64 / 67
28.彼女の正体①
しおりを挟む
なにも解決しないまま週末は実家でクサクサして過ごし、日曜の夜に自宅に帰ると相変わらず千颯くんからの連絡はあるものの、頭を冷やしたいと伝えて会うのを拒んでいる。
憂鬱な気持ちのまま月曜の朝、通勤ラッシュの電車に揺られて出勤すると、お子さんが体調を崩したらしく井口さんがお休みで、そのフォローもあってバタバタと午前中が過ぎた。
(お昼ご飯どうしようかな……)
コンビニに行って、サンドイッチがなにかで済ませようかと悩んでいると、内線が鳴って電話を取る。
「はい。人事部、高橋です」
『お疲れ様です。受付の林です。高橋さんにお客様がお見えになってます』
「え、どなたですか」
私は採用担当ではないし、外部の人との接点は皆無に等しい。それなのに私に来客とはどういうことだろうか。
『カルチュアレジーの森本様です』
名前を聞いてもピンとこない。カルチュアレジーといえば有名な雑貨店を運営する会社で、確かこの近くに本社があったはずだ。
「分かりました。とりあえず伺います」
よく分からないけれど、名指しで会いに来られているのに門前払いするのもどうかと思い、一応名刺を持って一階のロビーに向かう。
そして受付に案内されて向かった先で私を待っていたのは、千颯くんがマコと呼んだあの女性だった。
「……お待たせしました」
「先日はご挨拶もままならず失礼しました。カルチュアレジーに勤めております、森本と申します」
ソファーから立ち上がった森本さんはやはり背が高く、ヒールを履いてない様子なのに目線が高い。それに独特でハスキーな声が妙に色っぽい。
彼女は慣れた様子で名刺を取り出すと、私の目の前にそれを差し出した。〈森本誠〉と書かれている。千颯くんがマコと呼んでいたので、まことと読むのだろうか。
「高橋涼葉です」
私が自分の名刺を差し出すと、森本さんは少し驚いた顔をしてから微笑んで名刺を受け取った。
「とりあえずお掛けください」
「ありがとうございます。失礼します」
森本さんが座ったの確認して向かいのソファーに腰を下ろす。それにしても彼女はどうして私に会いに来たんだろうか。
「あの……本日はどういったご用件でしょうか」
「先日の件のお詫びです。後になって千颯から聞きました。彼のご婚約者だったんですね」
「ええ、まあ……」
以前遭遇した元カノみたいに、ヨリを戻したいとかその手の話だろうか。道端でふざけ合って腕まで組んでいたし、相当仲が良いのだろう。
「ごめんなさい」
「え、ちょっと、頭を上げてください」
突然テーブルに手をついて頭を下げられて動揺すると、森本さんは顔を上げて沈痛な面持ちのままもう一度ごめんなさいと謝った。
「この前は久しぶりに千颯と会ったのが嬉しくて、配慮が足りてませんでした。きっと誤解なさってますよね」
誤解させたという割には、千颯くんのことを呼び捨てにしている。本当に謝る気があるのだろうか。
「……誤解ってどういう意味ですか」
「驚かせると思いますが、これ私なんです」
森本さんは一枚の写真を取り出すと、テーブルの上を滑らせて私の前にそれを突き出す。
その写真には学ラン姿の少し幼い顔をした千颯くんが写っていて、その隣には楽しそうに肩を組む綺麗な顔の男の子が写っている。
「あの……これは?」
「高校時代の私と千颯です」
「え?」
「千颯は男子校に通ってたのをご存知ですか?」
「……え、じゃあこの男の子は」
「そうです。私です」
森本さんは苦笑すると、恥ずかしそうに写真を引っ込める。
「ジェンダーのことで会社と揉めていて、友人で弁護士でもある千颯を頼ったんです。千颯はバカ正直なヤツですから、クライアントだからそのことは話せないと言ったんでしょう?」
「……そうだったんですね」
憂鬱な気持ちのまま月曜の朝、通勤ラッシュの電車に揺られて出勤すると、お子さんが体調を崩したらしく井口さんがお休みで、そのフォローもあってバタバタと午前中が過ぎた。
(お昼ご飯どうしようかな……)
コンビニに行って、サンドイッチがなにかで済ませようかと悩んでいると、内線が鳴って電話を取る。
「はい。人事部、高橋です」
『お疲れ様です。受付の林です。高橋さんにお客様がお見えになってます』
「え、どなたですか」
私は採用担当ではないし、外部の人との接点は皆無に等しい。それなのに私に来客とはどういうことだろうか。
『カルチュアレジーの森本様です』
名前を聞いてもピンとこない。カルチュアレジーといえば有名な雑貨店を運営する会社で、確かこの近くに本社があったはずだ。
「分かりました。とりあえず伺います」
よく分からないけれど、名指しで会いに来られているのに門前払いするのもどうかと思い、一応名刺を持って一階のロビーに向かう。
そして受付に案内されて向かった先で私を待っていたのは、千颯くんがマコと呼んだあの女性だった。
「……お待たせしました」
「先日はご挨拶もままならず失礼しました。カルチュアレジーに勤めております、森本と申します」
ソファーから立ち上がった森本さんはやはり背が高く、ヒールを履いてない様子なのに目線が高い。それに独特でハスキーな声が妙に色っぽい。
彼女は慣れた様子で名刺を取り出すと、私の目の前にそれを差し出した。〈森本誠〉と書かれている。千颯くんがマコと呼んでいたので、まことと読むのだろうか。
「高橋涼葉です」
私が自分の名刺を差し出すと、森本さんは少し驚いた顔をしてから微笑んで名刺を受け取った。
「とりあえずお掛けください」
「ありがとうございます。失礼します」
森本さんが座ったの確認して向かいのソファーに腰を下ろす。それにしても彼女はどうして私に会いに来たんだろうか。
「あの……本日はどういったご用件でしょうか」
「先日の件のお詫びです。後になって千颯から聞きました。彼のご婚約者だったんですね」
「ええ、まあ……」
以前遭遇した元カノみたいに、ヨリを戻したいとかその手の話だろうか。道端でふざけ合って腕まで組んでいたし、相当仲が良いのだろう。
「ごめんなさい」
「え、ちょっと、頭を上げてください」
突然テーブルに手をついて頭を下げられて動揺すると、森本さんは顔を上げて沈痛な面持ちのままもう一度ごめんなさいと謝った。
「この前は久しぶりに千颯と会ったのが嬉しくて、配慮が足りてませんでした。きっと誤解なさってますよね」
誤解させたという割には、千颯くんのことを呼び捨てにしている。本当に謝る気があるのだろうか。
「……誤解ってどういう意味ですか」
「驚かせると思いますが、これ私なんです」
森本さんは一枚の写真を取り出すと、テーブルの上を滑らせて私の前にそれを突き出す。
その写真には学ラン姿の少し幼い顔をした千颯くんが写っていて、その隣には楽しそうに肩を組む綺麗な顔の男の子が写っている。
「あの……これは?」
「高校時代の私と千颯です」
「え?」
「千颯は男子校に通ってたのをご存知ですか?」
「……え、じゃあこの男の子は」
「そうです。私です」
森本さんは苦笑すると、恥ずかしそうに写真を引っ込める。
「ジェンダーのことで会社と揉めていて、友人で弁護士でもある千颯を頼ったんです。千颯はバカ正直なヤツですから、クライアントだからそのことは話せないと言ったんでしょう?」
「……そうだったんですね」
2
あなたにおすすめの小説
地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!
楓乃めーぷる
恋愛
見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。
秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。
呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――
地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。
ちょっとだけ三角関係もあるかも?
・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。
・毎日11時に投稿予定です。
・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。
・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる