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  コウは、不意打ちのアキ王子からのキスに、壁にもたれて目を開けたまま体を硬直させた。
 今のこの2人を何も知らない他人が見たら、アキ王子がアルファで、コウがオメガに見えるだろうが、本当にその逆なのだ。
 やがてゆっくりアキ王子の唇がコウのそれから離れた。
 短いはずなのに、コウにはやたらキスの時間が長く感じられて、アキ王子の唇の感触もなかなか消え無い。
 そんな中、2人の唇は近いまま、アキ王子はコウから体を離さない。

 「コウ……私と結婚してくれるよね」

 アキ王子がコウを見詰めて、微笑んだ。

 「…」

 コウは、キスの衝撃もありしばらく声が出なかったが、普通ならコウに怒りが湧いてきそうな状況だったが、何故か不思議とそれが無かった。
 普段なら、相手が誰だろうがとうに相手をぶん殴っていてもおかしくないのに。
 その理由をコウは考えようとしたが、アキ王子が再び念を押してきた。

 「結婚してくれるよね?コウ!」

 コウは、理由が分からないまま王子の顔を見詰めた。そして、アキ王子の笑顔があまりにうれしそうでそれでいて色気があったから、心の中で独りごちた。

 (そんな目で俺を見んな!)

 コウはここですぐ明確にNOと言い、アキ王子を治安兵士に渡して王都の城に戻すべきだと分かっている。
 コウがアキ王子にふさわしく無い事は、コウ自身が1番理解してる。
 しかし、目の前のアキ王子の笑顔に罪悪感も湧いてきて、だからハッキリと言えずに、遠回しにグダグダと言い募らなければならなくなった。

 「アキ様……アキ様は、その……
ハイリゲンがどんな危険な所かご存知ないのです。アキ様が行かれるような場所ではありません。アキ様の身の安全が第一です。どうか城に、お父上の所にお戻り下さい」

 普段使わないし苦手な敬語を、必死でコウは脳から絞り出した。
 しかし、アキ王子は、増々笑顔になって言った。

 「コウ。ありがとう。私の心配をしてくれて。でも私はハイリゲンが危険な所だと分かっているし、それに私は深窓の姫君じゃないよ。私は男だ。自分の身も守れるし、私はオメガだけど、コウ、君の事も守りたいんだ。それに私はきっと、コウの役に立てると思うよ」

 (ありがとうじゃないって……えっ?ちょっと待て……俺を……守るだと?)

 コウは一瞬、その言葉に動揺した。
 そんな事を言うのは、死んだ母とジョーンズ位だろうから…
 それに、そう言ったアキ王子の目が、とても優しく見えたから。
 でもコウは、アキ王子と結婚は出来ないし、アキ王子をハイリゲンに連れていく気もサラサラ無い。
 そして、ある疑問が頭に湧いた。

 「アキ様の父上は、国王陛下は、この事をお許しになったのですか?」

 どう考えても、いくらコウかアルフレイン公の息子でも、国王がすんなり結婚に賛成するとは思えない。

 「ああ……その事か…」

 アキ王子の表情が曇った。しかし、すぐに王子は明るい笑顔で、何でも無い事のようにサラッと言った。

 「父上は、私がコウと結婚する事に反対されたんだ。だから、私は家出してきたんだ。アレ?家出じゃないか?城出かな?」

 呑気に小首を傾げるアキ王子に、コウはドン引きした。

 

 



 
 

 
 

 

 

 
 

 
 







 



 
 
  
 
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