8 / 13
混乱3
しおりを挟む
「止めろ!」
今は葵のような男が、その禍々しい自分の手を、握っていた至から思いっ切り取り上げた。
だが、その手の黒紫のそれは、まだまるで生命であるかのように這いずるように動き回る。
至は、とても現実と思えず、ただ愕然とその様子を見ていたが…
そうしている内に葵らしい男が、至を悲しそうな、寂しそうな顔で見ているのに気付く。
名を呼べば、又自分は僚だと言われるかも知れなかったが、呼ばずにいられなかった。
「あっ…葵…」
「至…俺の事…気持ち悪いだろう?こんな…こんな手をした俺は…」
至はその弱々しい言葉に恐怖を一瞬忘れ、葵らしい男のその左手を握ろうとした。
しかし…
その手はすっと、男の背中に隠された。
「触るな…触ったらダメだ……」
「どっ…どうして?どうしてだ?
葵!」
「ごめん…僚のクソバカが言った事の責任は持つけど、これから見る事は、至、お前の中だけで留めて、俺の事と一緒にすぐ忘れてくれ…」
そう言い葵のような男は、不意にその左手で、開けっ放しにしていた玄関ドアに触れ両目を閉じた。
何をしているのか分からなくて、でも、声を掛ける雰囲気でも無くて…
数分が経った。
すると急に、葵のような男の目が開き呟いた。
「確かに…確かに、さっき女の人が二人、この家に入って行った…」
「えっ?何で、何でそんな事分かんの?」
至が眉間に皺を寄せると、葵のような男は一瞬言葉に詰まったが…
やがて、意を決したように話し出した。
「至…信じられないだろうが、聞いてくれ…俺は、人の記憶や物の記憶、残留思念が分かるんだ…この…この左手を当てれば…」
「…」
至は、表情が固まった。
「だよな…普通は、みんなそう言う反応するよ。俺の両親ですらそうだ…でも、この中に、間違いなくお前の探しているらしい人達はいるよ…」
酷く寂し気に、男は笑う。
さっきの自分を僚だと言って言っていた時とは、180度違った。
「で、でも…残留思念って…何?」
至は、恐る恐る聞いた。
男は、深い溜め息を一つ着いたが、至の目を見て話し出した。
「至…今から話す話しは実話だ…
昭和の始め、ある北陸の村で、一人の男が深い恨みから気が狂い、村人を全員殺したんだ…」
「…」
「それは余りに惨たらしいもので、村はすぐに閉鎖され、地図からも名は消えて、殺された村人達の家も潰されその木材は全て焼いて処分されるはずだったんだ…だけど…木材の幾つかが…別の土地で新しく何軒か家を建てるのに横流しされたんだ…すると…その完成したいくつかの家に人が住み出すと、毎晩、毎晩…人の狂ったような笑い声や、男女の苦しそうな叫び声や呻き声が聞こえ出した…」
「…」
「信じられないだろうけど…物にも記憶と言うか思念が残るんだ…物があった時の回りの状況、回りにいた人間の。そしてそれは…当然新しい程よく残っているけど、残らない事もあるし、古くても、喜び、憎しみ、苦しみ…想いが深ければ深いほど強く強く長く残る…それが、残留思念だ…」
ここまで聞いても至は口を開けたまま、よく理解する事が出来なかった。
今は葵のような男が、その禍々しい自分の手を、握っていた至から思いっ切り取り上げた。
だが、その手の黒紫のそれは、まだまるで生命であるかのように這いずるように動き回る。
至は、とても現実と思えず、ただ愕然とその様子を見ていたが…
そうしている内に葵らしい男が、至を悲しそうな、寂しそうな顔で見ているのに気付く。
名を呼べば、又自分は僚だと言われるかも知れなかったが、呼ばずにいられなかった。
「あっ…葵…」
「至…俺の事…気持ち悪いだろう?こんな…こんな手をした俺は…」
至はその弱々しい言葉に恐怖を一瞬忘れ、葵らしい男のその左手を握ろうとした。
しかし…
その手はすっと、男の背中に隠された。
「触るな…触ったらダメだ……」
「どっ…どうして?どうしてだ?
葵!」
「ごめん…僚のクソバカが言った事の責任は持つけど、これから見る事は、至、お前の中だけで留めて、俺の事と一緒にすぐ忘れてくれ…」
そう言い葵のような男は、不意にその左手で、開けっ放しにしていた玄関ドアに触れ両目を閉じた。
何をしているのか分からなくて、でも、声を掛ける雰囲気でも無くて…
数分が経った。
すると急に、葵のような男の目が開き呟いた。
「確かに…確かに、さっき女の人が二人、この家に入って行った…」
「えっ?何で、何でそんな事分かんの?」
至が眉間に皺を寄せると、葵のような男は一瞬言葉に詰まったが…
やがて、意を決したように話し出した。
「至…信じられないだろうが、聞いてくれ…俺は、人の記憶や物の記憶、残留思念が分かるんだ…この…この左手を当てれば…」
「…」
至は、表情が固まった。
「だよな…普通は、みんなそう言う反応するよ。俺の両親ですらそうだ…でも、この中に、間違いなくお前の探しているらしい人達はいるよ…」
酷く寂し気に、男は笑う。
さっきの自分を僚だと言って言っていた時とは、180度違った。
「で、でも…残留思念って…何?」
至は、恐る恐る聞いた。
男は、深い溜め息を一つ着いたが、至の目を見て話し出した。
「至…今から話す話しは実話だ…
昭和の始め、ある北陸の村で、一人の男が深い恨みから気が狂い、村人を全員殺したんだ…」
「…」
「それは余りに惨たらしいもので、村はすぐに閉鎖され、地図からも名は消えて、殺された村人達の家も潰されその木材は全て焼いて処分されるはずだったんだ…だけど…木材の幾つかが…別の土地で新しく何軒か家を建てるのに横流しされたんだ…すると…その完成したいくつかの家に人が住み出すと、毎晩、毎晩…人の狂ったような笑い声や、男女の苦しそうな叫び声や呻き声が聞こえ出した…」
「…」
「信じられないだろうけど…物にも記憶と言うか思念が残るんだ…物があった時の回りの状況、回りにいた人間の。そしてそれは…当然新しい程よく残っているけど、残らない事もあるし、古くても、喜び、憎しみ、苦しみ…想いが深ければ深いほど強く強く長く残る…それが、残留思念だ…」
ここまで聞いても至は口を開けたまま、よく理解する事が出来なかった。
1
あなたにおすすめの小説
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。
ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。
彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。
婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。
そして迎えた学園卒業パーティー。
ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。
ガッツポーズを決めるリリアンヌ。
そのままアレックスに飛び込むかと思いきや――
彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる