなら、なんで今までバルギスを攻めなかったんだよ。そんなに圧倒的な差があるならディブロダールだけでこの世界を征服でも何でもできるんじゃないのか?」
「フゥ……お主に今まで教えてきたことはなんだったのだろうな……いまだに根本が理解できておらぬとは……」
おっさんが呆れ顔で葉巻を取り出し、火をつける。
「スー、フハァー……よいか。ディブロダールは、何も独裁による恐怖政治を行っているような狂犬国家というわけではない」
「……どういうことだ?」
「戦争とは、土地や資源や人材の奪い合いを血みどろの争いの中で行うことを言う。主義主張の違いから戦争に発展することもあるが、そういった戦も紐解いていけば、結局は土地や資源や人材欲しさに始まったことだったりするものだ」
おっさんが、歯で噛むようにして咥えていた葉巻を右手の指三本で持ち直し、灰皿の上に持っていく。
そして葉巻の腹を人差し指でトントンと優しく叩き灰を落とすと、再度咥えなおした。
「自分が十分な土地や資源や人材を確保しているなら、戦争など資源の浪費にほかならない愚かな行為。するだけ無駄というもの……ディモズという例外はいたがな」
「……今回は、エリウスからの要求がソウタ様の引き渡しとなっておりますので……例の、シャイア様召喚のために……」
「あー……」
もしかして、俺のせいか……。
「俺がバルギスの皇帝になったから戦争に……?」
「ようやく得心がいったか。それにしても、オールタニアを取れなかったことは痛恨だった……エリウスめ、頭だけは切れる男よ」
そういえば、元々の予定ではバルギスの次にオールタニアだったか……ここ最近の忙しさにかまけて、そのことをすっかり忘れていた。
「ギリゴスモ、グステン管理協会長の……えーと?」
「回答、グエン・ドーズ」
「そうそう、その人には来城許可を出しておいてくれ」
「かしこまりました」
「……ああ、報告ありがとう。下がっていいぞ」
一度は話を終えたつもりでいたのだが、そういえば勝手にいなくなったりしないんだと思い出し、下がるよう命令する。
「はっ、それでは失礼いたします!」
「……で? どうしようか」
ギリゴスモが部屋から出ていくのを確認し、誰にともなく相談する。
みんな同じようにどうしようか考えているようで、暫くのあいだ沈黙が続き……恐る恐るといった感じでメリシアが口を開いた。
「……あの、こちらからディブロダールへ打って出てみてはいかがでしょうか」
「へっ?」
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