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13.帰国②
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旅行は楽しかったけれど、やっぱり自宅が一番くつろげる。そんな思いで大きく息を吐き出すと、やっと緊張がほぐれたように、あれだけ眠ったのに大きなあくびが出た。
少しだけ、ちょっと横になるだけ。そう思ってどれくらい経ったのか、枕元のスマホに着信があってハッとすると、慌てて電話に出る。
「はいもしもし」
『寝てた? ごめんね。インターホン押しても出ないから』
「ごめん、ちぃちゃん」
『俺はいいよ。それよりお昼買ってきたから、開けてもらっていい?』
ピンポンとインターホンが鳴り、慌てて共用部の入り口を開けると、また謝罪の言葉が出た。
「ごめんね、今開けました」
『謝らなくていいよ。疲れてるだろうに、俺が来たいなんて言ったのが悪いんだし』
「そんなことないよ。ご飯ありがとうね」
『適当に買ってきたから、美味しいといいんだけど。あ、玄関開けてくれる?』
「はいはい。今開けるね」
通話が途絶え、玄関のドアスコープを覗くと千颯くんが見える。
「いらっしゃい。あれ、なんか凄くいい匂いがする」
「うん、パンが焼きたてだった。お邪魔します」
「荷物もらうよ。悪いけど鍵閉めて」
「了解」
受け取った紙袋はずっしりと重たくて、中を覗くとフワッと芳ばしい香りがする。
「ごめんね、こんなに買ってきてもらって」
「俺も連絡が遅れてごめん。お昼作ろうとしてたんだじゃないの」
「全然。部屋の掃除と荷物の片付けで、全部やり切った気になってた」
「本当だ。布団干してある」
千颯くんは勝手知ったる様子でお茶もらうねと言うと、冷蔵庫を開けて自分でお茶を入れて部屋にやってきた。
「眠たかったら休んでてもいいけど、お腹減ってない?」
「匂いでお腹減ってきた」
「じゃあ食べようか」
そう言って千颯くんは紙袋から次々と中身を取り出していく。焼きたてだと言うパンの他に、ビーフシチューやエビのサラダを買ってきてくれたようだ。
「美味しそう」
「結構人気みたいで人が並んでた」
「まだゴールデンウィークだもんね。帰りの電車も凄かったし」
「そうだね。だからこそ、家でまったりした方がくつろげるよね。なのに来ちゃってごめんね」
「いいって。謝んないでよ」
早速ランチを食べながらたわいない話をすると、スペインで撮った写真をいくつかプリントアウトして残しておきたいという話になる。
「おばあちゃんたちに送るの?」
「ああ、その発想はなかったわ。そうしたら喜びそうだね」
「じゃあ上手く撮れたやつを選ばないとね」
それぞれのスマホを見比べると、千颯くんがふざけるせいで、彼のスマホにはバカみたいな顔をした写真が溢れている。
「ちぃちゃんがふざけるから、写真も変なのばっかりじゃん」
「これね。笑いすぎてじいちゃん咽せた瞬間ね」
「だからそういうふざけたのはダメだってば」
注意しながらも写真が面白くて笑ってしまう。写真を見るだけで、その時の光景がパッと蘇って、これはこれで素敵な写真なんだと嫌でも実感する。
途中そんなやり取りもありながら写真をいくつか選ぶと、ランチを食べ終えて後片付けは千颯くんに任せた。
「布団とか俺が取り込んどくから、スズは昼寝でもしたらどう?」
「大丈夫だよ」
「時差ボケとか初めてでしょ。ちゃんと休んだ方がいいよ」
「でも夜眠れなくなりそうだし」
「夕方には起こすから大丈夫だよ」
千颯くんは私をベッドに座らせると、横になるだけで体が楽だからと私を寝かせようとする。
「でもちぃちゃん、せっかく来たのに」
「俺のことはいいよ。勝手に押しかけただけだし。ほら、早く寝転んで」
「分かった」
素直にベッドに寝転ぶと、千颯くんは満足したように私の頭を撫でる。それがなんだか心地よくて、気持ちとは裏腹にあっさりと私は眠りについた。
少しだけ、ちょっと横になるだけ。そう思ってどれくらい経ったのか、枕元のスマホに着信があってハッとすると、慌てて電話に出る。
「はいもしもし」
『寝てた? ごめんね。インターホン押しても出ないから』
「ごめん、ちぃちゃん」
『俺はいいよ。それよりお昼買ってきたから、開けてもらっていい?』
ピンポンとインターホンが鳴り、慌てて共用部の入り口を開けると、また謝罪の言葉が出た。
「ごめんね、今開けました」
『謝らなくていいよ。疲れてるだろうに、俺が来たいなんて言ったのが悪いんだし』
「そんなことないよ。ご飯ありがとうね」
『適当に買ってきたから、美味しいといいんだけど。あ、玄関開けてくれる?』
「はいはい。今開けるね」
通話が途絶え、玄関のドアスコープを覗くと千颯くんが見える。
「いらっしゃい。あれ、なんか凄くいい匂いがする」
「うん、パンが焼きたてだった。お邪魔します」
「荷物もらうよ。悪いけど鍵閉めて」
「了解」
受け取った紙袋はずっしりと重たくて、中を覗くとフワッと芳ばしい香りがする。
「ごめんね、こんなに買ってきてもらって」
「俺も連絡が遅れてごめん。お昼作ろうとしてたんだじゃないの」
「全然。部屋の掃除と荷物の片付けで、全部やり切った気になってた」
「本当だ。布団干してある」
千颯くんは勝手知ったる様子でお茶もらうねと言うと、冷蔵庫を開けて自分でお茶を入れて部屋にやってきた。
「眠たかったら休んでてもいいけど、お腹減ってない?」
「匂いでお腹減ってきた」
「じゃあ食べようか」
そう言って千颯くんは紙袋から次々と中身を取り出していく。焼きたてだと言うパンの他に、ビーフシチューやエビのサラダを買ってきてくれたようだ。
「美味しそう」
「結構人気みたいで人が並んでた」
「まだゴールデンウィークだもんね。帰りの電車も凄かったし」
「そうだね。だからこそ、家でまったりした方がくつろげるよね。なのに来ちゃってごめんね」
「いいって。謝んないでよ」
早速ランチを食べながらたわいない話をすると、スペインで撮った写真をいくつかプリントアウトして残しておきたいという話になる。
「おばあちゃんたちに送るの?」
「ああ、その発想はなかったわ。そうしたら喜びそうだね」
「じゃあ上手く撮れたやつを選ばないとね」
それぞれのスマホを見比べると、千颯くんがふざけるせいで、彼のスマホにはバカみたいな顔をした写真が溢れている。
「ちぃちゃんがふざけるから、写真も変なのばっかりじゃん」
「これね。笑いすぎてじいちゃん咽せた瞬間ね」
「だからそういうふざけたのはダメだってば」
注意しながらも写真が面白くて笑ってしまう。写真を見るだけで、その時の光景がパッと蘇って、これはこれで素敵な写真なんだと嫌でも実感する。
途中そんなやり取りもありながら写真をいくつか選ぶと、ランチを食べ終えて後片付けは千颯くんに任せた。
「布団とか俺が取り込んどくから、スズは昼寝でもしたらどう?」
「大丈夫だよ」
「時差ボケとか初めてでしょ。ちゃんと休んだ方がいいよ」
「でも夜眠れなくなりそうだし」
「夕方には起こすから大丈夫だよ」
千颯くんは私をベッドに座らせると、横になるだけで体が楽だからと私を寝かせようとする。
「でもちぃちゃん、せっかく来たのに」
「俺のことはいいよ。勝手に押しかけただけだし。ほら、早く寝転んで」
「分かった」
素直にベッドに寝転ぶと、千颯くんは満足したように私の頭を撫でる。それがなんだか心地よくて、気持ちとは裏腹にあっさりと私は眠りについた。
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