インフィニット ウィンター  

みゃー

文字の大きさ
1 / 10

1

しおりを挟む

 秋になっても暖かい日の続いた東京も、12月に入り急に寒くなった。
 夜になり、街には定例の綺羅びやかなクリスマスイルミネーションがいたる所で輝く。
 
 しかし、大学生、天野空也の気持ちは最悪で、今、人々の行き交う、イルミネーションに彩られた街中を一人走っていた。

 空也は、日本でも有名な大手医療機器メーカー「AMANO」の創始者の孫息子だった。
 小さな頃から富裕一族の子供として、衣食住一切何の苦労もしなかった。
 しかし、空也には、ただ一つ、
大きな使命があった。
   
 実は「AMANO」は、創始者、空也の祖父の代に一度倒産しかけたが、この時祖父がとある異世界の神と夢で契約した事により会社はみるみる蘇り、今や日本を代表する大企業になっていた。
 
 祖父が「AMANO」の再建と引き換えに異世界の神としたたった一つの約束は、祖父の今度産まれる孫が男で、その男が18歳になった時には異世界の神と結婚して異世界で暮らす事。
 
 その孫が空也で、空也は産まれた瞬間から異世界の神の許婚。
 
 そして、生活に苦労は無かったが、自由は無かった。
 
 屋敷の中でも、空也の通う学校の壁の外にもいつも多くの筋肉隆々の空也を監視し守る護衛がいた。
 
 それでも空也は、これも全て、祖父や祖母、父や母や二つ年下の弟が幸せに暮らす為、会社やその何千人の従業員の生活の為と我慢してきた。
 
 しかし、遂に空也が18歳になる誕生日が近づき、それは、初めて会う異世界の神様とその場で結婚する日が近いと言う事だった。

 (ラノベなら、普通主人公は無理矢理会った事無い人外と結婚させられても、いずれ相思相愛になるんだよな……でも、僕はどうなるんだろう…)

 空也は、勿論異世界の神様への尊崇や感謝の気持ちはあった。
 
 しかし、結婚と言う現実が近づけば近づく程、結婚への酷い不安と疑問に苛まれるようになってきた。

 そして、空也は今日の日曜日、その結婚の為の衣装合わせに銀座の老舗呉服店に昼過ぎから行っていた。
 
 どんな結婚衣装を着せられるのかと思いきや、空也が着せられたのは、呉服店なのにまるで古代の中国から出て来たような、古代中国の王族のような真っ白な絹の極上の長衣。
 そして何故か、頭に黒の腰までの長髪のウィッグを付けられ、その頭の頂きに本物の金をふんだんにに使った冠を載せられた。
 
 しかし、この時、その長衣と冠を付けた自分を大きな鏡で見た空也は、心の中で何かがキレた。
 
 空也は、衣装合わせが無事とどこおり無く終わり、結婚衣装を脱ぎ自分の着てきた服に着替えると、衣装合わせで手薄になっていた警護の隙を付き、上着を着る事も無く一人で寒い夜の街に飛び出し走った。
 
 まるで、結婚から逃げるように。
 逃げたいように…
 
 この科学の発展した今の東京で、誰が空也の非現実的な状況を想像するだろう。

 (どうして、僕は今走ってるんだ?折角、小さな頃から今日までずっと、ずっと我慢してきたのに……こんな事しても、何の解決にもならないのに…)

 空也は、カップルや日曜日でも仕事帰りの人々の中を走りながらずっとそう考えたが……
 
 答えは見つからない。
 そして、空也の足は止まらない。
 
 しかし…
 
 ひときわ、街路樹や並ぶ店々のクリスマスのイルミネーションが煌めく通り。
 
 「あっ!ごめんなさい!」

 空也は、前を歩いていた長身の男を追い越そうとして、たまたまアスファルトがわずかな盛り上がっていてそれにつまずき、その長身の男の右腕にぶつかった。
 
 空也は振り返り頭を下げた。

 「…」

 長身の男は、無言で空也を見詰めてきた。

 (げっ……凄い、イケメン…)

 空也は、長身の男を見てその美貌に固まった。

 長身の男は、目鼻立ちのハッキリして、目付きの鋭い男前で、黒髮も短く今風に整っていて、あまりに何もかも完璧で、一瞬空也は、彼が芸能人かも知れないと思った程だ。
 見るからに上等な黒のスーツに黒のロングコートを羽織り、空也より5歳年上位の社会人にも見える。
 そして、絵でいつも見る空也の婚約者の神様も確かにイケメンだが、雰囲気は対極に見えた。
 空也の婚約者の神様は、穏やかで優しい見た目。
 それに対する今目の前にいる長身の男は、いかにもクールで威圧的な一匹狼的な匂いがした。
 
 「…」

 長身の男は、しばらく空也を見た後、更にキレイな両目を眇めて黙って空也をじっと見てくる。

 (げっ!怒らせた?!)

 空也は焦ったが、長身の男はまだ空也を見詰めたまま静かに言った。

 「いや……大丈夫…」

 長身の男の声は低くてクールで、本当に素っ気無い感じ。
 
 しかし、空也は、その声に何故が一瞬ハッとなり、胸をドキっとさせた。
 
 確かに一度も聞いた事の無い声なのに、何故か凄く懐かしくて空也の凄く好きな声質。
 
 しかし、護衛が空也を探しているだろうし、空也は頭をもう一度長身の男に向かい下げると、又人々の中を走り出した。
 
 しかし、長身の男はその場に立ったまま、遠ざかる空也の背中をずっとしばらく見た。
 そしてその後も、空也の行った方向をずっと見詰めた。
 

 

 


 

 

 

 



 



 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...