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第三章:第四創世主の弱点
十二話:唇と唇
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「宵闇の使徒として創世の救主になった……?」
「そうだ。転生者としてこの世界に召されし運命にあったお前は、死のその瞬間に愚かな国の愚かな魔術師たちによって、この世界へと召喚されたのだ。浄化も適わず穢れたままの魂は宵闇の使徒として召喚され、さらに元の器を無理矢理に再構成された結果、創世の救主として転生するに至った」
どうしてこの爺さんがそんなことを知ってるのかも気になるが、それよりも――
「……で? そんな俺に貧者の洞窟で精神操作を仕掛けてきたのはなぜなんだ?」
「我が作りし神器――力に相応しい者かどうか試したまでのこと」
「これを爺さんが作ったって……プッ」
バレバレ過ぎる嘘につい吹き出してしまう。
グエンの話では、千年以上昔から語られてきた神話ということだったので、もしそれが本当ならこの爺さんは千年どころかそれ以上生きているということになる。
……長命のエルフでさえ寿命は六百年前後なんだぞ?
ヒトが、その肉体はおろか正常な精神を保ったまま千年以上の時を生き永らえるなど、さすがに異世界でも有り得ないだろう。
「フム。お前の未熟な精神構造では信じられぬのも無理からぬことだ」
セルフィと同じくサラっと思考を読んできやがる!
っていうか、すげぇ上からモノを言われている気がするが……実際、この爺さんのほうが一枚も二枚も上手なので言い返すことができず、喉の奥で「グゥッ」と吐息を漏らす程度のささやかな抵抗が精いっぱいだった。
「じゃ、じゃあ……千年も生きてるっていう証拠を見せろよ」
「証拠か。では、ラファムレアについて少しだけ教えてやろうか」
ラファムレア――って、この腕輪か!
「し、知ってるのか!?」
「さっき我が作ったと言ったはずだが、なるほど。未熟なのは精神のみならず……であったか」
「ウググ」
ふーやれやれとばかりに、腕を組んで頭を縦に振る。
キーッ! 爺さんが千年も生きてるなんて信じてないから言ったんだもんねー!
やーいやーい! 嘘つきジジイー!
「はっ……!」
いかんいかん、怒りのあまり友達同士でケンカする小学生みたいになってた。
今は少しでも情報を引き出さねば……。
「我がこの世界に召喚されしは、今より千と……百だったか、二百だったか。年齢などもはや形骸化しておるからはっきりとは覚えておらぬが――」
のぼせたのか、言いながら立ち上がったかと思えば、湯船のふちへと腰掛ける。
俺は普段から長風呂なのでまだまだ余裕である。
ハッハッハ、一つ勝ったぜ!
「元の世界では、文明も文化もここより数千年分は発展を遂げておったのだが、生を授かって数十年の後に、我は愚かにも不老不死の妙薬を完成させてしまってな。これで醜い争いなど無くなるとその時は喜んでおったのだが……皮肉なことに、妙薬を巡って世界中で戦争が勃発したのだ」
「不老不死の妙薬……」
「念のため言っておくが、この世界を構成している原子配列では作成できぬので期待には応えられぬぞ」
「いや、死ねないなんてゾッとすると思ってな」
「ほっ……ホッホッホッホ。誠に、お前の言う通りだ」
一瞬、また馬鹿にしやがって……と思ったが、爺さんの何とも愉快そうな笑い声を聞くに、どうやら他意は無さそうだ。
っつーか、そんなに長いこと生きていても普通に笑えるんだな。
些細なことではあるが、こういうところに爺さんの凄さがにじみ出ているような気がする。
「さて、話を戻そう。その後は我の作った妙薬ではなく我自信を巡る争いに発展していき、とうとう滅びの足音が聞こえてきた――そんな頃だ、この世界に召喚されたのは」
爺さんは、この世界ではイチからやり直そうと決意し、同じ過ちは繰り返さないよう細心の注意を払っていたのに、神器を作ったことをキッカケにまた同じように街を滅ぼしてしまい、後悔と失意の中、俺があの遺跡に立ち入るまで観測者として世界の行く末を見守るに留めてきたのだと、とても嘘をついているとは思えない真剣な表情で語ってくれた。
「……あの街の数少ない生き残りは、その後、別天地にて新しい街を作り始めるのだが、それが現在のグステンだ。代々、神器について語られてきていたのも、後世に同じ過ちを犯さぬようにとの戒めを込めていたのだろうな。結局は、お前のような未熟者の手に渡ることになってしまったが……」
「未熟で悪かったな。でも、この腕輪がどれだけ凄かろうと、俺は俺の守りたい人の為以外に使ったりはしないぞ」
爺さんはピクリともせず「そうか」とだけ言うと、煙のようにフッと消えた。
「ちょっ!? 結局この腕輪に秘められた力が何なのか聞いてねぇんだけど!?」
時が来れば分かる――お前のお陰で久しぶりに笑うという感情を思い出させて貰ったぞ――選ばれし者よ――
「……年寄りってのはこれだから……はぁ」
ま、時が来れば分かるんならいっか……そろそろ出よ。
さすがにのぼせそうなので、俺も風呂から出る――と、女性用の大浴場へ繋がる扉から、ちょうど風呂から上がったらしいメリシア達の声が漏れ聞こえてきた。
「今夜……ソウタ様の寝室で同衾をするお役目、私がしっかり務めさせていただきますので、お二人はお部屋でご就寝ください」
「拒否、ソウタはすでに私と約束をしている」
「約束なんていつの間にしたんですか? 私たちはずっとソウタ様と共に居ましたが、そのような話は一度もしていなかったように記憶しています」
「否定、ソウタの思考を演算解読、最適解として続きは帰ってからと告げた」
「なっ! あ、あんなのを約束なんて言いません!」
いったい何の話をしてるんだ……?
どうきんって何のことだ? 将棋?
「ご主人様、お湯加減はいかがでございましたか?」
一人でモヤモヤしていると、一足先に出てきたファフミルが声を掛けてくれる。
それにしても……なんで髪が濡れた女の子ってこんなにエロイんだろ。
「フ、ファフミル。うん……い、いつもどおり最高だったよ」
「それは良うございました。では、参りましょう」
ん、参るって?
「ど、どこに?」
「ご主人様の寝室でございます」
「……え、なんで?」
「ボクのこと……お嫌いですか?」
うっ……そんな潤んだ瞳で見つめないでくれ……。
「嫌いだなんて、そんなわけないけど……」
「嬉しいです……ボクのこと、好きだって言って下さるんですね……っ」
「す――!?」
「ファフミルさん」
「ファフミル」
突然ファフミルの後ろからメリシアとセルフィの声がしたため、驚いてそちらに視線を動かしてしまう。
それが――油断だった。
「ッ!?」
「ん…………」
一瞬の隙をついて、ファフミルが――俺にキスをしてきた。
「そうだ。転生者としてこの世界に召されし運命にあったお前は、死のその瞬間に愚かな国の愚かな魔術師たちによって、この世界へと召喚されたのだ。浄化も適わず穢れたままの魂は宵闇の使徒として召喚され、さらに元の器を無理矢理に再構成された結果、創世の救主として転生するに至った」
どうしてこの爺さんがそんなことを知ってるのかも気になるが、それよりも――
「……で? そんな俺に貧者の洞窟で精神操作を仕掛けてきたのはなぜなんだ?」
「我が作りし神器――力に相応しい者かどうか試したまでのこと」
「これを爺さんが作ったって……プッ」
バレバレ過ぎる嘘につい吹き出してしまう。
グエンの話では、千年以上昔から語られてきた神話ということだったので、もしそれが本当ならこの爺さんは千年どころかそれ以上生きているということになる。
……長命のエルフでさえ寿命は六百年前後なんだぞ?
ヒトが、その肉体はおろか正常な精神を保ったまま千年以上の時を生き永らえるなど、さすがに異世界でも有り得ないだろう。
「フム。お前の未熟な精神構造では信じられぬのも無理からぬことだ」
セルフィと同じくサラっと思考を読んできやがる!
っていうか、すげぇ上からモノを言われている気がするが……実際、この爺さんのほうが一枚も二枚も上手なので言い返すことができず、喉の奥で「グゥッ」と吐息を漏らす程度のささやかな抵抗が精いっぱいだった。
「じゃ、じゃあ……千年も生きてるっていう証拠を見せろよ」
「証拠か。では、ラファムレアについて少しだけ教えてやろうか」
ラファムレア――って、この腕輪か!
「し、知ってるのか!?」
「さっき我が作ったと言ったはずだが、なるほど。未熟なのは精神のみならず……であったか」
「ウググ」
ふーやれやれとばかりに、腕を組んで頭を縦に振る。
キーッ! 爺さんが千年も生きてるなんて信じてないから言ったんだもんねー!
やーいやーい! 嘘つきジジイー!
「はっ……!」
いかんいかん、怒りのあまり友達同士でケンカする小学生みたいになってた。
今は少しでも情報を引き出さねば……。
「我がこの世界に召喚されしは、今より千と……百だったか、二百だったか。年齢などもはや形骸化しておるからはっきりとは覚えておらぬが――」
のぼせたのか、言いながら立ち上がったかと思えば、湯船のふちへと腰掛ける。
俺は普段から長風呂なのでまだまだ余裕である。
ハッハッハ、一つ勝ったぜ!
「元の世界では、文明も文化もここより数千年分は発展を遂げておったのだが、生を授かって数十年の後に、我は愚かにも不老不死の妙薬を完成させてしまってな。これで醜い争いなど無くなるとその時は喜んでおったのだが……皮肉なことに、妙薬を巡って世界中で戦争が勃発したのだ」
「不老不死の妙薬……」
「念のため言っておくが、この世界を構成している原子配列では作成できぬので期待には応えられぬぞ」
「いや、死ねないなんてゾッとすると思ってな」
「ほっ……ホッホッホッホ。誠に、お前の言う通りだ」
一瞬、また馬鹿にしやがって……と思ったが、爺さんの何とも愉快そうな笑い声を聞くに、どうやら他意は無さそうだ。
っつーか、そんなに長いこと生きていても普通に笑えるんだな。
些細なことではあるが、こういうところに爺さんの凄さがにじみ出ているような気がする。
「さて、話を戻そう。その後は我の作った妙薬ではなく我自信を巡る争いに発展していき、とうとう滅びの足音が聞こえてきた――そんな頃だ、この世界に召喚されたのは」
爺さんは、この世界ではイチからやり直そうと決意し、同じ過ちは繰り返さないよう細心の注意を払っていたのに、神器を作ったことをキッカケにまた同じように街を滅ぼしてしまい、後悔と失意の中、俺があの遺跡に立ち入るまで観測者として世界の行く末を見守るに留めてきたのだと、とても嘘をついているとは思えない真剣な表情で語ってくれた。
「……あの街の数少ない生き残りは、その後、別天地にて新しい街を作り始めるのだが、それが現在のグステンだ。代々、神器について語られてきていたのも、後世に同じ過ちを犯さぬようにとの戒めを込めていたのだろうな。結局は、お前のような未熟者の手に渡ることになってしまったが……」
「未熟で悪かったな。でも、この腕輪がどれだけ凄かろうと、俺は俺の守りたい人の為以外に使ったりはしないぞ」
爺さんはピクリともせず「そうか」とだけ言うと、煙のようにフッと消えた。
「ちょっ!? 結局この腕輪に秘められた力が何なのか聞いてねぇんだけど!?」
時が来れば分かる――お前のお陰で久しぶりに笑うという感情を思い出させて貰ったぞ――選ばれし者よ――
「……年寄りってのはこれだから……はぁ」
ま、時が来れば分かるんならいっか……そろそろ出よ。
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どうきんって何のことだ? 将棋?
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一人でモヤモヤしていると、一足先に出てきたファフミルが声を掛けてくれる。
それにしても……なんで髪が濡れた女の子ってこんなにエロイんだろ。
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「それは良うございました。では、参りましょう」
ん、参るって?
「ど、どこに?」
「ご主人様の寝室でございます」
「……え、なんで?」
「ボクのこと……お嫌いですか?」
うっ……そんな潤んだ瞳で見つめないでくれ……。
「嫌いだなんて、そんなわけないけど……」
「嬉しいです……ボクのこと、好きだって言って下さるんですね……っ」
「す――!?」
「ファフミルさん」
「ファフミル」
突然ファフミルの後ろからメリシアとセルフィの声がしたため、驚いてそちらに視線を動かしてしまう。
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