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第五章:其の叡智の業を以って全てに黎明を
四話:サイコパス
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「おい! 殺すなよ!!」
「はい、仰せの通り死んではおりません」
溶かした鉄を鋳金する時のように、今にもバチバチと火花さえ散らしそうなほど赤い瞳が、その色からは想像もできないほど冷たく光る。
「死んでないって――」
「ァ……ガッ……」
「いや、同じようなもんじゃん……」
「手段は問わないとおっしゃっておりましたので、効率的に運びました」
「確かに手段を問わないとは言ったけど、これは……」
ディブロダールの宰相といえば、メリシアいわくの実質的な国政を担っている総理大臣みたいな存在なのに、この……まるで荷物かのような扱われようは……。
血を失い過ぎてもはや虫の息の宰相――フェミリオは、見るからに危険な状態にある。
「とりあえず、すぐ治してやる……けど、かなりキツイから覚悟してくれよ」
「マッ! ナニ、ヲ……ッ!?」
ここで死なれては今後の計画的にもマズイため、キュウカクを問い質したい気持ちをグッとこらえてすぐに治癒をはじめる。
「ウグァッ!? アァアァァガッ! ヤ、ヤメッ! ヤメヤベッテ――ッ!」
「……じっとしてろ」
「モッ、モウッ! コロシュテッ――クダアアアガガガガサガアガガガアッッッ!」
欠損した部位の再生には、その過程で相当な治癒痛を伴う。
その痛みは切断された時と同じ痛みをもう一度味わうことに等しいため、敵とはいえ哀れになってくる。
ようやく両腕を治し、さて両足にとりかかろう……としたところで、背中の筋肉だけで跳ね回るように暴れていたフェミリオの全身からフッと力が抜け、急に大人しくなった。
「よし、意識を失ったな」
この激痛では意識を失えたほうが楽だ……痛みで意識を失えるのはある種の才能なので、コイツは運が良いと言える。
とはいっても数秒で覚醒するかもしれないため、大急ぎで両足の治癒を行い、同時に足りない血も完全に元に戻しておく。
しかし……問題なのはこの後か。
「キュウカクのせいで、目が覚めても説得するのは難しそうだな」
「はぅ……」
「はぅ、じゃねえ。誰が半殺しにしろといった? 俺が言ったどんな手段を使ってでも連れてこいってのは、当然、連れてくるために障害があるならどんな手段でも使っていいという意味で、宰相自体をどんな手段でもいいから運んで来いって言ったわけじゃないことくらい、分からないか?」
「も、申し訳ございません……どうお詫びすれば――」
「……はぁ。いや、もういい」
宰相の重要性などをあらかじめ話していたため、いくらなんでもニュアンスで伝わるだろうと思っていた俺が馬鹿だった。
次からコイツに何か頼む場合は、細かく指示をしなくてはいけないと肝に銘じる。
「とりあえず、いつ起きるか分からないから飯でも食おう……なんかドッと疲れた」
「お、お疲れ様です……」
「主様……本当に、本当に申し訳ございませんでした……っ」
その、一見してか弱い少女がスカートの裾を掴んで俯きながらフルフル震えている姿は……道端に捨てられた子猫を前にした時のように、なんとも庇護欲を掻き立てる――が、見た目に惑わされてはいけないと自分に言い聞かせる。
今井奏太、コイツは少女ではない――いや、生命体ですらない。
言うことを聞くだけの、ただの木や岩だとでも思え。
……目の前にいるのは、人間の四肢をまるで粗大ゴミを抱えやすくするためとでも言わんばかりにもぎ棄てた、正真正銘のサイコパス。
俺たちと同じ容姿をしていても、数万年も孤独に生きてきた……いわば、有機生命体の枠組みの外にいる存在、それがキュウカクなんだ。
「……王宮に戻ろう。コイツは俺が運ぶよ」
「はい……」
俺とメリシアが歩き出しても暫く動かなかったキュウカクをチラっと振り返ると、十歩程度の距離を開けてトボトボと後をついてきていた。
「はい、仰せの通り死んではおりません」
溶かした鉄を鋳金する時のように、今にもバチバチと火花さえ散らしそうなほど赤い瞳が、その色からは想像もできないほど冷たく光る。
「死んでないって――」
「ァ……ガッ……」
「いや、同じようなもんじゃん……」
「手段は問わないとおっしゃっておりましたので、効率的に運びました」
「確かに手段を問わないとは言ったけど、これは……」
ディブロダールの宰相といえば、メリシアいわくの実質的な国政を担っている総理大臣みたいな存在なのに、この……まるで荷物かのような扱われようは……。
血を失い過ぎてもはや虫の息の宰相――フェミリオは、見るからに危険な状態にある。
「とりあえず、すぐ治してやる……けど、かなりキツイから覚悟してくれよ」
「マッ! ナニ、ヲ……ッ!?」
ここで死なれては今後の計画的にもマズイため、キュウカクを問い質したい気持ちをグッとこらえてすぐに治癒をはじめる。
「ウグァッ!? アァアァァガッ! ヤ、ヤメッ! ヤメヤベッテ――ッ!」
「……じっとしてろ」
「モッ、モウッ! コロシュテッ――クダアアアガガガガサガアガガガアッッッ!」
欠損した部位の再生には、その過程で相当な治癒痛を伴う。
その痛みは切断された時と同じ痛みをもう一度味わうことに等しいため、敵とはいえ哀れになってくる。
ようやく両腕を治し、さて両足にとりかかろう……としたところで、背中の筋肉だけで跳ね回るように暴れていたフェミリオの全身からフッと力が抜け、急に大人しくなった。
「よし、意識を失ったな」
この激痛では意識を失えたほうが楽だ……痛みで意識を失えるのはある種の才能なので、コイツは運が良いと言える。
とはいっても数秒で覚醒するかもしれないため、大急ぎで両足の治癒を行い、同時に足りない血も完全に元に戻しておく。
しかし……問題なのはこの後か。
「キュウカクのせいで、目が覚めても説得するのは難しそうだな」
「はぅ……」
「はぅ、じゃねえ。誰が半殺しにしろといった? 俺が言ったどんな手段を使ってでも連れてこいってのは、当然、連れてくるために障害があるならどんな手段でも使っていいという意味で、宰相自体をどんな手段でもいいから運んで来いって言ったわけじゃないことくらい、分からないか?」
「も、申し訳ございません……どうお詫びすれば――」
「……はぁ。いや、もういい」
宰相の重要性などをあらかじめ話していたため、いくらなんでもニュアンスで伝わるだろうと思っていた俺が馬鹿だった。
次からコイツに何か頼む場合は、細かく指示をしなくてはいけないと肝に銘じる。
「とりあえず、いつ起きるか分からないから飯でも食おう……なんかドッと疲れた」
「お、お疲れ様です……」
「主様……本当に、本当に申し訳ございませんでした……っ」
その、一見してか弱い少女がスカートの裾を掴んで俯きながらフルフル震えている姿は……道端に捨てられた子猫を前にした時のように、なんとも庇護欲を掻き立てる――が、見た目に惑わされてはいけないと自分に言い聞かせる。
今井奏太、コイツは少女ではない――いや、生命体ですらない。
言うことを聞くだけの、ただの木や岩だとでも思え。
……目の前にいるのは、人間の四肢をまるで粗大ゴミを抱えやすくするためとでも言わんばかりにもぎ棄てた、正真正銘のサイコパス。
俺たちと同じ容姿をしていても、数万年も孤独に生きてきた……いわば、有機生命体の枠組みの外にいる存在、それがキュウカクなんだ。
「……王宮に戻ろう。コイツは俺が運ぶよ」
「はい……」
俺とメリシアが歩き出しても暫く動かなかったキュウカクをチラっと振り返ると、十歩程度の距離を開けてトボトボと後をついてきていた。
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