深淵の幼なじみ

みゃー

文字の大きさ
9 / 13

階段の前

しおりを挟む
「え?」

至は、今いる荒れ果てた廃別荘にそぐわない間抜けな声を出す。

本当に、理解しがたかったから。

葵が告げた真実で、出来た緊迫した雰囲気も飛んだ。

「えっ…」

至にすぐ分かって貰えたと思いこんでた葵も、直立不動で戸惑う。

しかし…

「あっ、えーっとそうだなぁ…残留思念っていうのは…もっと至に分かり易く噛み砕いて言うと…」

葵は、右手を口元に当てて下を見て、余りオカルトに理解力の無い至の為に優しく真剣に悩む。

するとクスっと、至が笑う。

葵は、怪訝そうに視線を至に向けた。

「あっ…いや…ゴメン…葵って、やっぱ優しいなぁって…4年ぶりに会ったけど変わってなくて、俺ちょっと安心した…」

至がニコニコすると、葵は、何だかバツが悪そうに、まるで照れているように視線を横に向けた。

しかし、至には分からん事だらけだし、葵には、さっきは僚の真似をしていたのか?他にも聞きたい事が山のようにあったので…

兎に角、本当に女性達がこの建物にいるなら先に助ける事にして…

葵とは、後でゆっくり一緒に話しをしようと思った。

「よく、分かんないけど、女の人達、ここにいるんだよな?」

至は、ミシッと足音をさせ一歩前へ出た。

しかし…

そこを、又葵が至の左腕を持って止めた。

「ちょっと…待ちやがれ!」

その葵らしからぬ言い方に、至は変な予感に戦慄して、恐る恐る振り返った。

そして、至のそれは正しかった。

葵は一変、又、僚のような目付き、表情になっていた。

「おっ…お前って、今もしかして僚?」

至が呟くと、僚のような葵はニッと笑った。

「よく分かってんじゃん!さっすが至!」

葵の体が、至を抱き締めた。

強く…

「やっぱ、お前だけは…お前だけは、俺達が分かるな…」

「俺…達?」

至は体を離し、僚のような葵の顔を見た。

「そう…俺達だ…」

僚は、死んだはずだ…

もう、葵しかいないはずだ…

至は、言ってる事が又訳が分からなくて…

真実かどうかも分からなくて…

ぼーっと見続ける。

そこに、僚のような葵が突然呟き、目の前の広い階段下を指さした。

「至…おばちゃん達を助けに行くのはいいが…その前に、あの階段の前に女がいるの分かってないだろ?」

「女?」

階段の前には、誰もいない。

ただ、上の方の窓から光が差して、その光に埃の細かい粒子が舞っているのしか見えない。

「何?女なんて…見えないよ…もっ、もう止めろよ…そんな事言うの…本当に俺ダメだから」

「それがいるんだよ。黄色のワンピースを着てる」

だが、何度見ても、至るには見えない。

そして、少しヤケになってしまい聞いてみた。

「じゃ、その幽霊、幾つ位の人?かわいい?美人?」

それを聞き僚のような葵は、何を思ったのか?チラっと至を冷めた目で見た。

「お前、そこが気になるわけ?」

「おっ、おお…」

至が引き気味に答えると、僚のような葵は、又ニッと笑った。

「そうだな…若くて、すんげー美人」

「えっ?えっ?本当に?そんなに美人?そんなに?」

単純な至は思わずめちゃくちゃ食いつくと、僚のような葵は不機嫌そうになり言った。

「なら…見てみるか?その美人…」

「え?」

「見せてやるよ…お前に…」

僚のような葵は、あの黒紫色の渦模様のある左手を、今度は至の頭上にポンと置いた。

すると…

至の目の前に…

黄色のワンピースを着た、サラサラのキレイな長い黒髪の…

顔から全身、ガイ骨の女がいた。



































しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~

馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」 入社した会社の社長に 息子と結婚するように言われて 「ま、なぶくん……」 指示された家で出迎えてくれたのは ずっとずっと好きだった初恋相手だった。 ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ ちょっぴり照れ屋な新人保険師 鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno- × 俺様なイケメン副社長 遊佐 学 -Manabu Yusa- ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 「これからよろくね、ちとせ」 ずっと人生を諦めてたちとせにとって これは好きな人と幸せになれる 大大大チャンス到来! 「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」 この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。 「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」 自分の立場しか考えてなくて いつだってそこに愛はないんだと 覚悟して臨んだ結婚生活 「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」 「あいつと仲良くするのはやめろ」 「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」 好きじゃないって言うくせに いつだって、強引で、惑わせてくる。 「かわいい、ちとせ」 溺れる日はすぐそこかもしれない ◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌ 俺様なイケメン副社長と そんな彼がずっとすきなウブな女の子 愛が本物になる日は……

処理中です...