66 / 120
第四章:武林迷宮
プロローグ:武林迷宮 入り口
しおりを挟む
二回に分けて荷物を転移したため魔力が残り少なくなったのか、辛そうにしているファフミルに声を掛ける。
「大丈夫か? 帰ったら休むんだぞ」
「お気遣い下さりありがとうございます……そうさせていただきます……」
「それじゃあな」
「ありがとうございました。帰ったらトルキダスやセルフィさんによろしくお伝えください」
「ご武運をお祈りしております……」
力無くお辞儀をしたファフミルが、青い光の輪と共に消える。
「よし、それじゃ行こうか」
「はいっ」
総攻撃のための準備に一週間、攻撃開始からディブロダール完全制圧まで三週間から四週間の、合計一か月弱がタイムリミットとなるが――ラオたちの話では四十層まで二週間はかかったとのことだったので、俺が居るとはいえメリシアと一緒に行動するとなるととにかく時間がない。
タイムリミットと同じ、およそ一か月分の水や食料が入ったコンテナのようなデカさの収納箱を担ぎ上げて、帝都の北方門並みに巨大な入り口を押し開けていく。
「……ん?」
入り口を開けてすぐの場所にスイリョウとやらが待ち構えていると聞いていたのだが、閑散としただだっ広い部屋があるだけで、特に何かがいるわけではなさそうだ。
「おかしいですね……」
「三兄弟の記憶違いか?」
こんなところで様子を伺っていてもラチがあかないため、コンテナはいったん外に置いておき…意を決して中へと足を踏み入れる。
部屋の中ほどまできたところで、念のため開けておいた入り口が閉じていく重い音が背後で響いたため、驚いて後ろを振り向く――
「……あれか!」
視線の先には、空中を漂う半透明の紐のようなものがクネクネと蠢きながら入り口を閉じていた。
光学迷彩というのか……昔見た映画に、透明になれる技術を持った宇宙人が人間を狩るようなものがあったが、背景が縞模様に透けているところなんかがソックリだ。
「ソ――」
「ウブッ!?」
突然、鼻や口を塞ぐようにして空気がまとわりついてくる奇妙な感覚に襲われる。
水が無いのに水中で溺れているかのような息苦しさに、たまらずスローモーション状態へと移行してメリシアを抱きかかえ、荷物を投げ捨ててから上に跳躍する。
「プハッ!」
天井付近まで辿り着くとようやく呼吸ができるようになる。
跳躍した時の抵抗感も水中のそれだったが、水分はまったく感じず、視界も水中で目を開けた時のような濁りが無く、もはや空気が水のように変質したとしか考えられない異常な状況だ。
入り口のほうへ視線を戻すと、扉を完全に閉じ終えたクネクネがこちらへ向かってきていた。
「とりあえず……」
強すぎるかとも思うが、念のため宵闇の使徒としての膂力を五百倍に調節し、右掌を押し込むようにして打ち出す。
ゴウッ――ガガアアァァァンッッ!
瞬時に圧縮された大気の塊が入り口を吹き飛ばす……が、クネクネは風にたなびくシーツのようにヒラリと塊を逃れてしまった。
――俺と相性が悪いっ!
「いや、ちょっと待てよ。三兄弟が何か言ってたな……」
功呼吸を極めた、だっけ? いや、それはイオの自慢話か。
その後だ……苦も無く入宮できた、とかなんとか言ってたよな。
「これだ!」
すぐにコンテナを抱え直して天井を蹴り、入り口とは反対にある奥へと進む通路めがけて跳躍する。
そして少し奥へ進むと階段が見えてきたため、スローモーションを解いてメリシアを降ろす。
「平気か?」
「はっ、はい! ですが、早速足を引っ張ってしまい申し訳ございません……」
「いや、いいって。俺も逃げてきただけだし」
そう、別に馬鹿正直に相手をする必要などないのだ。
目的は奥へ進んで六武神の一位と契約することなのだから。
「よし、それじゃ――奥へ進もうか」
メリシアが力強く頷いたのを確認してから、階段を一歩ずつ下っていく。
かなり大規模な作りになっているらしく、ゆるやかなカーブを描いて螺旋状に降りていく階段はかなりの長さだった。
それでも、敢えて慎重にゆっくり降りていくと、階段の終わりに四十九階層へ続いていると思われる扉が見えてきた。
「ここまで大体三十分くらいか」
「そう……ですね」
お互い手持ちの懐中時計を取り出して時間を確認する。
入り口前へ朝九時ちょうどに転移して、今が九時三十二分……三兄弟の話だと徐々に長くなっていくとのことだったが、どの程度長くなるのか。
場合によっては、貧者の洞窟の時みたいに穴を掘って、真っすぐ真下にショートカットしていくみたいな裏技を使う必要があるかもしれない。
この武林迷宮自体が、多くの武芸者が修行の最終地として訪れる貴重な存在みたいなので、できればそんな乱暴なことはしたくないが……。
「まずは四十九階層を様子見しよう」
「はいっ」
扉に手をかけ、押し開いていく――と、薄暗かった階段部を照らすかのように、隙間から徐々に光が漏れ出てくる。
完全に扉が開かれたところで、武林迷宮……その四十九階層が、俺たちの前にその姿を現した。
「大丈夫か? 帰ったら休むんだぞ」
「お気遣い下さりありがとうございます……そうさせていただきます……」
「それじゃあな」
「ありがとうございました。帰ったらトルキダスやセルフィさんによろしくお伝えください」
「ご武運をお祈りしております……」
力無くお辞儀をしたファフミルが、青い光の輪と共に消える。
「よし、それじゃ行こうか」
「はいっ」
総攻撃のための準備に一週間、攻撃開始からディブロダール完全制圧まで三週間から四週間の、合計一か月弱がタイムリミットとなるが――ラオたちの話では四十層まで二週間はかかったとのことだったので、俺が居るとはいえメリシアと一緒に行動するとなるととにかく時間がない。
タイムリミットと同じ、およそ一か月分の水や食料が入ったコンテナのようなデカさの収納箱を担ぎ上げて、帝都の北方門並みに巨大な入り口を押し開けていく。
「……ん?」
入り口を開けてすぐの場所にスイリョウとやらが待ち構えていると聞いていたのだが、閑散としただだっ広い部屋があるだけで、特に何かがいるわけではなさそうだ。
「おかしいですね……」
「三兄弟の記憶違いか?」
こんなところで様子を伺っていてもラチがあかないため、コンテナはいったん外に置いておき…意を決して中へと足を踏み入れる。
部屋の中ほどまできたところで、念のため開けておいた入り口が閉じていく重い音が背後で響いたため、驚いて後ろを振り向く――
「……あれか!」
視線の先には、空中を漂う半透明の紐のようなものがクネクネと蠢きながら入り口を閉じていた。
光学迷彩というのか……昔見た映画に、透明になれる技術を持った宇宙人が人間を狩るようなものがあったが、背景が縞模様に透けているところなんかがソックリだ。
「ソ――」
「ウブッ!?」
突然、鼻や口を塞ぐようにして空気がまとわりついてくる奇妙な感覚に襲われる。
水が無いのに水中で溺れているかのような息苦しさに、たまらずスローモーション状態へと移行してメリシアを抱きかかえ、荷物を投げ捨ててから上に跳躍する。
「プハッ!」
天井付近まで辿り着くとようやく呼吸ができるようになる。
跳躍した時の抵抗感も水中のそれだったが、水分はまったく感じず、視界も水中で目を開けた時のような濁りが無く、もはや空気が水のように変質したとしか考えられない異常な状況だ。
入り口のほうへ視線を戻すと、扉を完全に閉じ終えたクネクネがこちらへ向かってきていた。
「とりあえず……」
強すぎるかとも思うが、念のため宵闇の使徒としての膂力を五百倍に調節し、右掌を押し込むようにして打ち出す。
ゴウッ――ガガアアァァァンッッ!
瞬時に圧縮された大気の塊が入り口を吹き飛ばす……が、クネクネは風にたなびくシーツのようにヒラリと塊を逃れてしまった。
――俺と相性が悪いっ!
「いや、ちょっと待てよ。三兄弟が何か言ってたな……」
功呼吸を極めた、だっけ? いや、それはイオの自慢話か。
その後だ……苦も無く入宮できた、とかなんとか言ってたよな。
「これだ!」
すぐにコンテナを抱え直して天井を蹴り、入り口とは反対にある奥へと進む通路めがけて跳躍する。
そして少し奥へ進むと階段が見えてきたため、スローモーションを解いてメリシアを降ろす。
「平気か?」
「はっ、はい! ですが、早速足を引っ張ってしまい申し訳ございません……」
「いや、いいって。俺も逃げてきただけだし」
そう、別に馬鹿正直に相手をする必要などないのだ。
目的は奥へ進んで六武神の一位と契約することなのだから。
「よし、それじゃ――奥へ進もうか」
メリシアが力強く頷いたのを確認してから、階段を一歩ずつ下っていく。
かなり大規模な作りになっているらしく、ゆるやかなカーブを描いて螺旋状に降りていく階段はかなりの長さだった。
それでも、敢えて慎重にゆっくり降りていくと、階段の終わりに四十九階層へ続いていると思われる扉が見えてきた。
「ここまで大体三十分くらいか」
「そう……ですね」
お互い手持ちの懐中時計を取り出して時間を確認する。
入り口前へ朝九時ちょうどに転移して、今が九時三十二分……三兄弟の話だと徐々に長くなっていくとのことだったが、どの程度長くなるのか。
場合によっては、貧者の洞窟の時みたいに穴を掘って、真っすぐ真下にショートカットしていくみたいな裏技を使う必要があるかもしれない。
この武林迷宮自体が、多くの武芸者が修行の最終地として訪れる貴重な存在みたいなので、できればそんな乱暴なことはしたくないが……。
「まずは四十九階層を様子見しよう」
「はいっ」
扉に手をかけ、押し開いていく――と、薄暗かった階段部を照らすかのように、隙間から徐々に光が漏れ出てくる。
完全に扉が開かれたところで、武林迷宮……その四十九階層が、俺たちの前にその姿を現した。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜
伽羅
ファンタジー
【幼少期】
双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。
ここはもしかして異世界か?
だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。
ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。
【学院期】
学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。
周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる