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 「…」

 コウは、三角座りしたまま、母との思い出の星を見上げたまま無言で固まった。
 そして、アキ王子が言ってる事はコウに聞こえているのに、コウの頭に入ってこない。

 王子も同じ体勢でコウに体を寄せたまま、コウの反応が無いまま、星を見上げ話し続けた。

 「コウは、運命の番は……知ってる?」

 そのフレーズに、コウは我に返った。

 この広い世界にはごくまれに、深く固い絆で結ばれているアルファとオメガがいるが、それが運命の番だ。
 しかし、アルファであれオメガであれ、必ず運命の番がいるとは限らないし、一生会えない方が遥かに多い。

 実際、コウの周りのアルファとオメガは、恋愛もセックスも本能のおもむくまま色々な相手と奔放にする者ばかりで、運命の番など見た事もなかった。

 コウは、そんな乱れに乱れた周りの環境と自分の病で、オメガバースに関する言葉を聞いただけで、自分ではどうしようも無いドス黒い感情が沸々と、腹の底の底から湧いてくる。
 自分がアルファでありながら、オメガバース自体に、激しい憎悪と嫌悪があった。
 だから、ベランダの床に視線を落とし、返す声までも固くなる。

 「はい……知ってます」

 「コウ……私は、何故と言われても分からなかったけど、まだ小さな子供の頃から、ずっと、ずっと、どこかに私の運命のアルファ、運命の番がいるような気がしてたんだ。で、今日コウに会って、やっぱりその予感は正しかったって思ったんだ」

 アキ王子は、コウの方を向きそう言うと、コウの両手を自分の両手で握った。
 そして、王子に顔を向けたコウの目を真っ直ぐ見て囁いた。

 「コウ……一目見て、君が私の運命のアルファだってすぐ分かった。そして、やっぱり思った通り君はアルファだった。君は私の運命の番だ!私は、あの一番輝く星の横にあるあの星の様にコウに寄り添い生きていきたい!だから…オメガからなんて逆プロポーズになるけど、コウ…私と結婚して欲しい!今日、今、結婚して欲しい!」

 「はっ?!」

 コウは驚愕し、王子からすぐに亡き母と見上げたあの双星を見て、又すぐ王子の顔を見た。
 だが、本当に驚いたが、すぐにコウが抱いたのは、アキ王子がコウをからかっているのでは?と言う黒い疑念だった…
 それ位、コウの心の闇は深かった。
 コウは切れ長の目で、アキ王子を見透かしてやろうと、化けの皮を剥がしてやろうと見詰めた。

 しかし…

 アキ王子の表情や目は、真剣で…
 コウをからかっている雰囲気では全く無かった。

 そしてそれ所か逆にコウは、王子の真剣さにたじろぐ。
 だがそれでもコウは、アキ王子の言葉を「はい、そうですか」と簡単に信じられる訳が無い。

 「殿下……普通運命の番かどうかは、アルファとオメガのフェロモンを通してのみお互いに分ると聞いております。この通り、私は欠陥持ちでアルファのフェロモンが出せませんし殿下のフェロモンも感知できません。それなのに運命の番かどうかなんて…」

 相手は格上の王子だ。

 なるべく波を立てまいとするが、コウの声の端々に険が出て、途中で言葉が詰まった。

 しかし、アキ王子はそれにも気を悪くせず、更にギュッとコウの手を握って、優しく囁くように言った。

 「信じられない?言ってもすぐにコウに分かってもらえないだろうけど、フェロモンなんて無くても私には凄く分かるんだ。コウを見ただけで、コウが私の運命の番だと……この世にたった一人の、私のアルファだと。私は、好きなんだ……コウ、君の事が……コウ……今すぐ結婚して欲しい!」

 これだけ熱く求愛されても、コウにはやはりさっぱり理解しがたかったし…
 やはり、アキ王子がどこまで真剣かも疑っていた。

 そして、コウは…
 アルファのコウよりアルファのような雰囲気を醸し出しているアキ王子が…
 色々な方法で自分の剣にエンチャントする事か食べ物にしか興味の無いコウと違い、さも派手に遊んでそうなアキ王子が、余りにも純真な事を言うので、それがとても以外でもあったし…
 アキ王子が、亡き母とコウの思い出の星の事を口にした事が、とても、とても不思議だった。







































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