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第四章:武林迷宮
三十五話:武林迷宮 十九階層~十階層
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「だから、理を排してシャイア様の理想とする世界に近づけるべく……元戒と究覚は数千年も自分の階層に閉じこもって瞑想を……僕は、元戒と究覚以外の第三の要素となる君たち人間を使って……理の深淵に迫る方法を探す役割を続けているってわけさ……」
「要するに、シャイアのためってことか」
「僕にはこの迷宮と同様、父であり母であるシャイア様は絶対の存在なんだ……そのためなら何だってするよ……」
「なるほどな……ま、いいんじゃないか?」
「えっ……?」
「そうですね。そういう理由があったのならば、しかたがありませんね」
俺たちをだますような真似をした動機が邪悪なものでないと分かった今、先ほどまで感じていた怒りはどこかへ消えていた。
メリシアも、俺と同様にチゴウのことを責めるつもりはないようだ。
チゴウがコトワリとやらにこだわっている理由がはっきりしたため、三十階層からの十階層分をなぜ飛ばしたのかの理由が気になるところではあるが、今は置いておこう。
「お、怒らないのかい……?」
「あぁ。俺も、お前と同じ立場ならそうしただろうなって思える正当な理由が聞けたからな。まだいくつか分からないことはあるけど、お前にはもうこれ以上聞かないし、無理なことも頼まねーよ。そのコトワリってやつにどんな影響を与えるのかは分からんけど、ちゃんと自力で突破して、ゲンカイやらキュウカクやらの話も聞いてから……手伝えるようなことであれば力を貸してやるよ」
「ソウタ様ならできると信じております」
俺を見つめるメリシアに、返事の代わりに笑顔を返す。
「キミたちは……ううん……ありがとう……」
今までになくしおらしいチゴウがおかしくて、メリシアと二人で笑い合ってから再び歩みを進める。
当て所なく歩いていたこれまでと違って、この階層がどういう目的で作られたのかがチゴウの話を聞いて少しわかった今なら、次の階層へと進めるかもしれない。
五十階層から四十階層は体力を、四十階層から三十階層は知力を……そして恐らく、三十階層から二十階層は精神力を試す目的で作られていたはずだ。
となると、二十階層から十階層までは、ずばりその全てを求められることになるのだろう。
この階層の目的が宇宙の再現を目指していると思われるため、これまでの集大成のような作りになっていなくてはつじつまが合わない。
十階層から一階層までがどんな作りなのか分からないが、これまでの傾向と与えられてきた試練の内容から、ある程度の予測はできている。
そしてもしこの予測が合っているなら、この階層で時間を食っている暇はマジで無い。
「よっし、それじゃ急ごう。メリシア、悪いけどちょっと本気出すからおぶってもいいか?」
「もちろんです。お手を煩わせて申し訳ありません……失礼いたします」
「何をするつもりだい……?」
「まぁ黙って見てろって。磁石があるなら、穴掘り作戦以外にもここを攻略する方法は思いつくぜ」
スローモーション状態へと移行し、メリシアの身体強度を特性操作で引き上げてから、光に向かって跳躍する。
何をかくそう、俺の考えた攻略法とは……名付けて”見えてる光すべてに総当たりして通路探し出しちゃえ作戦”だ!
すごーい。
めっちゃ頭わるーい。
脳みそが筋肉で出来てそー。
……さっきはメリシアの手前カッコつけたが、結局この方法しか思い当たらなかったのだからしかたがない。
しかし、この脳筋作戦にも実はメリットがいくつかある。
ひとつ、スローモーション状態なので時間をあまり消費しない。
ふたつ、全力で跳んで、磁石で壁に張り付き、不正解ならその光源を潰してからまた跳んで――を繰り返すだけなので、無重力がほぼ関係なくなる。
みっつ、メリシアの時感覚は特性操作していないため、終わったらそれっぽいことを言ってまたカッコつけられる。
さっそく一つ目の光源に辿り着いた――が、なんといきなり次の階層へ繋がる螺旋階段への入り口に当たったため、驚きすぎてスローモーションを解除してしまう。
「ちょっまっ」
ほぼ垂直に跳んだので天井に正解があったことになるが、入り口の正面に出口っていうパターンを繰り返してきたこの迷宮の作り的に、いきなり上に出口なんていうのは構造的にもおかしくないか?
大体、先ほどまで入り口前で下に穴を開けて、扉の下をくぐるように真っすぐ螺旋階段まで繋がる穴を掘って進んでいたのは、どうやって説明するんだ?
「もう次の階層への通路を見つけたのですか!?」
「いや……うーん?」
確かに通路の奥には螺旋階段が見えているため正解ではあるのだろうが、意味が分からなさすぎて微妙な返事をしてしまう。
何が問題なのか分かりようがないメリシアにとってみれば、正解の道へ辿り着いたはずなのに悩ましい態度をとる俺が不思議なのだろう。
「どうかなさいました?」
と、首を傾げながら尋ねてくる。
しかし、その疑問に対する答えを持ち合わせていない俺としても、今は曖昧に頷くほかなかった。
「うん……と、とりあえず降りてみよう」
「は、はい……」
螺旋階段を下りて次の階層の扉を開けると、再び同じような無重力空間が広がっていた。
チゴウリボンが、俺たちが歩くたびに接地面を鉄化してくれているため、この階層も問題なく歩くことができた。
「メリシア、悪いんだけどもう一回跳んでいいかな」
「分かりました、よろしくお願いしますっ」
先ほどと同じように、ふたたびメリシアを背負ってスローモーション状態に移行し、真上にある光へと跳躍すると……やはりそこも螺旋階段に繋がる通路になっていた。
その次の階層も、その次も、そのまた次も――結局そのまま十階層の入り口前まで辿り着いたため、まさかチゴウがまた俺たちを騙しててエンドレスにループさせてる……なんてことないよな、と不安になりながら扉を少し開いて中を覗き込む。
そこには武林迷宮の入り口や四十階層などと同じような空間が広がってはいたが、一つだけ今までとは違う点があった。
「人がいる」
スローモーションを解いてから独り言のようにつぶやくと、メリシアが背中から降りて、扉の隙間から中を伺った。
「――部屋の真ん中に座ってる、あの方ですか?」
「そうそう。もしかして、あいつが守護武神のゲンカイってやつなのか?」
「そうだね……あれこそが守護武神、序列第二位の元戒さ……」
「要するに、シャイアのためってことか」
「僕にはこの迷宮と同様、父であり母であるシャイア様は絶対の存在なんだ……そのためなら何だってするよ……」
「なるほどな……ま、いいんじゃないか?」
「えっ……?」
「そうですね。そういう理由があったのならば、しかたがありませんね」
俺たちをだますような真似をした動機が邪悪なものでないと分かった今、先ほどまで感じていた怒りはどこかへ消えていた。
メリシアも、俺と同様にチゴウのことを責めるつもりはないようだ。
チゴウがコトワリとやらにこだわっている理由がはっきりしたため、三十階層からの十階層分をなぜ飛ばしたのかの理由が気になるところではあるが、今は置いておこう。
「お、怒らないのかい……?」
「あぁ。俺も、お前と同じ立場ならそうしただろうなって思える正当な理由が聞けたからな。まだいくつか分からないことはあるけど、お前にはもうこれ以上聞かないし、無理なことも頼まねーよ。そのコトワリってやつにどんな影響を与えるのかは分からんけど、ちゃんと自力で突破して、ゲンカイやらキュウカクやらの話も聞いてから……手伝えるようなことであれば力を貸してやるよ」
「ソウタ様ならできると信じております」
俺を見つめるメリシアに、返事の代わりに笑顔を返す。
「キミたちは……ううん……ありがとう……」
今までになくしおらしいチゴウがおかしくて、メリシアと二人で笑い合ってから再び歩みを進める。
当て所なく歩いていたこれまでと違って、この階層がどういう目的で作られたのかがチゴウの話を聞いて少しわかった今なら、次の階層へと進めるかもしれない。
五十階層から四十階層は体力を、四十階層から三十階層は知力を……そして恐らく、三十階層から二十階層は精神力を試す目的で作られていたはずだ。
となると、二十階層から十階層までは、ずばりその全てを求められることになるのだろう。
この階層の目的が宇宙の再現を目指していると思われるため、これまでの集大成のような作りになっていなくてはつじつまが合わない。
十階層から一階層までがどんな作りなのか分からないが、これまでの傾向と与えられてきた試練の内容から、ある程度の予測はできている。
そしてもしこの予測が合っているなら、この階層で時間を食っている暇はマジで無い。
「よっし、それじゃ急ごう。メリシア、悪いけどちょっと本気出すからおぶってもいいか?」
「もちろんです。お手を煩わせて申し訳ありません……失礼いたします」
「何をするつもりだい……?」
「まぁ黙って見てろって。磁石があるなら、穴掘り作戦以外にもここを攻略する方法は思いつくぜ」
スローモーション状態へと移行し、メリシアの身体強度を特性操作で引き上げてから、光に向かって跳躍する。
何をかくそう、俺の考えた攻略法とは……名付けて”見えてる光すべてに総当たりして通路探し出しちゃえ作戦”だ!
すごーい。
めっちゃ頭わるーい。
脳みそが筋肉で出来てそー。
……さっきはメリシアの手前カッコつけたが、結局この方法しか思い当たらなかったのだからしかたがない。
しかし、この脳筋作戦にも実はメリットがいくつかある。
ひとつ、スローモーション状態なので時間をあまり消費しない。
ふたつ、全力で跳んで、磁石で壁に張り付き、不正解ならその光源を潰してからまた跳んで――を繰り返すだけなので、無重力がほぼ関係なくなる。
みっつ、メリシアの時感覚は特性操作していないため、終わったらそれっぽいことを言ってまたカッコつけられる。
さっそく一つ目の光源に辿り着いた――が、なんといきなり次の階層へ繋がる螺旋階段への入り口に当たったため、驚きすぎてスローモーションを解除してしまう。
「ちょっまっ」
ほぼ垂直に跳んだので天井に正解があったことになるが、入り口の正面に出口っていうパターンを繰り返してきたこの迷宮の作り的に、いきなり上に出口なんていうのは構造的にもおかしくないか?
大体、先ほどまで入り口前で下に穴を開けて、扉の下をくぐるように真っすぐ螺旋階段まで繋がる穴を掘って進んでいたのは、どうやって説明するんだ?
「もう次の階層への通路を見つけたのですか!?」
「いや……うーん?」
確かに通路の奥には螺旋階段が見えているため正解ではあるのだろうが、意味が分からなさすぎて微妙な返事をしてしまう。
何が問題なのか分かりようがないメリシアにとってみれば、正解の道へ辿り着いたはずなのに悩ましい態度をとる俺が不思議なのだろう。
「どうかなさいました?」
と、首を傾げながら尋ねてくる。
しかし、その疑問に対する答えを持ち合わせていない俺としても、今は曖昧に頷くほかなかった。
「うん……と、とりあえず降りてみよう」
「は、はい……」
螺旋階段を下りて次の階層の扉を開けると、再び同じような無重力空間が広がっていた。
チゴウリボンが、俺たちが歩くたびに接地面を鉄化してくれているため、この階層も問題なく歩くことができた。
「メリシア、悪いんだけどもう一回跳んでいいかな」
「分かりました、よろしくお願いしますっ」
先ほどと同じように、ふたたびメリシアを背負ってスローモーション状態に移行し、真上にある光へと跳躍すると……やはりそこも螺旋階段に繋がる通路になっていた。
その次の階層も、その次も、そのまた次も――結局そのまま十階層の入り口前まで辿り着いたため、まさかチゴウがまた俺たちを騙しててエンドレスにループさせてる……なんてことないよな、と不安になりながら扉を少し開いて中を覗き込む。
そこには武林迷宮の入り口や四十階層などと同じような空間が広がってはいたが、一つだけ今までとは違う点があった。
「人がいる」
スローモーションを解いてから独り言のようにつぶやくと、メリシアが背中から降りて、扉の隙間から中を伺った。
「――部屋の真ん中に座ってる、あの方ですか?」
「そうそう。もしかして、あいつが守護武神のゲンカイってやつなのか?」
「そうだね……あれこそが守護武神、序列第二位の元戒さ……」
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