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第三章:第四創世主の弱点
五話:ドラゴン
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「……フー。じゃあ、その遺跡っての探しにいくかぁ」
「グエン殿がいなくなったからと言って気を抜きすぎだぞイマイソウタ。このような奇怪な生物にまた襲われぬとも限らないのだ。細心の注意を払ってだな――」
「分かってるって。だからってあんまり心配し過ぎて気疲れするのも良くないだろ? それに、ファフミルやセルフィがいることを忘れて貰ったら困るぜ」
「困る」
「困ります」
俺がおどけてみせると、セルフィとファフミルがそれに続く。
そんな俺たちを見ておっさんも肩の力が抜けたのか、大きなため息を吐いてから葉巻に火をつけて大きく吸い込んだ。
「スー……ブファ―……まぁ、お主がいればそこまで気負うこともないか」
「そうそう。俺に任せとけって」
「ラオの修練にまともについていくことも出来ぬのに調子に乗るでない」
「ゴメンナサイ」
久しぶりにおっさんからたしなめられ、シュンとしてしまう。
俺はただみんなに暗くなって欲しくないだけなのに……。
「……で、遺跡とやらはどうやって探す?」
「あ、遠見は使えないのか?」
「無理、遠見は自分の意識下に記憶を置くことで現在の状況とのずれを術者の視覚情報に反映させる魔術。行ったことがない場所、見たことのない人物を対象にすることはできない」
「……それなら、ディブロダールの魔術師が俺のこと探し出して転移してくるっていうのも無理じゃねえ?」
「いえ、エリウスがソウタ様と一度お会いしておりますので……その記憶を読み取れば可能でしょう」
「あー」
なるほど……。
「平気、イマイソウタにかけられた高位魔術障壁を強化している。少なくともセルフィとファフミルが傍にいる時は心配しなくてもいい」
「ありがとう、頼りにしてるよ。しかし、そうなると地道に歩いて探すしかないな」
「うむ。まずは水を確保せねばならぬ。持ってきた分だけでは四日分しかないのでな」
「そんなに持ってきてるのにか?」
「当初はグエン殿の分も含めて三日分で考えておったからな。これでも余裕をみて持ってきたつもりなのだが、なにせこの広さだからな……」
俺はここに来る前、水も食料も最低限持ってきて、それが切れたら一度帝都に戻ってからまた来ればいいじゃないかとか、以前セルフィが空気中の水分を集めて氷にして、アイスティーを作ってくれたのを覚えていたため、水が切れたって魔術で集めて飲めばいいじゃないかと考えていた。
しかし、魔術というのは魔力を消費して行使する関係上、そうポンポンと実行できる代物でも無いらしく、魔力が切れると再度回復するまでに二、三日はかかるとのことで、魔力消費に対する効率の面からそんな使い方はできないのだそうだ。
転移などの高位魔術に至っては、バルギスソウタにいる魔術師の中でも、ファフミル以外では転移専門の魔術師が七人いるだけ……と、セルフィでさえ使えない――本人曰く物質作用などの魔術に特化しているから――とのことだった。
「要は、四日間プラス水食糧無しで動ける限界日数として三日、合計一週間以内に水が得られなければ、帝都に戻ってディブロダールとの戦争準備を進めないといけないってことか」
「そうだ」
かなりシビアだな……。
「……あっ、こんなのはどうだ」
「ぬん? なんだ?」
「ここを中心にして、四方にあるこの空間の行き止まりまで俺が一人で真っ直ぐ走っていって、確認してくればいいんじゃないか? おっさん達はその間に野営の準備でもしててくれればいいからさ」
「ふむ。いや、悪くない案かもしれぬ」
「だろ? あんなのが出るなら、バラバラに手分けして探すわけにもいかないだろうし、何よりこの広さじゃ迷ったりはぐれたりするのが一番ヤバそうだからな」
「確かにな……では、イマイソウタよ、すまぬがひとっ走り頼めるか」
「おっし、任せろ」
回れ右をしておっさん達に背を向け、さっそく走りはじめる。
途中、何度か跳躍して周囲に視線を巡らせるが、やはり見渡す限り森が続いているだけで、遺跡らしきモノや、池や湖などの水源も見当たらない。
その後も……時間にして一時間くらいだろうか。
何度か跳躍しながら音を置き去りにして走り続けていると――ようやく壁へと行きついた。
「やっと端っこか……マジでどんだけ広いんだよここ……」
すぐさま踵を返し、壁を背に来た道を真っすぐ戻る。
元居た場所では大きめの焚火が燃え盛っていて、そこから立ち上る煙が遠方からでも見えたので迷わずに戻れた。
「ただいまー」
「お帰りなさい……すみません、ソウタ様お一人にお任せしてしまって」
「いいんだよメリシア。普段ぜんぜん役に立ってないんだから、こんな時くらい働かせてくれ」
「で、どうだった?」
「ハズレだわ。遺跡も水源もなんもなかった」
「ぬぅ……そうか……いや、ご苦労だったな。まぁ一休みしていけ」
おっさんが差し出してくれた水筒を受け取り、一口飲む。
「ありがとうおっさん。でもまだ疲れてないから、もうひとっ走りしてくるよ」
「分かった。だが無理はするなよ」
「はいよ。んじゃ、行ってくる」
今度は先ほどとは反対側に向かう。
「ん、なんだアレ……」
跳躍を挟みつつ三十分くらい走ったところで、雲の隙間からチラっと……こちらを追いかけるようにして何かが飛んでいるのに気が付き、立ち止まって様子を見る――
ジチッ――ジュンッ!
「ウァッチィッ!」
突然、謎の飛行生物から光が発せられたと思えば、次の瞬間には腕に焼けるような鋭い痛みが走り、何事かと見てみると、タバコの火を押し付けられたような痕が四つできていた。
驚いてふたたび上を見ると、その飛行生物が急降下してきていた。
「マジかよ……」
ドズゥゥゥゥンッ!
「グルォゥルルラアアアアァァァァァッッ!!」
その生物は、落下の衝撃を吸収するように四本の足を器用に使って地に降り立つと、明らかな敵意をもって俺のことを威嚇してきた。
ワニを代表とした爬虫類特有の黒目の中心にある黄色い瞳が、こちらをギョロリと睨んでくる。
表皮は鱗で覆われ、翼は体の何倍も大きく、フッフッと小刻みに震えている尻尾の先端からは、この生物の憤りの強さが漏れ出ている。
……この世界にもいたのかよ、ドラゴン。
「ゴルロロロロロォォォアァアアアァァァッッ!!」
「ド、ドラゴン退治とか……さすがにいくら何でも無理だろ……?」
「グエン殿がいなくなったからと言って気を抜きすぎだぞイマイソウタ。このような奇怪な生物にまた襲われぬとも限らないのだ。細心の注意を払ってだな――」
「分かってるって。だからってあんまり心配し過ぎて気疲れするのも良くないだろ? それに、ファフミルやセルフィがいることを忘れて貰ったら困るぜ」
「困る」
「困ります」
俺がおどけてみせると、セルフィとファフミルがそれに続く。
そんな俺たちを見ておっさんも肩の力が抜けたのか、大きなため息を吐いてから葉巻に火をつけて大きく吸い込んだ。
「スー……ブファ―……まぁ、お主がいればそこまで気負うこともないか」
「そうそう。俺に任せとけって」
「ラオの修練にまともについていくことも出来ぬのに調子に乗るでない」
「ゴメンナサイ」
久しぶりにおっさんからたしなめられ、シュンとしてしまう。
俺はただみんなに暗くなって欲しくないだけなのに……。
「……で、遺跡とやらはどうやって探す?」
「あ、遠見は使えないのか?」
「無理、遠見は自分の意識下に記憶を置くことで現在の状況とのずれを術者の視覚情報に反映させる魔術。行ったことがない場所、見たことのない人物を対象にすることはできない」
「……それなら、ディブロダールの魔術師が俺のこと探し出して転移してくるっていうのも無理じゃねえ?」
「いえ、エリウスがソウタ様と一度お会いしておりますので……その記憶を読み取れば可能でしょう」
「あー」
なるほど……。
「平気、イマイソウタにかけられた高位魔術障壁を強化している。少なくともセルフィとファフミルが傍にいる時は心配しなくてもいい」
「ありがとう、頼りにしてるよ。しかし、そうなると地道に歩いて探すしかないな」
「うむ。まずは水を確保せねばならぬ。持ってきた分だけでは四日分しかないのでな」
「そんなに持ってきてるのにか?」
「当初はグエン殿の分も含めて三日分で考えておったからな。これでも余裕をみて持ってきたつもりなのだが、なにせこの広さだからな……」
俺はここに来る前、水も食料も最低限持ってきて、それが切れたら一度帝都に戻ってからまた来ればいいじゃないかとか、以前セルフィが空気中の水分を集めて氷にして、アイスティーを作ってくれたのを覚えていたため、水が切れたって魔術で集めて飲めばいいじゃないかと考えていた。
しかし、魔術というのは魔力を消費して行使する関係上、そうポンポンと実行できる代物でも無いらしく、魔力が切れると再度回復するまでに二、三日はかかるとのことで、魔力消費に対する効率の面からそんな使い方はできないのだそうだ。
転移などの高位魔術に至っては、バルギスソウタにいる魔術師の中でも、ファフミル以外では転移専門の魔術師が七人いるだけ……と、セルフィでさえ使えない――本人曰く物質作用などの魔術に特化しているから――とのことだった。
「要は、四日間プラス水食糧無しで動ける限界日数として三日、合計一週間以内に水が得られなければ、帝都に戻ってディブロダールとの戦争準備を進めないといけないってことか」
「そうだ」
かなりシビアだな……。
「……あっ、こんなのはどうだ」
「ぬん? なんだ?」
「ここを中心にして、四方にあるこの空間の行き止まりまで俺が一人で真っ直ぐ走っていって、確認してくればいいんじゃないか? おっさん達はその間に野営の準備でもしててくれればいいからさ」
「ふむ。いや、悪くない案かもしれぬ」
「だろ? あんなのが出るなら、バラバラに手分けして探すわけにもいかないだろうし、何よりこの広さじゃ迷ったりはぐれたりするのが一番ヤバそうだからな」
「確かにな……では、イマイソウタよ、すまぬがひとっ走り頼めるか」
「おっし、任せろ」
回れ右をしておっさん達に背を向け、さっそく走りはじめる。
途中、何度か跳躍して周囲に視線を巡らせるが、やはり見渡す限り森が続いているだけで、遺跡らしきモノや、池や湖などの水源も見当たらない。
その後も……時間にして一時間くらいだろうか。
何度か跳躍しながら音を置き去りにして走り続けていると――ようやく壁へと行きついた。
「やっと端っこか……マジでどんだけ広いんだよここ……」
すぐさま踵を返し、壁を背に来た道を真っすぐ戻る。
元居た場所では大きめの焚火が燃え盛っていて、そこから立ち上る煙が遠方からでも見えたので迷わずに戻れた。
「ただいまー」
「お帰りなさい……すみません、ソウタ様お一人にお任せしてしまって」
「いいんだよメリシア。普段ぜんぜん役に立ってないんだから、こんな時くらい働かせてくれ」
「で、どうだった?」
「ハズレだわ。遺跡も水源もなんもなかった」
「ぬぅ……そうか……いや、ご苦労だったな。まぁ一休みしていけ」
おっさんが差し出してくれた水筒を受け取り、一口飲む。
「ありがとうおっさん。でもまだ疲れてないから、もうひとっ走りしてくるよ」
「分かった。だが無理はするなよ」
「はいよ。んじゃ、行ってくる」
今度は先ほどとは反対側に向かう。
「ん、なんだアレ……」
跳躍を挟みつつ三十分くらい走ったところで、雲の隙間からチラっと……こちらを追いかけるようにして何かが飛んでいるのに気が付き、立ち止まって様子を見る――
ジチッ――ジュンッ!
「ウァッチィッ!」
突然、謎の飛行生物から光が発せられたと思えば、次の瞬間には腕に焼けるような鋭い痛みが走り、何事かと見てみると、タバコの火を押し付けられたような痕が四つできていた。
驚いてふたたび上を見ると、その飛行生物が急降下してきていた。
「マジかよ……」
ドズゥゥゥゥンッ!
「グルォゥルルラアアアアァァァァァッッ!!」
その生物は、落下の衝撃を吸収するように四本の足を器用に使って地に降り立つと、明らかな敵意をもって俺のことを威嚇してきた。
ワニを代表とした爬虫類特有の黒目の中心にある黄色い瞳が、こちらをギョロリと睨んでくる。
表皮は鱗で覆われ、翼は体の何倍も大きく、フッフッと小刻みに震えている尻尾の先端からは、この生物の憤りの強さが漏れ出ている。
……この世界にもいたのかよ、ドラゴン。
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