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混乱3
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「止めろ!」
今は葵のような男が、その禍々しい自分の手を、握っていた至から思いっ切り取り上げた。
だが、その手の黒紫のそれは、まだまるで生命であるかのように這いずるように動き回る。
至は、とても現実と思えず、ただ愕然とその様子を見ていたが…
そうしている内に葵らしい男が、至を悲しそうな、寂しそうな顔で見ているのに気付く。
名を呼べば、又自分は僚だと言われるかも知れなかったが、呼ばずにいられなかった。
「あっ…葵…」
「至…俺の事…気持ち悪いだろう?こんな…こんな手をした俺は…」
至はその弱々しい言葉に恐怖を一瞬忘れ、葵らしい男のその左手を握ろうとした。
しかし…
その手はすっと、男の背中に隠された。
「触るな…触ったらダメだ……」
「どっ…どうして?どうしてだ?
葵!」
「ごめん…僚のクソバカが言った事の責任は持つけど、これから見る事は、至、お前の中だけで留めて、俺の事と一緒にすぐ忘れてくれ…」
そう言い葵のような男は、不意にその左手で、開けっ放しにしていた玄関ドアに触れ両目を閉じた。
何をしているのか分からなくて、でも、声を掛ける雰囲気でも無くて…
数分が経った。
すると急に、葵のような男の目が開き呟いた。
「確かに…確かに、さっき女の人が二人、この家に入って行った…」
「えっ?何で、何でそんな事分かんの?」
至が眉間に皺を寄せると、葵のような男は一瞬言葉に詰まったが…
やがて、意を決したように話し出した。
「至…信じられないだろうが、聞いてくれ…俺は、人の記憶や物の記憶、残留思念が分かるんだ…この…この左手を当てれば…」
「…」
至は、表情が固まった。
「だよな…普通は、みんなそう言う反応するよ。俺の両親ですらそうだ…でも、この中に、間違いなくお前の探しているらしい人達はいるよ…」
酷く寂し気に、男は笑う。
さっきの自分を僚だと言って言っていた時とは、180度違った。
「で、でも…残留思念って…何?」
至は、恐る恐る聞いた。
男は、深い溜め息を一つ着いたが、至の目を見て話し出した。
「至…今から話す話しは実話だ…
昭和の始め、ある北陸の村で、一人の男が深い恨みから気が狂い、村人を全員殺したんだ…」
「…」
「それは余りに惨たらしいもので、村はすぐに閉鎖され、地図からも名は消えて、殺された村人達の家も潰されその木材は全て焼いて処分されるはずだったんだ…だけど…木材の幾つかが…別の土地で新しく何軒か家を建てるのに横流しされたんだ…すると…その完成したいくつかの家に人が住み出すと、毎晩、毎晩…人の狂ったような笑い声や、男女の苦しそうな叫び声や呻き声が聞こえ出した…」
「…」
「信じられないだろうけど…物にも記憶と言うか思念が残るんだ…物があった時の回りの状況、回りにいた人間の。そしてそれは…当然新しい程よく残っているけど、残らない事もあるし、古くても、喜び、憎しみ、苦しみ…想いが深ければ深いほど強く強く長く残る…それが、残留思念だ…」
ここまで聞いても至は口を開けたまま、よく理解する事が出来なかった。
今は葵のような男が、その禍々しい自分の手を、握っていた至から思いっ切り取り上げた。
だが、その手の黒紫のそれは、まだまるで生命であるかのように這いずるように動き回る。
至は、とても現実と思えず、ただ愕然とその様子を見ていたが…
そうしている内に葵らしい男が、至を悲しそうな、寂しそうな顔で見ているのに気付く。
名を呼べば、又自分は僚だと言われるかも知れなかったが、呼ばずにいられなかった。
「あっ…葵…」
「至…俺の事…気持ち悪いだろう?こんな…こんな手をした俺は…」
至はその弱々しい言葉に恐怖を一瞬忘れ、葵らしい男のその左手を握ろうとした。
しかし…
その手はすっと、男の背中に隠された。
「触るな…触ったらダメだ……」
「どっ…どうして?どうしてだ?
葵!」
「ごめん…僚のクソバカが言った事の責任は持つけど、これから見る事は、至、お前の中だけで留めて、俺の事と一緒にすぐ忘れてくれ…」
そう言い葵のような男は、不意にその左手で、開けっ放しにしていた玄関ドアに触れ両目を閉じた。
何をしているのか分からなくて、でも、声を掛ける雰囲気でも無くて…
数分が経った。
すると急に、葵のような男の目が開き呟いた。
「確かに…確かに、さっき女の人が二人、この家に入って行った…」
「えっ?何で、何でそんな事分かんの?」
至が眉間に皺を寄せると、葵のような男は一瞬言葉に詰まったが…
やがて、意を決したように話し出した。
「至…信じられないだろうが、聞いてくれ…俺は、人の記憶や物の記憶、残留思念が分かるんだ…この…この左手を当てれば…」
「…」
至は、表情が固まった。
「だよな…普通は、みんなそう言う反応するよ。俺の両親ですらそうだ…でも、この中に、間違いなくお前の探しているらしい人達はいるよ…」
酷く寂し気に、男は笑う。
さっきの自分を僚だと言って言っていた時とは、180度違った。
「で、でも…残留思念って…何?」
至は、恐る恐る聞いた。
男は、深い溜め息を一つ着いたが、至の目を見て話し出した。
「至…今から話す話しは実話だ…
昭和の始め、ある北陸の村で、一人の男が深い恨みから気が狂い、村人を全員殺したんだ…」
「…」
「それは余りに惨たらしいもので、村はすぐに閉鎖され、地図からも名は消えて、殺された村人達の家も潰されその木材は全て焼いて処分されるはずだったんだ…だけど…木材の幾つかが…別の土地で新しく何軒か家を建てるのに横流しされたんだ…すると…その完成したいくつかの家に人が住み出すと、毎晩、毎晩…人の狂ったような笑い声や、男女の苦しそうな叫び声や呻き声が聞こえ出した…」
「…」
「信じられないだろうけど…物にも記憶と言うか思念が残るんだ…物があった時の回りの状況、回りにいた人間の。そしてそれは…当然新しい程よく残っているけど、残らない事もあるし、古くても、喜び、憎しみ、苦しみ…想いが深ければ深いほど強く強く長く残る…それが、残留思念だ…」
ここまで聞いても至は口を開けたまま、よく理解する事が出来なかった。
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