第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第四章:武林迷宮

プロローグ:武林迷宮 入り口

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 二回に分けて荷物を転移したため魔力が残り少なくなったのか、辛そうにしているファフミルに声を掛ける。

 「大丈夫か? 帰ったら休むんだぞ」
 「お気遣い下さりありがとうございます……そうさせていただきます……」
 「それじゃあな」
 「ありがとうございました。帰ったらトルキダスやセルフィさんによろしくお伝えください」
 「ご武運をお祈りしております……」

 力無くお辞儀をしたファフミルが、青い光の輪と共に消える。

 「よし、それじゃ行こうか」
 「はいっ」

 総攻撃のための準備に一週間、攻撃開始からディブロダール完全制圧まで三週間から四週間の、合計一か月弱がタイムリミットとなるが――ラオたちの話では四十層まで二週間はかかったとのことだったので、俺が居るとはいえメリシアと一緒に行動するとなるととにかく時間がない。
 タイムリミットと同じ、およそ一か月分の水や食料が入ったコンテナのようなデカさの収納箱を担ぎ上げて、帝都の北方門並みに巨大な入り口を押し開けていく。

 「……ん?」

 入り口を開けてすぐの場所にスイリョウとやらが待ち構えていると聞いていたのだが、閑散としただだっ広い部屋があるだけで、特に何かがいるわけではなさそうだ。

 「おかしいですね……」
 「三兄弟の記憶違いか?」

 こんなところで様子を伺っていてもラチがあかないため、コンテナはいったん外に置いておき…意を決して中へと足を踏み入れる。
 部屋の中ほどまできたところで、念のため開けておいた入り口が閉じていく重い音が背後で響いたため、驚いて後ろを振り向く――

「……あれか!」

 視線の先には、空中を漂う半透明の紐のようなものがクネクネと蠢きながら入り口を閉じていた。
 光学迷彩というのか……昔見た映画に、透明になれる技術を持った宇宙人が人間を狩るようなものがあったが、背景が縞模様に透けているところなんかがソックリだ。

 「ソ――」
 「ウブッ!?」

 突然、鼻や口を塞ぐようにして空気がまとわりついてくる奇妙な感覚に襲われる。
 水が無いのに水中で溺れているかのような息苦しさに、たまらずスローモーション状態へと移行してメリシアを抱きかかえ、荷物を投げ捨ててから上に跳躍する。

 「プハッ!」

 天井付近まで辿り着くとようやく呼吸ができるようになる。
 跳躍した時の抵抗感も水中のそれだったが、水分はまったく感じず、視界も水中で目を開けた時のような濁りが無く、もはや空気が水のように変質したとしか考えられない異常な状況だ。
 入り口のほうへ視線を戻すと、扉を完全に閉じ終えたクネクネがこちらへ向かってきていた。

 「とりあえず……」

 強すぎるかとも思うが、念のため宵闇の使徒としての膂力を五百倍に調節し、右掌を押し込むようにして打ち出す。

 ゴウッ――ガガアアァァァンッッ!

 瞬時に圧縮された大気の塊が入り口を吹き飛ばす……が、クネクネは風にたなびくシーツのようにヒラリと塊を逃れてしまった。
 ――俺と相性が悪いっ!

 「いや、ちょっと待てよ。三兄弟が何か言ってたな……」

 功呼吸を極めた、だっけ? いや、それはイオの自慢話か。
 その後だ……苦も無く入宮できた、とかなんとか言ってたよな。

 「これだ!」

 すぐにコンテナを抱え直して天井を蹴り、入り口とは反対にある奥へと進む通路めがけて跳躍する。
 そして少し奥へ進むと階段が見えてきたため、スローモーションを解いてメリシアを降ろす。

 「平気か?」
 「はっ、はい! ですが、早速足を引っ張ってしまい申し訳ございません……」
 「いや、いいって。俺も逃げてきただけだし」

 そう、別に馬鹿正直に相手をする必要などないのだ。
 目的は奥へ進んで六武神の一位と契約することなのだから。

 「よし、それじゃ――奥へ進もうか」

 メリシアが力強く頷いたのを確認してから、階段を一歩ずつ下っていく。
 かなり大規模な作りになっているらしく、ゆるやかなカーブを描いて螺旋状に降りていく階段はかなりの長さだった。
 それでも、敢えて慎重にゆっくり降りていくと、階段の終わりに四十九階層へ続いていると思われる扉が見えてきた。

 「ここまで大体三十分くらいか」
 「そう……ですね」

 お互い手持ちの懐中時計を取り出して時間を確認する。
 入り口前へ朝九時ちょうどに転移して、今が九時三十二分……三兄弟の話だと徐々に長くなっていくとのことだったが、どの程度長くなるのか。
 場合によっては、貧者の洞窟の時みたいに穴を掘って、真っすぐ真下にショートカットしていくみたいな裏技を使う必要があるかもしれない。
 この武林迷宮自体が、多くの武芸者が修行の最終地として訪れる貴重な存在みたいなので、できればそんな乱暴なことはしたくないが……。

 「まずは四十九階層を様子見しよう」
 「はいっ」

 扉に手をかけ、押し開いていく――と、薄暗かった階段部を照らすかのように、隙間から徐々に光が漏れ出てくる。
 完全に扉が開かれたところで、武林迷宮……その四十九階層が、俺たちの前にその姿を現した。
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