第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第五章:其の叡智の業を以って全てに黎明を

十三話:トルキダスの置き土産

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 食後のデザートを食べ終えたユーリをメリシアが風呂へと連れていき(仲良くをしたらしい)、二人が出てきたところで、気が付けば時刻は夜九時を回っていた。

 「それでは、おやすみなさい」
 「おやすみなのなー!」

 ユーリはお姉ちゃんと一緒に寝たいとかで、メリシアにともなわれながら楽しそうにキャッキャと寝室へ入っていった。

 「ああ、おやすみ」

 そんな微笑ましい姉妹のような二人の背中に声を掛け、扉の向こうへと消えていくのを見送ってから、無駄に長い廊下を自室に向かって歩きはじめる。
 二人にはおやすみと返事をしたものの、正直、ユーリに向けられた殺意の余韻で眠気など皆無なのと、明日からの計画を色々と練らなくてはならないため、今日は徹夜をするつもりでいた。
 キュウカクに関しては信頼をしていたわけではないが、まさか身内――しかも子供――のユーリにその毒牙が及ぼうとは思っておらず、完全な油断だった。
 迷宮にいたドラゴンの爺さんは、キュウカクの荒い気性……という表現では収まらないあの病的なまでの攻撃性を、と表現していた。
 これを聞いた時”闇に触れた”とかなんとかの不穏な発言も相まって、勝手に『長い時間を孤独に過ごした結果、常識から外れ、倫理観が欠如した……いわゆる精神疾患的な心神耗弱こうじゃくに陥った』のだと一瞬勘違いしたが、迷宮の十一階層で就寝中にしたキュウカクのあの思考の内容や、石碑に刻まれた文言から、そうではないことをすぐに看破し、実際に迷宮が作られた本当の目的にまでたどり着いた結果、キュウカクの壊れた心も多少はまともになった――はずだった。

 「心も治癒できれば良かったのにな」

 神器ラファムレアによってあのクズ野郎センチピードから奪った治癒の慈悲主としての力も、慈愛の救世主としての特性操作の力も、つまるところ物質や現象といった物理法則に影響を及ぼす力に過ぎない。
 そこまで考えたところで、自分がギリギリと歯軋りをしていることに気がついた。
 別に、キュウカクを救ってやりたいのにできないことが悔しいとかそういうことじゃない。
 心や魂といった無形の存在に対してあまりに無力な自分への、これは憤りだ。

 「なんてのは、慢心か……」

 自室の扉を開け、中に入る。
 やるせない気持ちを押さえつけたくて、何かないかと思考を巡らせていると――そういえばおっさんが勝手にあれこれと棚に酒を置いていたことを思い出し、そこから適当に手についた一本を取ってグラスに注ぎ、クイっとあおる。

 「ゴホッ!?」

 つよっ!
 まるで消毒用アルコールのような後味の、酔えりゃいいんだよ的な酒だが……なんなんだコレは。
 ウォッカもビックリなその強さに、思わずラベルへ目を通す。

 「ま、魔術酒??」

 アルコール度数とか書いてねぇけど――ってちょっと待て。
 まさか、この”99”ってのがソレか?
 99って……確かスピリタスとかいうウォッカが96%だから……いやもうこれほぼ無水エタノールじゃん。
 そりゃ消毒液っぽい後味にもなるわ。
 っていうか酒の蒸留にまで魔術使うなよ。

 「……プッ」

 先ほどまで、どうしようもないことを俺らしくもなくウジウジと考えていたのが、おっさんの酒のせいで俺らしくなってしまって、ふっと笑いが込み上げて噴き出してしまった。
 結局、俺なんかがあーだこーだ考えたところでしかたがないのだ。
 これまでなすがままにできることをできる分だけやってきて、結果それが一番良い選択になったことでここまで来れたんだから。

 「ありがとなおっさん」

 別に口に出す必要は無いとも思ったが、五次元とやらに声が届く可能性だって無くはないのだからと、敢えて言葉にする――と、

 コトンッ

 気のせいか、俺の声に反応するかのように、テーブルに置いたグラスが少しだけ動いた。
 って、ちょっと待て。

 コトコトッ

 気のせいじゃない、確かに動いてる。

 コトッコトン――コトトン――

 霊感など皆無だし、幽霊の存在もどちらかといえば否定的な俺だが、触れてもいないグラスがひとりでに動くというのは、見ていて気分がいいものではなかった。
 沸々とわいてくる恐怖を振り払うように、思わずグラスを手で払いのける。
 半分ほど残っていた酒がビシャっと飛び散り、グラスが絨毯の上を転がって、やがて止まった。
 揮発したアルコールがツンと鼻を刺激してきた――その瞬間、絨毯に染みこんだ酒と、揮発して空気中に溶け込んだ酒が渦を巻きながら宙に集まり始めた。
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