シングルファミリー

みゃー

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 泰成は、敬と琴葉をマンションの室内の客室に通した。

 「で……お母さんのご容態はどうなんですか?」

 泰成は、部屋の入り口に近い柔らかく高級そうなベージュのソファに座り、低いテーブルを挟んだ、向かいの同じ型、同じ色のソファに座る敬を見て尋ねた。
 敬の横には、幼い琴葉が敬にピッタリ引っ付き座りながら、恐る恐ると言う感じで泰成を見詰めている。
 敬は、こんないいソファに座る生まれて初めての経験にも、10歳年上の泰成の敬語にも居心地の悪さを感じつつ答えた。

 「はい。最近腎臓の調子が悪くて、三日後に検査入院で、結果がすぐ出るので良ければ母はその日帰宅しますし、母が帰れば琴葉も実家にすぐ戻します」

 泰成は、ここでようやく琴葉を見た。
 すると琴葉は、跳ねた魚くらい体を思いっきりビクっとさせて泰成から視線を逸らし敬の右腕に顔を埋めた。
 泰成は、こう言う時、自分の父親を憎みながら自分も父親に似て冷たい人間だとつくづく思ってしまう。
 さっき一瞬だけ、ただ思い出しただけの昔の事だが、泰成も子供の頃は拾った捨て犬を大切にしたいと思うような所もあったが、今はもうそんな感情すら無いと自覚している。
 泰成の心の中は、常に黒くて冷たい水が止めどなくコンコンと底から湧き出ている。
 そして、毎日の溢れ返る仕事とビジネス上の過酷な人間関係に忙殺されて、その冷たい水を止める術は無い。
 泰成は、父親と同じで子供が大の苦手だし元々子供に興味が全く無い。
 そして、未だに自分が何故敬を預かる勝負を父親と始めたか釈然としないが、しかし、琴葉に害を加えるつもりもないし、表面上だけでも琴葉に出来る事はするつもりだった。
 しかしそれは、あくまで敬のやる気次第でもあったが。
 琴葉の態度は子供特有のあからさまだったが、泰成はスルーして本題に戻ろうとする。しかし、その前にする事があった。

 「これからどうするか、私と敬さん2人で真剣に話す必要があります。丁度たまたま、今ここに来てるハウスキーパーは以前保育士をしてました。彼女に妹さんを預けて隣の部屋で遊ばせて下さい」

 泰成が淡々とそう言うと、敬は困ったような表情になり、泰成から視線を妹に向けると言った。

 「すいません……妹は、その方にご迷惑をかけるかも知れません。妹は、人見知りが激しくて…」

 途端に、泰成の声が、落ち着いている中に厳しさが混じった。

 「敬さん……自分のビジネスでも自分がマンションを買う時でもなんでもいいですが、自分の人生を左右する大きな交渉をする時に、自分の交渉相手が話しに集中しない、出来ない状況でどうして交渉相手と真剣に話しができますか?そんな交渉相手を、敬さん、あなたなら信用できますか?」

 泰成は、とても冷静なのに威圧的だった。
 しかし、泰成の言ってる事は考えると的を得ていたので、敬は反論できなかった。

 「分かりました」
 
 すると、客室のドアが3回ノックされた。
 
 「どうぞ…」

 泰成が静かにそう言うと、美人ハウスキーパーが敬のコーヒーと琴葉のオレンジジュースをトレイに乗せて入って来て、それぞれの前に置いた。
 しかし、ここで泰成は、敬がハウスキーパーの多田にどんな視線を向けるかが何故かとても気になった。
 そこで何故気になるのか?泰成が出した答えは…
 ごく普通の男でも、多田程の美人になら目を奪われるか、ソワソワするか色目を向けるのが普通であるが、敬と言う人間がどんな男か知るちょっとした判断基準になるからだという事だったが、泰成自身の気持ちなのにその答えが正しいか定かでなかった。
 しかし、敬は、一度多田の顔を普通に見ると「ありがとうございます」と頭を下げて言って、その後も落ち着いて多田に一瞬でも卑下た視線を向ける事はなかった。
 泰成は、敬の態度に意外だな…と思いつつ、多田を見ると話しを前にもって行った。
 
 「多田さん。あなたは確か前職は保育士でしたよね。俺はこれから敬さんと話しがあるので、その間だけ敬さんの妹さんをあなたに預けるので、隣の空き部屋で面倒を見て頂けますか?短時間ですが見て頂けるなら、今日の日当を2倍にします。彼女は琴葉さんです」

 今日にも辞めさせようとしていた代わりなどいくらでもいるハウスキーパーが、捨てようとしていたものがこんな所で役に立つかも知れないとは…世の中いつ何があるか分からないものだと、泰成は内心思う。

 「ハイ。承知いたしました。じゃあ……私とお隣の部屋へ行き遊びましょうか?琴葉さん」

 多田はそう言うと、琴葉の座るすぐ横で絨毯に両膝を着き琴葉と視線を合わせた。
 琴葉は、多田の顔をかなり眉を顰めて見た後、横に座る兄の顔を心細そうに泣きそうに見上げた。

 「大丈夫。にいにはすぐ横の部屋にいるから。それに、琴葉が保育園に行ってる時もどんなに離れてても、琴葉に何かあればにいにはいつもすぐに琴葉の所に行くだろ?大丈夫だよ……いつもそうだろ?」

 敬は、琴葉を優しくなだめながら彼女の長い髪を撫でた。
 写真の中の黙っていれば限り無く冷たく見えた敬が、今はとても柔らかく見えて、泰成は不思議だと思ったと同時にしばらくじっと眺めた。

 「では、琴葉をお願いします。この中に、琴葉の好きな絵本と塗り絵と画用紙とクレヨンとお菓子も水筒に麦茶も入っています。後、妹は甲殻類のアレルギーがあって。そこもよろしくお願いします」

 敬はそう多田に告げ、敬が持って来たかわいいウサギのキャラクターの付いた琴葉のかばんを多田に引き渡した。
 琴葉は、敬を何度も今にも泣きそうに振り返りながら多田に手を引かれて客室を出た。
 
 「あの……そちらとこちらで話しの行き違いがあったにせよ琴葉がご迷惑だと思うので、一度僕も琴葉と一緒に実家に戻って、母の状況を見て出直してきます」

 敬と泰成だけの静かな客室。
 琴葉の様子もそうだが、泰成の態度に、
やはり敬はいたたまれなくなり自分からそう提案した。
 しかし、泰成は怖い位に冷静に返した。

 「敬さん。俺があなたについていられるのは1年限りです。この1年で、あなたは大学に入りその上で良家の女性とも婚約もしてもらわないとならない。俺もあなたにも時間はありません。あなたが本気でやる気があるなら、もう事はスタートしてるので前向きにいくべきではないですか?それに、妹さんの事もお母さんの事も、それを俺がサポートする気になるかならないかは、全て敬さん、あなたの行動次第です。あなたの行動を俺に示して見せて下さい」

 泰成は、琴葉に表面上出来る事はしようとしながらも、敬の妹と母と言う突発的に出来たいわば泰成にとってお荷物を、逆転の発想で逆手に取ってに上手く利用しようともしていた。
 何かあった時には、妹と母は、紛れもなく敬を従順に動かせられる使い勝手の良いツールの一つなのだ。
 しかし、こう言う所も父親とよく似ていると泰成は心の中で自分を嗤った。
 敬の方は、この瞬間、泰成に琴葉と母を人質に取られなどとは思っても無かったが、実質的には紛れも無い人質だった。
 そしてもう敬は、次期社長のレールに乗るという勝負に片足を入れていたし、そこからそれを引っ込めない雰囲気になっていた。

 「はい…」

 敬は静かに答えると、泰成を真っすぐ見詰めた。
 敬の瞳は、とても実直に見えた。
 すると泰成は、敬と目が合うとその視線からすぐにサッと目を背けた。
 そして、どうしてこんな男が、あの父親と泰成のゲームのコマをしているのかと一瞬考えたが、ゲームはもう始まったのだ。
 今の日本、会社の後継を血の繫がりの無い者に譲るトップも多いが、泰成の会社の殆どの従業員は、会社内で後継者を巡り会長と社長がこんな馬鹿らしいゲームを始めたとは知らないだろう。
 泰成は、さっきからテーブルに置いてあった自分のタブレットを手に取ると話しを続けた。

 「敬さん。俺があなたと同居してあなたを指導するにあたり作った契約書ですが、あなたにもタブレットを渡していて同じ契約書が届いているはずですが、ちゃんと全て読まれましたよね。そして、この前俺の秘書が電話で連絡した通りタブレット持って来ましたか?」

 「はい」

 敬は、自分の斜め掛けバックからそれを取り出し、早速届いていた契約書を開いた。
 しかし、その契約内容は、敬には厳しい物ばかりだった。
 主な契約内容は、敬は、土日を除く1週間は、朝は高卒認定試験用、昼からは大学受験用の予備校に通う。しかも、敬には誰か見張りの男性が1日中付けられ、その男性が予備校の送り迎えも車でする。
 そして、土日も用の無い限り1日このマンションで休息か自習。外出は必ず泰成の許可がいり、特別の事の無い限りやはり見張りの男性が付くという物だった。
 更に、このマンションには多くのハウスキーパーが出入りしているので、泰成の部屋と敬の部屋、バスとトイレ以外は全ての部屋に防犯カメラがありると言うのだ。
 これから1年、敬にはほぼプライベートが無い。
 しかし、そこには、たった1年で集中して事をなさないとならないという泰成と敬の事情があり、遊びたい盛りだろう年齢の敬には、優秀な男子校の寮並みのそれ位の縛りがいると言う泰成の判断があった。

 「契約書の中に、契約時に口上で説明補足する部分ありと言う条件があったでしょう。今からその部分を説明します。契約サインはそれに納得してからと言う事になります」

 そう言いつつ、泰成は指で画面をペラペラめくりとあるページのある箇所に目をやった。

 「敬さん、もう知ってると思いますが10ページです」

 「はい…」

 敬も、ペラペラとそれを指でめくりそれを見る。
 しかしそれは、敬もすでに読んではいたが、著しくプライベートな事だった。
  そこに書いていたのは、今回のこの契約に当たり、敬は、付き合っている異性、或いは同性がいた場合には必ず別れると言う事と、それ以降、婚約が決まるまではいかなる相手とも恋愛をしたり付き合わないというものだった。
 この条件に別途口上で説明が有るのだ。

 「敬さん、お付き合いしてた人がいたなら、もうきっちり別れてくれてますよね?」

 泰成が聞くと、敬は、ほんの少しだが恥ずかしそうに視線を下にしてボソっと答えた。

 「付き合ってた人なんていません」

 正直、敬から見た泰成は、クールで大人の男の色気が出まくっている。
 そして敬は、見た目恋愛経験と性経験の豊富そうな泰成を目の前にして、同じ男のプライドから何も経験した事が無いと言うのは恥ずかしかった。しかも、もう敬も20歳にもなっているのに。
 しかし、泰成が性経験が多そうに見えると言う敬の予想は、ある意味では当たっていると言っていい。
 泰成は、子供の頃に巻き込まれた事件で年頃になっても性的にあそこを立てる事が無く、しかし何とかしたくて、泰成を誘ってきた特上の美女や時にはイケメンと何度も過去に試しにベッド・インした。
 そして、くたりとした相手に挿入前の泰成のあそこに濃厚な前戯を何度もしてもらったが、やはりダメだった。
 しかし、普通、ベッド・インした相手が
あそこを立てなければ大抵相手は怒るはずだが、泰成の相手をした者全てが、泰成の体の事情も知らぬまま、自分では泰成程のイケメンは満足させられなかったと、逆に泰成に謝ったり、落ちこんで帰って行った。
 
 「ふうん……そうですか…」

 泰成は、タブレットに視線を向けつつ何気に言ったが、実は、敬の身辺調査をした時にそれはすでに知っていた。
 そればかりか最近だけでなく、敬に生まれて20歳まで誰かと付きあった形跡が無いのも知っていた。
 さっきの質問はただ単に、やはり泰成が直に聞いて確認しなければならなかっただけだが、20歳の男ともなると男の見栄で、敬はいくら実直に見えても、付き合っていた女とは別れたと言うつまらない嘘くらいは絶対に言う男だと泰成は思っていたが、敬はただただそれにさえ正直で、泰成が敬にいだいていた人物像とは又相違していた。

 
 
 


 





 


 

 

 

 


 



 
 

 
 


 


 


 

 

 

 

 
 

  

  
 

 
 
  
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感想 1

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みんなの感想(1件)

とら
2025.06.12 とら

今日はじめてこちらのサイトに来て読みふけってます(幸せ)😃💕 新しいお話も、他のサイトで読みたかったエロロなお話も読めて、本当に幸せです!

2025.06.12 みゃー

とら様、お読み下さり、感想もありがとうございます!
めちゃくちゃうれしいです!
やる気が出ます!

本気の恋愛だからこそエッチは重要だと、みゃー思うんですが(必死)
本当は、みゃー、そう言うシーンが書きたいです!
でも、投稿サイト各社により、エッチなシーンがダメな会社もありますよね。

でも、アルファポリス様は許容範囲が広いので、これからもエッチなシーンも頑張って書いてまいります!

これからもどうかよろしくお願いします!




解除

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