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第四章:武林迷宮
二十二話:武林迷宮 序列第五位――炎獄――
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とりあえずメリシアには扉を開けた状態で待っていて貰い、俺だけ中へと入っていく。
が……待てど暮らせどマジで何も起きない。
スイリョウの時のように扉を閉められて突然襲われるとか、良くゲームであるような、部屋に足を踏み入れた瞬間にボスフラグが立ってエンゴクさんが突如出現するとか、そういうことは一切なく、ただひたすらな静寂だけがあった。
目を細めて部屋の奥まで見渡してみると、端っこのほうにタオが言っていた石板らしきものを見つけたので、目の前まで跳躍して読んでみる。
炎獄と盟約を結びし道の者。
倒れし道の深淵に究みを求めよ。
力を探す者は愚者ならず。
力を欲する者は覚者ならず。
力を示す者の真理こそ我へ通ずる。
我は究覚なり。
深き道の果てに究めし力を求めん。
「聞いてたのと少し違うけど……」
やはり、これが例の伝説ってヤツが書かれた石板で間違いなさそうだ。
すぐに入り口へと戻り今見たものを報告すると、メリシアが何かを理解したように深く頷く。
「炎獄という守護武神は三兄弟が盟約したため、既にこの場にはいないようですね」
「あっ……」
守護武神ってくらいだから、ここまで来たら誰でも会えるものだとばかり思い込んでいて肩透かしを食らったような気分でいたが、メリシアに言われてようやくそこに気が付く。
あのラオの変身っぷりは炎獄さんが憑依したわけではなくて、むしろ宿らせた守護武神の力を解放したという感じだったのか。
「力を示す者の真理こそ我へ通ずる――ということは、彼らと同じようにどこかで守護武神と盟約を結ぶことが、最深部に辿り付く条件なのかもしれませんね」
「ってことは……メリシアと究覚が契約するためには、三兄弟に来て貰うか、もう一人誰か連れてこないとダメか」
「いえ、おそらく私一人で複数の守護武神と盟約を結べると思います」
「マジで?」
「盟約というくらいなので、その力を行使または使役するのに魔力以外の何らかの代償を求められるような類のものなのだと思います。求められる物にも寄りますが、それが重複しさえしなければ、あるいは……」
「なるほど」
そう考えると、三兄弟が炎獄の力を呼び出すために唱えていた、あの謎の読経みたいなものも説明がつく。
あれはイオとタオの魔力以外の何かをラオに渡すための、いわゆる儀式のようなものだったのではないか?
そこまで思い出し、ゾクっとする。
……唱え終わったあと、イオとタオの二人は確か意識を失っていたはずだ。
他の守護武神の力の代償がどれほどのものかは分からないが、そこまで負担がかかるものを複数も体に宿すというのはそれだけでリスクなのではないか?
「……やっぱ帰ろう」
「ソ、ソウタ様? 突然どうしたのですか?」
「いや、おっさんが言ってた今回の目的が、メリシアにそこまで負担をかけるほどのことではないような気がするんだよな」
俺がもし帝都を留守にした時の、内外に向けた牽制のためとかなんとか言ってたけど、それくらいセルフィとファフミルが居れば何とでもなりそうだ。
「――ソウタ様、いまセルフィとファフミルのことを考えていますね?」
「うっ?」
突然メリシアの口調に怒気が混ざり、ギクッとしてしまう。
何かマズイことでも言ったかと視線を泳がせながら必死に考えを巡らせる。
「もしかして、あの二人がいればトルキダスの言っていたことには対応ができるから……私には危険な目にあって欲しくない、などとお考えですか?」
「ウゥッ?」
えっ、メリシアが思考を読む魔術使ってる……。
「それは私への侮辱です。いくらソウタ様でも許せません」
「で、でも……」
「許しません」
「ウグッ……」
可愛く頬を膨らませて怒るメリシアになんと弁明すれば良いか思案していると――
「クスッ」
「え……?」
「クスクス、申し訳ございません。ソウタ様を少し困らせてみたくて」
突然、テヘペロッと舌を少し出して、小首を傾げながらメリシアがいたずらっぽく笑う。
その顔が愛しすぎて、気が付くと抱きしめていた。
「ぁ……」
「ごめんメリシア。失言だった」
「ふふっ、いいんです……ソウタ様が私のことを案じてくださっているからこそ、出てきた言葉だということはすぐに分かったんです。そして、ソウタ様のそういうお優しいところが……とても好きです」
一度離れて、しっかりと目を見る。
「でも、私ばかり足を引っ張るのはもう嫌なんです。ソウタ様が私を守ってくださっているように、私もソウタ様を守って差し上げたいのです……私の、大切な人を――」
メリシアが目を閉じたため、そっと口付けして……顔を離す。
ゆっくりとまぶたを開けてこちらを見上げる女の子の瞳に薄っすら涙が浮かんで、その長いまつ毛を湿らせていく。
「ごめんな」
「あ、いえ、違うんです。これは、その、嬉しくて……」
……えっ?
「あの日からずっと二人きりになりたくてもなれなかったので……やっとソウタ様を独り占めできるって思ったら、意地悪したり甘えたりしたくなっちゃいました。ごめんなさい」
「グオオ」
「い、いかがなさいました……?」
「なんでもないグオオオ」
やばい! これ以上はヤバイ!
俺の中のオオカミが口から出かかっている……!
このままでは二十八年のあいだ溜めに溜めてきた色々で、目の前の子羊ちゃんをブルチュッパ(規約違反)してしまいそうだッ!
「スー……ハー……」
落ち着け、深呼吸をしろ……五回はしろ……よし、落ち着いてきた。
「俺もメリシアと二人きりになりたかったグオ」
ダメだ。まだオオカミ帰ってなかった。
メリシアは「ソウタ様もそう思ってくれてたなんて、嬉しいがおー」とかクッソ可愛く俺のマネをしてるし、もうゴールしてもいいよね?
「ごめん、我慢できそうにない」
「――っ!! ソウタ様っ!!」
ゴゴオオオオンッ!
「吾は炎獄。この武林迷宮を守護せし武神なり」
メリシアを押し倒そうと改めて抱きしめたその瞬間――背後で何かが爆発する音と、以前聞いたことのある口上が聞こえてきた。
うん、ぜってーゆるさねぇ。
「いいところだったのによぉおおぉぉっ! 覚悟できてんだろぅなああぁぁぁぁっ!?」
「言葉など無粋。道なる者よ、力を――」
キュドンッ――ゴゴゴゴゴアアァァッ
まだ何か話していたが、構わずにスローモーションでの全力千倍パンチをお見舞いする。
発生した衝撃波により炎獄の膝の上から下顎までが円形に消え去り、さらに勢い衰えずに入り口と出口以外の第三の横穴が四十階層に作られた。
が……待てど暮らせどマジで何も起きない。
スイリョウの時のように扉を閉められて突然襲われるとか、良くゲームであるような、部屋に足を踏み入れた瞬間にボスフラグが立ってエンゴクさんが突如出現するとか、そういうことは一切なく、ただひたすらな静寂だけがあった。
目を細めて部屋の奥まで見渡してみると、端っこのほうにタオが言っていた石板らしきものを見つけたので、目の前まで跳躍して読んでみる。
炎獄と盟約を結びし道の者。
倒れし道の深淵に究みを求めよ。
力を探す者は愚者ならず。
力を欲する者は覚者ならず。
力を示す者の真理こそ我へ通ずる。
我は究覚なり。
深き道の果てに究めし力を求めん。
「聞いてたのと少し違うけど……」
やはり、これが例の伝説ってヤツが書かれた石板で間違いなさそうだ。
すぐに入り口へと戻り今見たものを報告すると、メリシアが何かを理解したように深く頷く。
「炎獄という守護武神は三兄弟が盟約したため、既にこの場にはいないようですね」
「あっ……」
守護武神ってくらいだから、ここまで来たら誰でも会えるものだとばかり思い込んでいて肩透かしを食らったような気分でいたが、メリシアに言われてようやくそこに気が付く。
あのラオの変身っぷりは炎獄さんが憑依したわけではなくて、むしろ宿らせた守護武神の力を解放したという感じだったのか。
「力を示す者の真理こそ我へ通ずる――ということは、彼らと同じようにどこかで守護武神と盟約を結ぶことが、最深部に辿り付く条件なのかもしれませんね」
「ってことは……メリシアと究覚が契約するためには、三兄弟に来て貰うか、もう一人誰か連れてこないとダメか」
「いえ、おそらく私一人で複数の守護武神と盟約を結べると思います」
「マジで?」
「盟約というくらいなので、その力を行使または使役するのに魔力以外の何らかの代償を求められるような類のものなのだと思います。求められる物にも寄りますが、それが重複しさえしなければ、あるいは……」
「なるほど」
そう考えると、三兄弟が炎獄の力を呼び出すために唱えていた、あの謎の読経みたいなものも説明がつく。
あれはイオとタオの魔力以外の何かをラオに渡すための、いわゆる儀式のようなものだったのではないか?
そこまで思い出し、ゾクっとする。
……唱え終わったあと、イオとタオの二人は確か意識を失っていたはずだ。
他の守護武神の力の代償がどれほどのものかは分からないが、そこまで負担がかかるものを複数も体に宿すというのはそれだけでリスクなのではないか?
「……やっぱ帰ろう」
「ソ、ソウタ様? 突然どうしたのですか?」
「いや、おっさんが言ってた今回の目的が、メリシアにそこまで負担をかけるほどのことではないような気がするんだよな」
俺がもし帝都を留守にした時の、内外に向けた牽制のためとかなんとか言ってたけど、それくらいセルフィとファフミルが居れば何とでもなりそうだ。
「――ソウタ様、いまセルフィとファフミルのことを考えていますね?」
「うっ?」
突然メリシアの口調に怒気が混ざり、ギクッとしてしまう。
何かマズイことでも言ったかと視線を泳がせながら必死に考えを巡らせる。
「もしかして、あの二人がいればトルキダスの言っていたことには対応ができるから……私には危険な目にあって欲しくない、などとお考えですか?」
「ウゥッ?」
えっ、メリシアが思考を読む魔術使ってる……。
「それは私への侮辱です。いくらソウタ様でも許せません」
「で、でも……」
「許しません」
「ウグッ……」
可愛く頬を膨らませて怒るメリシアになんと弁明すれば良いか思案していると――
「クスッ」
「え……?」
「クスクス、申し訳ございません。ソウタ様を少し困らせてみたくて」
突然、テヘペロッと舌を少し出して、小首を傾げながらメリシアがいたずらっぽく笑う。
その顔が愛しすぎて、気が付くと抱きしめていた。
「ぁ……」
「ごめんメリシア。失言だった」
「ふふっ、いいんです……ソウタ様が私のことを案じてくださっているからこそ、出てきた言葉だということはすぐに分かったんです。そして、ソウタ様のそういうお優しいところが……とても好きです」
一度離れて、しっかりと目を見る。
「でも、私ばかり足を引っ張るのはもう嫌なんです。ソウタ様が私を守ってくださっているように、私もソウタ様を守って差し上げたいのです……私の、大切な人を――」
メリシアが目を閉じたため、そっと口付けして……顔を離す。
ゆっくりとまぶたを開けてこちらを見上げる女の子の瞳に薄っすら涙が浮かんで、その長いまつ毛を湿らせていく。
「ごめんな」
「あ、いえ、違うんです。これは、その、嬉しくて……」
……えっ?
「あの日からずっと二人きりになりたくてもなれなかったので……やっとソウタ様を独り占めできるって思ったら、意地悪したり甘えたりしたくなっちゃいました。ごめんなさい」
「グオオ」
「い、いかがなさいました……?」
「なんでもないグオオオ」
やばい! これ以上はヤバイ!
俺の中のオオカミが口から出かかっている……!
このままでは二十八年のあいだ溜めに溜めてきた色々で、目の前の子羊ちゃんをブルチュッパ(規約違反)してしまいそうだッ!
「スー……ハー……」
落ち着け、深呼吸をしろ……五回はしろ……よし、落ち着いてきた。
「俺もメリシアと二人きりになりたかったグオ」
ダメだ。まだオオカミ帰ってなかった。
メリシアは「ソウタ様もそう思ってくれてたなんて、嬉しいがおー」とかクッソ可愛く俺のマネをしてるし、もうゴールしてもいいよね?
「ごめん、我慢できそうにない」
「――っ!! ソウタ様っ!!」
ゴゴオオオオンッ!
「吾は炎獄。この武林迷宮を守護せし武神なり」
メリシアを押し倒そうと改めて抱きしめたその瞬間――背後で何かが爆発する音と、以前聞いたことのある口上が聞こえてきた。
うん、ぜってーゆるさねぇ。
「いいところだったのによぉおおぉぉっ! 覚悟できてんだろぅなああぁぁぁぁっ!?」
「言葉など無粋。道なる者よ、力を――」
キュドンッ――ゴゴゴゴゴアアァァッ
まだ何か話していたが、構わずにスローモーションでの全力千倍パンチをお見舞いする。
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