第四創世主は殺人衝動を性欲で捻じ伏せるらしい~最強の力を得た凡人、仕方なくイヤイヤ成り上がっていったら世界を救うことになりました~

文場凡

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第五章:其の叡智の業を以って全てに黎明を

十四話:至高の魔術師

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 「君がイマイソウタか」

 奇妙なことに、宙をフヨフヨと漂っている酒のほうから人の声が聞こえてきた。
 何度か瞬きをしながら良く観察すると、声が聞こえるたびに手のひら大の酒の塊に波紋が浮かんでいるのに気が付く。
 どうやら、この声は酒自体から発せられているらしい。

 「私はメルナリア。至高の魔術師と人は呼ぶ」
 「っ!?」

 酒そのものに意識を向けていたため、名乗った名前が不意打ち過ぎて言葉に詰まってしまった。
 い、今……メルナリアって言ったか?
 キュウカクの報告では、厳重な情報封鎖を行っている魔操塔とやらにいるはずじゃ……。
 いったいどうやって……というか、なぜ……?

 「ふむ、色々と聞きたそうな顔をしているが、あいにくと魔術酒に含まれる魔力程度では猶予がそれほどなくてね。結論から言おう、シャイア復活に手を貸して欲しい」
 「……至高の魔術師ってくらいだからもう少し賢いのかと思ってたんだが、そんな一方的な物言いに、ハイそうですかと応えると思うか?」
 「もちろん、相応の理由と条件があれば考慮して貰えると思っている」
 「理由と条件?」

 どうせ帝都の人たちを元に戻すとかその程度のことだろ……と、返そうとした俺の言葉を遮るように、メルナリアが先を続ける。

 「フィオレンティアはじきに寿命を迎える。これは決定事項でね、残念ながら私ではどうすることもできない。だからシャイア自身にそれを止めさせたいのだ」
 「……は?」

 コイツはいきなり何を言ってるんだ?

 「そんな突拍子もない話で俺を騙せると思ってるのか?」
 「なにやら誤解しているようだから確認しておくよ。シャイアが多世界の均衡を保つためにこの世界を作ったことは知っているかな?」
 「待て、待て待て……何の話だ?」
 「なるほど、では教えよう――シャイアは次元の管理者だ。俗っぽく言うならば、崩壊と想像の神といったところか」

 想像だにしていなかった話の連続で、ただポカンと聞いているしかない俺に気付いているのかいないのか。
 メルナリアは調子を変えずに淡々と話を続けていく。

 「フィオレンティアは、他の世界のための礎石そせきのようなものでね。この世界が無くては四次元時空に存在している他の世界がすべて崩壊してしまうため、寿命……いや、老朽化とでも言うべきか……その時が来れば、フィオレンティアをいったん無に帰してから作り直す必要があるのだよ。しかし、私はここに愛着があってね……なんとしても阻止したいと考えている」
 「……キュウカクに聞いたが、お前も元は他の世界の人間だったんだろ。その話で行くと、この世界を守った場合、お前がいた世界は崩壊するんじゃないのか?」
 「その通りだ。が、よく考えてみて欲しい。生まれ育った故郷よりも、苦労して無から産み育てた子供たちを守りたいと思うのは、ごく自然なことではないか?」

 即答できなかった。
 そして、それが答えだった。

 「子供だった頃、家が自分のすべてだった。大人になると、世界が自分のすべてになった。そして親として今、この世界が自分のすべてだと想っている」
 「……お前の言っていることには矛盾を感じるぞ」
 「ふむ?」
 「この世界が自分のすべてと言うのなら、なぜ帝都の皆を五次元なんかに閉じ込めてるんだ。なぜディブロダールと帝国の戦争を止めなかった」
 「先ほどもいったように、シャイアは次元の管理者でね。この四次元時空ではなく、一つ上の五次元へと位相変換してやらねば、万が一ここが崩壊した場合に助からないから、避難して貰っているのだよ」
 「なるほど……なら戦争は?」
 「子供のケンカに口を出す親がいるかね?」
 「なにを――っ!」

 カッとして思わず声を荒げそうになるが、その行為には何の意味も無いため思いとどまる。

 「勘違いしているようだが、私はこの世界のすべてを慮っているのだよ。草や木はもちろん、石や土、水、空気、そして人やエルフ……すべて分け隔てなく愛している。今回、人やエルフを優先して五次元へと位相転換しなければいけなかった理由ももちろんある」
 「理由ってなんだよ」
 「シャイアによって創造の力を与えられたからだよ。人やエルフは荒れ地を開墾し、田を耕し、家を作り、交配によって増えもすればそれらが集まって村を築き、やがて町になり……やり方は実に泥臭いが、私としてはむしろそこに可能性を感じている。魔術の使い方を教えた甲斐があったというものだ」
 「は……?」

 今、とんでもないことをサラっと言った気がするが……。
 魔術を教えた……?
 誰が、誰に……?

 「おや、知らなかったかね? 魔術の祖は私だよ。シャイアに導かれこの世界に来た私が、元の世界で培った技術を元に魔力の練り方を教え、魔術の行使の仕方を授けたのだ」
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