第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第四章:武林迷宮

二十三話:武林迷宮 四十階層~三十九階層

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 炎獄の頭部がボトっと床に落ちる音で、ハッと我にかえる。

 「やべ、契約……」

 パラパラと、風に散る灰のように崩れていく炎獄の残滓ざんしを茫然と見つめながら、まぁあと五体いるしいいか……などと悠長なことを考えていると、メリシアが不思議そうに疑問を口にする。

 「どうして突然現れたのでしょう?」

 言われてみれば……なんでだ?
 スイリョウの時は部屋に入ってからその存在に気が付いたが、部屋から出ないようにしているかのようなあの動きかたから、恐らく守護武神というのはその部屋を守護するという役割上、そこに常駐して侵入者を排除するような役目を担っているのだろう。
 俺たちがここでいちゃついてなければ、三十九階層へ繋がる通路まで何の障害もなく行けてしまっていたであろうことを考えると、こんな部屋の端っこで、しかも背後に突然現れるというのはおかしいのだ。

 「ソウタ様! せ、石板が……」

 石板を見てみると、先ほどとは内容が微妙に変わっていることに気が付く。

 炎獄を滅せし道の者。
 破せし道の深淵に究みを求めよ。
 力を探す者は愚者ならず。
 力を欲する者は覚者ならず。
 力を示す者の真理こそ我へ通ずる。
 我は究覚なり。
 深き道の果てに究めし力を求めん。

 「たしか、さっきは……盟約を結びし、みたいな感じで始まってたよな?」
 「は、はい……」

 うーん?
 なぜこうなったのかは分からないが、単純に試練に打ち勝ったヤツ向けの祝勝メッセージみたいな感じで、特に深い意味は無い……のか?
 でもなんだろう、なにかモヤモヤする。

 「……まぁ、とりあえず三十九階層の前まで行こう。ここで立ち止まっててもしかたがないしな」
 「そう、ですね……」

 メリシアも俺と同じ引っ掛かりを覚えているようで、何かに思考を巡らせながら返事をする。
 結局、その引っ掛かりの原因がなんなのか分からないまま、三十九階層の扉の前で野営の準備をし、 足の早そうな食パンとフレッシュチーズで質素な夕食を摂って、早々に寝床へと入る。
 思っていた以上に疲れていたのか、すぐにメリシアの安らかな寝息が聞こえてきて、それを子守歌に俺も深い眠りについた。

 「おはようございます、ソウタ様」
 「――っ!?」

 えっいま目を閉じたばっかりなんだけど!? と、ビックリして飛び起きる。

 「良くおやすみになられてましたね」

 懐中時計に目をやる。
 昨日寝たのが午後十一時過ぎで、現在は七時十六分だった。
 太陽が無いため朝七時なのか夜七時なのか良く分からないが、メリシア……というかこの世界の住人の体内時計は正確極まりないため、二十時間も寝たってことはないだろう。
 それにしても……まったく寝たような気がしないのに、しっかり八時間近く寝ているという事実に驚いてしまう。

 「はい、ソウタ様。どうぞ、お召し上がりください」
 「おおお、ありがとう」

 昨日の夜はお互いに疲れていたこともあって適当に済ませてしまったが、今朝は恐らくメリシアが早起きして作ってくれたものであろうポトフと、ガーリックの香るトースト、トマトとチーズのカプレーゼが食卓を彩る最高の朝ごはんだった。
 その後、ちゃんと寝た割には寝不足気味の頭を優しく揺り起こす食事を終え、出発の準備を整えていると、突然、三十九階層の扉が向こう側からノックされた。

 コンコン、コンコン……コンコン、コンコン……。

 「……え、いや、誰?」

 一定のリズムで叩かれる音は、何か偶発的なものではなく明らかに意図的なものであり、この迷宮に俺たち以外の探索者が来ていて朝食の香りに釣られて戻ってきたか――あるいはこの迷宮の罠的なモノか、そのどちらかであることを示唆している。
 開けてもいいものか考えあぐねメリシアに判断を求めようかとチラっと視線を送ると、少し恐怖の色は帯びているもののそれでもしっかりと頷いたため、意を決して扉を押し開いていく。

 ギィギギギギ……ギギギィィィィィ……

 長い間油を注されていないのか、単に錆びているためか、蝶番が軋む嫌な音が鳴り響く。
 ようやく扉が半分ほど開いたところで、恐る恐る半身だけ中へと入り、覗き込むようにして周囲を伺う――と、そこには驚愕の光景が待っていた。

 「やべぇ……だ、誰もいねぇ……」
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