お見合いから本気の恋をしてもいいですか

濘-NEI-

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8.家でビール①

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 千颯くんが買ってきたビールを飲みながら夕食を済ませると、時間はそろそろ二十一時半になりそうだった。
「泊まるのはいいとして、シングルベッドじゃ狭すぎるし客用のお布団敷こうか」
「そうだね。俺の身長じゃ、このベッドはちょっとキツいかもしれない」
「だよね。じゃあ片付けたらお布団敷こうね」
「あ、洗い物は俺がするよ」
「いいよ。うちキッチンも狭いし」
「それぐらいするよ。突然泊まりに来て、大変だったでしょ。ご飯めっちゃ美味かった」
「ありがとう。じゃあお願いするね」
 千颯くんに片付けを任せると、テーブルを端に寄せて壁に立てかけてスペースを作り、クローゼットから取り出した客用の布団を広げてシーツをつける。
(この前干しといて良かった)
 うちに泊まりに来るなんて、大抵は母くらいのものだし、慎次郎と付き合っていた頃は彼が泊まりに来ることなんて滅多になかった。
「二年半も付き合ってたのにな……」
 なんとなくそんな独り言が口をく。
 そもそも千颯くんとは付き合ってまだ一日そこらしか経っていない。色んなことが起こりすぎて感覚が麻痺しているけれど、付き合ってすぐ泊まりに来るなんて妙な話だ。
 偶然出会って惹かれた相手ではあるけれど、お互いの幼い頃を知っている幼馴染みでもあるのは、なんだか不思議な感覚だ。
「ねえスズ、これここの布巾で拭いちゃっていいの」
 千颯くんに声をかけられて我に返る。
「そこまでしなくていいよ。あとは私がやるから」
 手狭なキッチンスペースに食器棚も置いてはいるけれど、私じゃないと戻す場所までは分からないだろうし、それをわざわざ指示してやってもらうほどではない。
 立ち上がってキッチンに向かうと、千颯くんと交代して後片付けを引き継ぎ、彼には寝る支度をしてもらう。
「歯ブラシ買った? ないなら洗面台の下に新しいのがあるから使って」
「ありがとう。すっかり忘れてたわ」
「あとで洗濯機回すから、洗う物は気を遣わずに放り込んでね。あ、歯磨きするのにタオルも要るよね。ちょっと待ってね」
 バタバタと部屋とキッチンを往復すると、そんな私を見て千颯くんがなんだか嬉しそうな顔をする。
「なに。どうしたの、ちぃちゃん」
「いや、なんか可愛いなって」
「はあ?」
「俺の彼女、可愛いなって思ってた」
「……そうですか。はいこれタオル。さっさと歯を磨いておいでよ」
「照れてるのも可愛いなあ」
「もういいって」
 キラキラした笑顔で見つめられると、嫌でも恥ずかしい気分にさせられる。千颯くんをバスルームに押しやると、ようやく食器を拭いて棚に仕舞い入れる。
(ちぃちゃんってば、ああいうことを臆面もなく言うよね……)
 あの晩会った時からあんな感じだった。あの容姿であんなに取っ付きやすくて、一体どこがモテないのか教えて欲しい。千颯くんは相当鈍感なんじゃないだろうか。
 食器を片付け終わって部屋に移動すると、歯磨きを終えた千颯くんが部屋に戻ってきた。
「スズも歯磨いてくれば?」
「そうだね。あ、洗濯機回すよ。ちゃんと洗う物入れてくれた?」
「ごめんね、遠慮なく入れさせてもらったよ」
「いいよ」
 入れ違いでバスルームに向かい、洗濯機をセットしてから歯を磨く。
 歯磨き用のカップが濡れているので、千颯くんが使ったんだろうか。こういうところも遠慮がなくて、千颯くんは距離感がバグってるような気がしてくる。
「まあ、付き合ってるからいいんだろうけど……」
 幼馴染みだという事実が距離を狭めているのだとしたら、確かに私も妙に緊張感が薄れているところはあるし、千颯くんばかりを責められない。

 たわいない話をしながらテレビを見て時間を潰し、洗い終わった洗濯物をようやく干し終えた。
「朝までには乾くと思うけど」
「ありがとうね」
 サーキュレーターで風を送っているので、起きたら生乾きでしたなんてことはないはずだ。
「ちぃちゃん喉乾いてない? 私お茶飲むけど」
「じゃあ、俺ももらおうかな」
「冷たいので大丈夫だよね」
「平気。ありがとう」
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