第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第四章:武林迷宮

二十一話:武林迷宮 四十九~四十階層

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 「貧者の洞窟……?」

 第一印象がそれだった。
 良く見れば、上に雲はなく天井は薄っすら見えているし、湿地のようにぬかるんだ土と、ムワッと蒸れた空気から、貧者の洞窟のような森林ではなくジャングルが広がっているらしいことが感じ取れる。
 というか階段は薄暗かったのに、ここは外と見紛うばかりの明るさなのはどうしてなんだ?
 貧者の洞窟でも不思議だったが、別に天井に照明らしきものもないのにここまで明るいというのは、どういった現象なんだろう……?

 「なんで地下なのにこんなに明るいんだろうな」

 メリシアなら知っているかと思い、率直に聞いてみる。

 「不思議ですね……私もそこまで魔術に詳しいわけではありませんが、魔力の流れのようなものは感じますので、恐らくはそういったものを媒介にした照明魔術のようなものがあるのではないでしょうか」
 「なるほど」

 貧者の洞窟ではあの爺さんがそういう仕組みを作っていたわけか。
 ここは迷宮全体が魔力を吸収するような構造になってるっておっさんが言ってたから、もしかすると吸収した魔力は、こういう迷宮の維持管理なんかに消費されていたりするのかもしれないな。

 「じゃあ、また跳ぼうか」
 「は、はい……っ」

 馬鹿正直に泥に足を取られたり木を避けたりしながらチマチマ進むつもりもないため、こういうところでは慎重にならず大胆に突っ切っていくことにする。
 二回、三回、四回……合計で十数回は跳んだだろうか。延々と続く密林を抜けて、入ってきた扉と同様の装飾が施された、次の階層へと繋がる扉へとようやくたどり着いた。
 バカでかい収納箱のせいで、着地するたびに木はなぎ倒れ泥も飛び散ったため、かなり汚れてしまい不快感が全身を覆っている。

 「着替えたいところだけど……どうする? 次の階層をちょっと覗いてからにするか?」
 「そうですね。また衣服が汚れそうな階層でしたら、そのまま進んでしまいましょう」
 「いいね、そうしようか」

 さいきん気が付いたのだが、メリシアとは結構気が合う。
 最初は、俺の自惚れというか……俺に合わせてくれているのかな? と思っていたが、言葉の端々や態度に滲み出る信頼感のようなものから察するに、どうもそうではないらしい。
 それが分かってからは、積極的にメリシアへと意見を求めるようにしていた。
 自分の意見を頭から肯定されるより、一緒に考えて出してくれる意見や答えというのは、やっぱり嬉しい。
 などと考えながら再び無駄に長い階段を下り……と思ったら、入り口から四十九階層までかかった時間のおよそ半分以下、十四分で下りきってしまった。
 階段を下りても立ち止まらず、そのまま扉を開ける。

 「へっ?」

 四十八階層には、さきほどまでとは一転して何もない、カラっとした荒野が広がっていた。

 「さっきは密林、今度は荒野……って、いったいどういうことなんだろう……?」
 「たまたまそういう構造になったということは無いでしょうから、何らかの目的があるのでしょうか?」
 「目的……」

 そうだよ。
 三兄弟の誰か……ラオだったか? が、ここは修行者が修行を終えるために最後に来る場所――みたいに、確か言ってたよな。
 ってことは、

 「もしかして、階層ごとに違う試練を与えるような構造になってるのかもな」
 「あっ」
 「入り口は水責め、四十九階層は延々と続く蒸し暑い密林、この階層は荒野……とくれば、次の階層辺りで寒いところが来そうじゃないか?」

 ――当たった。

 「さっむ!」

 荒野を駆け抜け、再び十四分かけて階段を下りて四十七階層の扉を開けたところで、予想が的中して吹きすさぶ吹雪が隙間風として漏れ出てきた。
 扉の正面に立っていたためモロにその刺すような冷気を浴びてしまい、顔の表面に浮かんだ汗が瞬時に凍って皮膚が突っ張る。
 さすがにこのまま突入するには二人とも軽装過ぎるため、いったん収納箱を置いてからお互いの服を何着か取り出し、収納箱の蓋を衝立ついたて代わりにして泥だらけの服から着替えた上でさらに厚着する。

 「こんだけ着込めば大丈夫かな」
 「私も準備できました」

 収納箱の向こう側へと行くと、裾の長いワンピースの上にさらにニットのカーディガンと厚手のローブを着込み、コーディネート的にも防寒的にもパーフェクトな装いのメリシアが気恥ずかしそうに立っていた。
 それに相対するは、持ってきていた着替えから適当に選んで着込んだだけのおっさんである。

 「フフッ、クスクス」
 「わ、笑うなよ……」

 案の定メリシアに笑われてしまい、隠れるように収納箱の反対側へと戻る。

 「よろしければお手伝い致しましょうか?」

 えっマジで? と一瞬思ったが、別にファッションを楽しむためにきたわけではないことを思い出し「男はこんなもんでいいんだよ」などと強がってから箱に蓋をして扉を豪快に開け放つ。

 「ッくぁー……さみぃぃぃッ……」
 「は、鼻が痛いです……」

 二回跳躍しただけなのに、ビュウビュウと吹き付ける風と雪がみるみるうちに体温を奪っていく。
 俺は力のお陰で痛みを感じるほどではないが、メリシアは真っ赤な鼻を萌え袖にしたローブで覆いながら、ギュッと抱き着いてくる。
 その柔らかな双丘に全神経を集中していたせいで、メリシアがガタガタ震えていることにようやく気がつく。

 「メリシア、ちょっとこの中入っててくれ」
 「はい? えっ、えっ……ッ!?」

 収納箱を開け、着替えや寝袋、食料などが入っているスペースにメリシアをいれ、閉じる。

 「ちょっと揺れるけど、心配せずに大人しくしててくれ!」
 「……お、お手数おかけして申し訳ございません」

 暫く中で「ソウタ様!? 何をなさるのですか!?」などと戸惑っていた様子だったが、俺の言葉で意を酌んでくれたようで、すぐに静かになった。

 「ヨッ――」

 力の調節を誤って箱を揺らし過ぎないように気を付けながら、四十七階層を走り抜け……階段を下り切ったところで収納箱を降ろして蓋を開ける。

 「お待たせ、いきなり押し込めてごめんな」
 「お疲れ様です、ソウタ様。お陰で温かかったです」
 「おっ! それなら良かったよ」

 時間は正午を回ったところだったため、厚着していた服を脱いで(次の階層は激しい雷と雨が降る草原だった)軽い昼食休憩を取ってから扉を開ける。
 箱が木製のため中まで浸水しないか心配だったが、続く四十五階層ではカンカン照りの砂漠が続いていたため、移動しているうちに湿った箱も、着ていた服もいい感じに乾いて助かった。
 そのまま四十四階層の岩がゴロゴロ転がる足場の悪い平原も、四十三階層の一メートル先も見えない濃霧も、四十二階層のそこらじゅうマグマ溜まりだらけの岩石地帯も、四十一階層のそこらじゅうにクレバスがある雪渓も、すべて難なく跳躍して踏破し――気付く。

 「ここ、とにかく真っすぐ行けば次の階層に行く扉があるな」
 「内部の仕掛けが非常に凝っているので構造的に単純化せざるを得なかったのでしょうね」
 「なるほど……その割に、あの三兄弟は苦労したみたいな話だったよな」
 「ソウタ様からすれば、ここまでの道のりも簡単に来れたように思えるでしょうが……そのお力があればこそ、ですよ。比較してしまうのは三兄弟が気の毒です」
 「それもそうか」

 慈愛の救世主としてのこの特性調節とかいう能力に至っては、もはやチートみたいなもんだしな……。

 「さて、それじゃ――その三兄弟が到達した四十階層に入ってみるかね」

 できれば今日中に三十九階層まで行っておきたい。
 現在の時刻が午後十時半だから、あと一時間半……いけるか?
 炎獄さんとまたやり合うことになるのなら、メリシアを避難させたり、荷物を燃やされないように隠したりもしなくてはならない。
 とりあえず収納箱はそのままにしておいて、扉を少しだけ開けてメリシアと一緒に中を覗き見る――と

 「……また何もねぇのかよ」

 武林迷宮の入り口を開けてすぐのスイリョウがいたところと同じく、何もない、ただ面積がでかいだけの空間が広がっていた。
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