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第二章:帝国の滅亡
エピローグ:依頼の達成報酬と戦後の処理
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ロイタージェンからの報酬は、バルギスソウタの商人に対する恒久的な優遇取り引きと、その取り引きによってもたらされる税収のうち6%を、おっさんと俺とメリシアで等分にして受け取れるというものだった。
か
「こちらがグステン間との取り引きにおける収支報告書になります」
そんなわけで今日も執務室で色々な書類に目を通していると、グステンから律儀に毎月送られてくる、数字のビッシリ書き込まれたひと際ぶ厚い紙の束をメリシアが手渡してくる。
「ありがとう、メリシア」
「どういたしまして」
「提案、今回の分もセルフィが処理する?」
「いや……こういうのはいつまでも苦手意識持ってたらダメだから、目くらいは通すよ」
「目を通すだけではなく改善点などを指摘せねばならぬぞ」
「なるほどな」
メリシアから受け取ったばかりの書類を、そのままセルフィへと横流しする。
「セルフィ、やっぱり頼む」
「了解」
「……その諦めの早さは瞠目に値するな」
「そんなに褒めるなよおっさん」
「お主、皮肉という言葉を知っておるか?」
「いやそもそもおっさんが勝手に俺を皇帝にしたからこうなってるんだろ」
「責任転嫁はやめて貰おうか。責任を果たすと言ったのはお主のほうだろう? ディモズを打ち倒したのだから、その責を負って皇帝を継ぐなど当然のことだ」
「ぐっ……」
それを言われると弱い……。
未だ山積している戦後処理に俺が音を上げそうになると、おっさんは必ずこの話をしてくるが、あれから約三カ月が経過しようとしているのにまだまだ終わりが見えないのでは弱音も吐きたくなる。
――あの後、王宮内部のゴタゴタは全てシルテバを筆頭とした元老院が片づけてくれたのは良かったのだが、帰還したバルギス兵の再編成には骨を折らされた。
バルギス軍の規模は予想より遥かにでかく、小国との国境付近にいる守備兵なども併せると全部で十一万人もいるとのことで、最初「これは無理」と思ったのだが、例のシュロル六頭が引いていた御車を護衛してた五人――五騎龍とか呼ばれるバルギス軍最強の兵士だったらしい――を、帝都にある三万人収容の巨大闘技場で、満員のバルギス兵を前に鎧を全部剝ぎ取って文字通り素っ裸にしたら、兵はあっさり俺を認めてくれた。
しかしその後、圧倒的な武を誇る俺に忠誠心を示したいからとかいう理由で、五騎龍を筆頭にした親イマイソウタ皇帝兵とかいうのが新設された時はさすがに眩暈がしたね。なんつーか……重いわ。
次に、国民に対する皇帝演説だが、これもヤバかった。
王宮前広場に数十万もの人が集まっているあの光景は、今思い出しても冷や汗が流れる。
おっさんとメリシアが事前に台本を用意してくれていたので、当日はそれをそのまま言ったんだと思うのだが、いかんせん何を言ったのか緊張でほとんど覚えていない。
とりあえず、演説後におっさんに言われた「すまん、急に無理をさせ過ぎたな」という言葉の意味だけは、深く考えないように気を付けている。
後はとにかく……帝王学ってやつなのか、皇帝たる者これをすべしみたいなことを毎日ミッチリ教え込まれながら、合間に書類――ほぼ予算をどう使うかとかの稟議書と決裁書――と格闘する日々が続き、あっという間にここまで来ている。
「だが、お主は良くやっておるよ」
「なんだよ急に」
「いやな、この……時間や月日、曜日といった概念は画期的だったと思ってな」
「何度も言ってるけど、そんなの俺の世界じゃ常識だったことだし、時間なんてセルフィがいなきゃどうしようもなかったんだから、俺の手柄みたいに言ってくれんなよ」
時間という概念を教えること自体は、日時計を作って説明することで割と簡単に分かって貰えたのだが、問題は一秒の定義だった。
正確に一秒を図ることが電子機器の無いこの世界では至難の業で、もう大体の感じでいいか、と一度は投げやりになったのだが……十日前後が過ぎた頃に、セルフィが突然「日の出から次の日の出まで、毎回等間隔に数字を数えていってみたところ、一つか二つ程度のバラツキはあったが86400が妥当な数となった」と報告してくれたことで一気に現実味を帯びたのだ。
「目標だった機械式の時計だって、まさか一か月で完成するとは思ってなかったからな」
遂に先月から――まだ王宮内部でだけだが――普及し始め、今では欠かせない存在となっているのだ。
「否定、異世界においての常識に屈することなく自身の世界の概念を持ち込めるのがソウタの強さ。セルフィはそんなソウタだから好きになった」
そう言うと、セルフィがムニッと俺の腕に自分の胸を押し当ててきて、それを見たファフミルが俺のもう片方の腕を自分の胸の谷間にムチプリと押し込んで挟んできて、メリシアがそんな二人を俺から引き離す。
……正直これだけは、皇帝になって良かったかもと思える数少ないいつもの日常ではある。
しかし、そんな辛く楽しい日常を壊すかのように、血相を変えたギリゴスモが執務室へと飛び込んできた。
「ノックも無しに失礼いたします! ディブロダールが……ディブロダールがオールタニアを平定し、自国の国教をシャイア教として、皇帝陛下の引き渡しを要求してきました!」
か
「こちらがグステン間との取り引きにおける収支報告書になります」
そんなわけで今日も執務室で色々な書類に目を通していると、グステンから律儀に毎月送られてくる、数字のビッシリ書き込まれたひと際ぶ厚い紙の束をメリシアが手渡してくる。
「ありがとう、メリシア」
「どういたしまして」
「提案、今回の分もセルフィが処理する?」
「いや……こういうのはいつまでも苦手意識持ってたらダメだから、目くらいは通すよ」
「目を通すだけではなく改善点などを指摘せねばならぬぞ」
「なるほどな」
メリシアから受け取ったばかりの書類を、そのままセルフィへと横流しする。
「セルフィ、やっぱり頼む」
「了解」
「……その諦めの早さは瞠目に値するな」
「そんなに褒めるなよおっさん」
「お主、皮肉という言葉を知っておるか?」
「いやそもそもおっさんが勝手に俺を皇帝にしたからこうなってるんだろ」
「責任転嫁はやめて貰おうか。責任を果たすと言ったのはお主のほうだろう? ディモズを打ち倒したのだから、その責を負って皇帝を継ぐなど当然のことだ」
「ぐっ……」
それを言われると弱い……。
未だ山積している戦後処理に俺が音を上げそうになると、おっさんは必ずこの話をしてくるが、あれから約三カ月が経過しようとしているのにまだまだ終わりが見えないのでは弱音も吐きたくなる。
――あの後、王宮内部のゴタゴタは全てシルテバを筆頭とした元老院が片づけてくれたのは良かったのだが、帰還したバルギス兵の再編成には骨を折らされた。
バルギス軍の規模は予想より遥かにでかく、小国との国境付近にいる守備兵なども併せると全部で十一万人もいるとのことで、最初「これは無理」と思ったのだが、例のシュロル六頭が引いていた御車を護衛してた五人――五騎龍とか呼ばれるバルギス軍最強の兵士だったらしい――を、帝都にある三万人収容の巨大闘技場で、満員のバルギス兵を前に鎧を全部剝ぎ取って文字通り素っ裸にしたら、兵はあっさり俺を認めてくれた。
しかしその後、圧倒的な武を誇る俺に忠誠心を示したいからとかいう理由で、五騎龍を筆頭にした親イマイソウタ皇帝兵とかいうのが新設された時はさすがに眩暈がしたね。なんつーか……重いわ。
次に、国民に対する皇帝演説だが、これもヤバかった。
王宮前広場に数十万もの人が集まっているあの光景は、今思い出しても冷や汗が流れる。
おっさんとメリシアが事前に台本を用意してくれていたので、当日はそれをそのまま言ったんだと思うのだが、いかんせん何を言ったのか緊張でほとんど覚えていない。
とりあえず、演説後におっさんに言われた「すまん、急に無理をさせ過ぎたな」という言葉の意味だけは、深く考えないように気を付けている。
後はとにかく……帝王学ってやつなのか、皇帝たる者これをすべしみたいなことを毎日ミッチリ教え込まれながら、合間に書類――ほぼ予算をどう使うかとかの稟議書と決裁書――と格闘する日々が続き、あっという間にここまで来ている。
「だが、お主は良くやっておるよ」
「なんだよ急に」
「いやな、この……時間や月日、曜日といった概念は画期的だったと思ってな」
「何度も言ってるけど、そんなの俺の世界じゃ常識だったことだし、時間なんてセルフィがいなきゃどうしようもなかったんだから、俺の手柄みたいに言ってくれんなよ」
時間という概念を教えること自体は、日時計を作って説明することで割と簡単に分かって貰えたのだが、問題は一秒の定義だった。
正確に一秒を図ることが電子機器の無いこの世界では至難の業で、もう大体の感じでいいか、と一度は投げやりになったのだが……十日前後が過ぎた頃に、セルフィが突然「日の出から次の日の出まで、毎回等間隔に数字を数えていってみたところ、一つか二つ程度のバラツキはあったが86400が妥当な数となった」と報告してくれたことで一気に現実味を帯びたのだ。
「目標だった機械式の時計だって、まさか一か月で完成するとは思ってなかったからな」
遂に先月から――まだ王宮内部でだけだが――普及し始め、今では欠かせない存在となっているのだ。
「否定、異世界においての常識に屈することなく自身の世界の概念を持ち込めるのがソウタの強さ。セルフィはそんなソウタだから好きになった」
そう言うと、セルフィがムニッと俺の腕に自分の胸を押し当ててきて、それを見たファフミルが俺のもう片方の腕を自分の胸の谷間にムチプリと押し込んで挟んできて、メリシアがそんな二人を俺から引き離す。
……正直これだけは、皇帝になって良かったかもと思える数少ないいつもの日常ではある。
しかし、そんな辛く楽しい日常を壊すかのように、血相を変えたギリゴスモが執務室へと飛び込んできた。
「ノックも無しに失礼いたします! ディブロダールが……ディブロダールがオールタニアを平定し、自国の国教をシャイア教として、皇帝陛下の引き渡しを要求してきました!」
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