第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第五章:其の叡智の業を以って全てに黎明を

五話:フェミリオの嘘

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 王宮へと戻り、メリシアの料理を食べ終え、食後のお茶に口をつけていると――

 「ハッ!?」

 宰相――フェミリオがガバっと飛び起きた。

 「こ、ここはどこだっ!?」

 恐怖と焦りを滲ませた顔で、キョロキョロと辺りに視線をさまよわせるフェミリオに声を掛ける。

 「おはよう。ディブロダールの宰相、フェミリオ」
 「キ、キサマは……はっ!? 私の、腕ッ! 足ッ!?」

 と、俺と目が合い……次いで、俺の右後ろに守護霊のごとく佇むキュウカクに気が付いて、滝のような汗を流しながら自分の四肢を確認する。

 「ハァ、ハァ、おま……ア、アナタは、まさか帝国の?」
 「今井奏太だ。いちおう、皇帝ってことになってる……ちなみにお前の千切れた手足は俺が治したんだが、覚えてるか?」
 「治し……ウッ!?」

 思い出し痛みというのか、フェミリオが自分を抱きしめるようにして破けた衣服の上から両腕をさすった。

 「心配せずとも、傷はまったく残ってないし、血も元通りにしてあるぞ」

 そういう問題ではないとでも言いたげに一瞬俺をにらんだその視線は、何やら背後から放たれた邪悪な気配によって、すぐに逸らされた。

 「……キュウカク、余計なことをするな」
 「も、申し訳ございません……ソウタ様と同種とは思えぬ穢れた汚物が舐めた態度をとったもので、思わず――」
 「思わず、なにをするつもりだったんだ?」
 「いえ、なにも……」

 敢えてこのタイミングで振り向く――と、キュウカクが瞳を潤ませながら唇を噛みしめていた。

 「ハァ……で、なぜここに連れてこられたか、分かるな?」

 フェミリオに視線を戻すと、俺とキュウカクのやり取りを不思議そうに眺めていたのが、突然キリっと引き締まった。
 その雰囲気は、なるほど確かに……一国の政治を取り仕切る者の風格を感じる。

 「……今回の、帝国への攻撃について査問するつもりなのでしょう?」
 「査問?」

 再び背後から発せられた気配を、右手を上げていさめる。

 「そうだ。メルナリアは帝国に何をした? みんなは無事なのか?」
 「メルナリア様のことを知っているのですか!?」
 「その昔、キュウカクがちょっとやりあったらしい」
 「し、信じられない……そんな……」

 政治家らしく表情には出さないが、かなり驚いているようだ……しかし、どこかおかしい。
 なんだこの違和感は……。

 「ですが、それが本当ならば私の抵抗など意味はありませんね」
 「……教えてくれるか?」
 「分かりました……観念しましょう」

 大仰に頷くと、ゆっくりと説明するように喋りはじめた。

 「オールタニアの新教皇エリウスの提言を受け、貴国に軍を差し向けたのは、私です。ほぼ全兵力を投じ、正直なところ勝利を疑っておりませんでした……が、結局は壊滅に近い形で退けられ、貴国による反攻の兆しまで報告されたことで、切り札であるメルナリア様を起こすことにしたのです――」

 聞けば、メルナリアは存在自体が秘匿されていて、まだ存命であることを知る者はディブロダール内でもごくわずかしかいないらしい。
 さらに普段は魔術により眠っていて、有事の際にだけ眠りから目覚めて貰い、その超常の力を借りるという……戦術兵器に近い運用をしており、このことを知るのは自分だけだとのことだった。

 「メルナリア様が何をしたのかは知りません……というより、魔術の技量ではなく政治の手腕を買われてこの地位にいる私では、メルナリア様が帝国に何かをしたらしいということまでしか分からないのです。なので、残念ながら帝国民が無事かどうかについても――」

 ――主様、発言してもよろしいでしょうか。

 フェミリオが申し訳なさそうに眉根を寄せて話しているところへ、突然キュウカクが念話で割って入る。

 ――ん、どうした。
 ――この汚物、あろうことかソウタ様に対して偽りを申しております。
 ――偽りって、嘘ついてるってことか?
 ――はい。

 なるほど……さっきの違和感はそれか。

 ――どうやら、ソウタ様以外の帝国民をすべて抑え……その解放を餌に、恐れ多くもソウタ様にシャイア召喚のための贄とさせた後、帝国民は奴隷として使う目算だったようです。
 ――マジか。

 おおむね予想通りではあるが、ゲス度合いは遥かに上だった。
 ペラペラとまだ何かを話しているフェミリオに意識を戻す。

 「――ですから、私を解放して頂ければ帝国民を元に戻し、和平のための話し合いの場を設けさせていただきたく考えておりますが、いかがですか?」
 「どうやら、そうするしかないようだな」

 立ち上がって右手を差し出すと、ホッと安堵の溜息をついたフェミリオも立ち上がり俺の手を握り返してきたので、グシャリと潰す。

 「イギャアアアァアァァッッ!?」

 驚愕と痛みでフェミリオが腕を引いたため、手首の先数センチがブチブチッと引き千切られて俺の手の中に残った。
 まるで捏ねたハンバーグだねを握っているような、なんとも気色悪い感触から逃れるため手を振って捨てる――と、白い骨が混ざった肉片が、床にベチャっとへばりついた。
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