43 / 120
第三章:第四創世主の弱点
プロローグ:エリウスは嗤う
しおりを挟む
「バルギスソウタ帝国……ですか?」
報告書に記載されている信じられない情報の数々に驚き、確認の意味も込めて質問する。
「はい。宵闇の使徒は、皇帝ディモズを殺害したのち、元シャイア教徒二名及びエルフ二名と共に帝都の王宮を急襲。元老院を脅し、バルギス帝国の滅亡を宣言……と、これらをその日のうちに行ったそうです。現在は、新生バルギスソウタ帝国として諸国との国交締結などを推し進めている模様」
「ふむ」
あれからそれほど経っていないというのに……やはり取り逃がしたのは失敗でしたか。
「分かりました、報告ありがとうございます。あなたは引き続き監視の任を続けてください」
「かしこまりました」
バルギス軍の侵攻を止めたのも予想外でしたが、バルギスの平定までしてしまうとは……こうなっては、もう切るしかない。
「センチピードさん。ヴィッレ教皇には殉教して頂くことになりました」
「あぁ? やっとかぁ?」
椅子に座り、応接用のテーブルの上に載せた足を暇そうにプラプラと動かしていた慈悲主が、ゆっくりと立ち上がる。
「えぇ。予定より少し早いですが、既に各所とは合意に至ってますので問題ありません」
「わかったぁ」
「くれぐれも証拠だけは残さないようにご注意くださいね」
「てめぇこそぉ、報酬わすれんなよぉ?」
「報酬についてはいつも通り手配しておきますのでご心配なく」
「ヒィッヘッヘッヘェ、よぉぉしぃ」
下卑た笑みを浮かべて部屋を出ていく慈悲主の背中を見送ったあと、椅子に深く腰掛け直す。
まったく疲れますね……いえ、疲れましたね。
「シャイア様の復活の為とはいえ、あのようなモノまで使役しなければいけないとは……ま、何でもすると決めたのは私自身ですから、仕方がありませんね」
すっかり冷えて渋みが増してしまった紅茶を口に含み、飲み込まないように敢えてゆっくりと舌で味わいながら、シャイア教徒になった日のことを思い出す。
……降りしきる雨の中、底知れぬ飢えを抱えて路地を彷徨う浮浪者の私を、ヴィッレ教皇は聖堂へと招いて糧と温もりをお与えくださった。
さらにシャイア教へ入信し、この世界はシャイア様によって作られ、シャイア様によって生かされ、シャイア様によって殺されているのだということを教えて頂いた時の、あの……筆舌に尽くしがたい衝撃――
「んふっ!」
そのシャイア様にもうすぐ会えると思った次の瞬間、放たれた精液が修道服の内側をべっとりと汚してしまった。
冷めやらぬ興奮と快感で息苦しくなり、口内にとどめ過ぎて今では唾液の比率のほうが多くなってきた紅茶を、一息で嚥下する。
「んくっ……はぁ、はぁ、はぁ……私としたことが、いけませんね」
あぁ……ヴィッレ教皇……。
その、この世に存在する全ての善意を集めたかのような生き様……アナタはまさしく、聖者として相応しかったですよ。
そんなことだから、あんなディブロダールの宰相如きに、簡単に精神を支配されてしまうのです。
「……フフッ」
あの宰相、名前を何と言いましたか……オールタニア掌握の最後の障害だったメリシア様を試練の巡礼地に向かわせれば、宵闇の使徒に襲わせるなどと言っていたのに、何故か創世の救主を呼び出すような間抜けの名前など、まぁ、別にどうでも良いでしょう。
おかげで、殉教して頂く予定だったメリシア様とトルキダス近衛兵長はまんまと逃げおおせ、バルギスの平定まで成し遂げてしまったのですから、件の慈悲主への報酬は多めに用意して頂かなければ割に合いませんね。
「フフフッ、フフフフフッ」
まぁ……オールタニア掌握にあたって必要となる人材の派遣や各種支援のおかげで、ここまで来られたということだけは認めましょう。
おかげで私が教皇になる目処がつきましたし、双方の目標だったオールタニアの属国化も目前です。
あとはディブロダールの国境をシャイア教にすることと、シャイア様の召喚に私も立ち会わせて貰う約束を果たして頂ければ、何やら実験体を救い出すことに必死な禁忌の魔術師も用済みとなります。
そうだ! その際はあの哀れな老婆の目の前で、センチピードに実験体と遊んで貰うのも面白そうですね。
「フフフフッ! アーッハッハッハッハ!」
長い道のりでしたが、シャイア様――もうすぐ、全てが手に入ります。
今しばらくお待ちください……。
報告書に記載されている信じられない情報の数々に驚き、確認の意味も込めて質問する。
「はい。宵闇の使徒は、皇帝ディモズを殺害したのち、元シャイア教徒二名及びエルフ二名と共に帝都の王宮を急襲。元老院を脅し、バルギス帝国の滅亡を宣言……と、これらをその日のうちに行ったそうです。現在は、新生バルギスソウタ帝国として諸国との国交締結などを推し進めている模様」
「ふむ」
あれからそれほど経っていないというのに……やはり取り逃がしたのは失敗でしたか。
「分かりました、報告ありがとうございます。あなたは引き続き監視の任を続けてください」
「かしこまりました」
バルギス軍の侵攻を止めたのも予想外でしたが、バルギスの平定までしてしまうとは……こうなっては、もう切るしかない。
「センチピードさん。ヴィッレ教皇には殉教して頂くことになりました」
「あぁ? やっとかぁ?」
椅子に座り、応接用のテーブルの上に載せた足を暇そうにプラプラと動かしていた慈悲主が、ゆっくりと立ち上がる。
「えぇ。予定より少し早いですが、既に各所とは合意に至ってますので問題ありません」
「わかったぁ」
「くれぐれも証拠だけは残さないようにご注意くださいね」
「てめぇこそぉ、報酬わすれんなよぉ?」
「報酬についてはいつも通り手配しておきますのでご心配なく」
「ヒィッヘッヘッヘェ、よぉぉしぃ」
下卑た笑みを浮かべて部屋を出ていく慈悲主の背中を見送ったあと、椅子に深く腰掛け直す。
まったく疲れますね……いえ、疲れましたね。
「シャイア様の復活の為とはいえ、あのようなモノまで使役しなければいけないとは……ま、何でもすると決めたのは私自身ですから、仕方がありませんね」
すっかり冷えて渋みが増してしまった紅茶を口に含み、飲み込まないように敢えてゆっくりと舌で味わいながら、シャイア教徒になった日のことを思い出す。
……降りしきる雨の中、底知れぬ飢えを抱えて路地を彷徨う浮浪者の私を、ヴィッレ教皇は聖堂へと招いて糧と温もりをお与えくださった。
さらにシャイア教へ入信し、この世界はシャイア様によって作られ、シャイア様によって生かされ、シャイア様によって殺されているのだということを教えて頂いた時の、あの……筆舌に尽くしがたい衝撃――
「んふっ!」
そのシャイア様にもうすぐ会えると思った次の瞬間、放たれた精液が修道服の内側をべっとりと汚してしまった。
冷めやらぬ興奮と快感で息苦しくなり、口内にとどめ過ぎて今では唾液の比率のほうが多くなってきた紅茶を、一息で嚥下する。
「んくっ……はぁ、はぁ、はぁ……私としたことが、いけませんね」
あぁ……ヴィッレ教皇……。
その、この世に存在する全ての善意を集めたかのような生き様……アナタはまさしく、聖者として相応しかったですよ。
そんなことだから、あんなディブロダールの宰相如きに、簡単に精神を支配されてしまうのです。
「……フフッ」
あの宰相、名前を何と言いましたか……オールタニア掌握の最後の障害だったメリシア様を試練の巡礼地に向かわせれば、宵闇の使徒に襲わせるなどと言っていたのに、何故か創世の救主を呼び出すような間抜けの名前など、まぁ、別にどうでも良いでしょう。
おかげで、殉教して頂く予定だったメリシア様とトルキダス近衛兵長はまんまと逃げおおせ、バルギスの平定まで成し遂げてしまったのですから、件の慈悲主への報酬は多めに用意して頂かなければ割に合いませんね。
「フフフッ、フフフフフッ」
まぁ……オールタニア掌握にあたって必要となる人材の派遣や各種支援のおかげで、ここまで来られたということだけは認めましょう。
おかげで私が教皇になる目処がつきましたし、双方の目標だったオールタニアの属国化も目前です。
あとはディブロダールの国境をシャイア教にすることと、シャイア様の召喚に私も立ち会わせて貰う約束を果たして頂ければ、何やら実験体を救い出すことに必死な禁忌の魔術師も用済みとなります。
そうだ! その際はあの哀れな老婆の目の前で、センチピードに実験体と遊んで貰うのも面白そうですね。
「フフフフッ! アーッハッハッハッハ!」
長い道のりでしたが、シャイア様――もうすぐ、全てが手に入ります。
今しばらくお待ちください……。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる