追放された精霊の愛し子は運命の番をその腕に掻き抱く

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序章

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 Ⅰ . 六種、五分類の性別

 性別には男女の性の他に、第二の性と呼ばれるαアルファβベータ、そしてΩオメガの三つの性が存在する。

 中でもβは一般的な男女の性とさほど変わりなく、第二の性に応じて、新たに何かが付与、付加されるケースは見られず、大多数がこれに当てはまり、またこれに分類される。

 それ以外の稀な性について。
 αは優秀な遺伝子を持ち、容姿端麗にして頭脳明晰。神からギフトを与えられた選ばれし者と称され、リーダーになる素質を多く持ち、優位種とも呼ばれる。

 またαは優秀な遺伝子と高い繁殖能力を持つとされ、パートナーの性別に限らず、必ずしも遺伝するものではないが、高確率でαの性をもつ子を授かると考えられる。

 次にαと同等、あるいはそれ以上に稀有な性別のΩ。
 Ωにはヒートと呼ばれる特有の周期的な発情期があり、身体の男女を問わずして妊娠することが出来、人を惑わせるほどの容姿を持つことも多く、その性質上、希少種とも呼ばれる。

 こうした第二の性は、出生時から幼少期にかけては不明瞭である。
 そのため国の定めにより十二歳を迎えた者から順に、血液検査を行なって判定するものであり、この検査は身分や貧富に拘らず、義務として強制的に実施される。


 Ⅱ . 第二の性の特色

 先に挙げた通り、圧倒的多数のβに対してαは少数であり、Ωはαよりも更にその数が少ないとされる。またΩの出生において、取り分け女Ωは生まれにくく、男Ωよりも希少となる。

 人身売買は厳しく禁じられているが、主にΩに関しては、水面下で犯罪に巻き込まれることが多く、その希少性からこの被害に遭うケースが後を立たない。

 そうした背景からΩの多数は、なりを潜めて穏やかに暮らすことを望み、大前提として、表立ってΩであることを公言しない。

 だが実際にはヒートは抑制が困難であり、意図せず第二の性が露呈してしまい、さらにΩがヒートによりαのみならずβまで刺激するケースは多く、Ωの多くは卑しい存在であると差別、あるいは迫害を受けて不自由な暮らしを強いられていることも否めない。

 またαにもラットと呼ばれる発情、あるいは興奮状態があるとされるが、これらの多くはΩのヒートによって誘発されることが多く、Ωのヒートとは性質が異なるものと考えられる。

 こうした第二の性から、ヒエラルキーが形成されることが多く、抜きん出た才能を発揮するαが頂点に君臨する場合が多い。

 ヒエラルキーが形成されると、αの下に広く一般的なβの層が形成され、ヒートから日常生活に支障をきたすことが多いΩが、ヒエラルキーの最下層に追いやられる傾向にある。


 Ⅲ . Ω性のヒート、またその抑制方法

 Ω特有とされるヒートに関しては、個体差があるものの十代半ばには発症し、およそ三月みつきに一度の頻度で短いと五日から、長くて十五日の間継続して起こるものとされている。

 また特異な例として、アルファの放つフェロモンに充てられてΩが強制的にヒートを起こされる事例の報告があるが、これは極めて稀なケースであり、Ωを保護するためにもヒートを起こす起爆剤となる物質や、あるいはそれに準ずる物について詳細の記述は残さない。

 ヒートが起こると、その期間中は本人の意思に関わらず、繁殖活動以外に意識が向かなくなり、酷い倦怠感に襲われるΩの症例が多い。
 そのためヒート期のΩは、酷い脱力感や著しい性衝動などに悩まされるため、外出はおろか、歩行すらもままならなくなるケースが散見される。

 具体的な事例として、Ωがヒートを迎えると、蠱惑的なフェロモンを放ちαを惑わせる。それはαにとって自我を保てないほどの強烈な性衝動を引き起こすものである。

 またΩのフェロモンに関しては、敏感なβであれば、Ωのヒートを嗅ぎ分け、特定することが出来るとされているが、それがβの理性を奪うまでの事例は稀である。

 Ωのヒートに関しては、αと番うことで、その矛先を番のαのみに向けることが出来る。
 番のいないΩがヒートを起こした場合、自らを抑えることが出来ないため、ヒートが治まるまでフェロモンを撒き散らしたまま性衝動に耐える、あるいは本能のまま性を貪るか、またはヒート自体を起こさないために、抑制剤を服用するなどの対策を講じなければならない。

 だが現段階で抑制剤に関しては保障がなく、そもそもΩ自体が希少であるため、出回る数も少なく価格も高額であり、全てのΩが平等にそれを手に入れるのは非常に困難と言える。

 補足として、ヒート中は本能に支配され理性が失われる可能性が強く、Ωが本心から受諾せずに番われないよう、うなじ、あるいは首筋を保護する『モナリス』という首輪状の器具があり、これを装着して身を守る術がある。


 Ⅳ . α性とΩ性におけるつがいについて

 抑制剤以外にΩのヒートを抑え込む手段として、番を例に挙げたが、番とはαがΩのうなじ、あるいは首筋を噛むことで成立し、番はどちらかが最期を迎えるまで有効である。

 ではΩがαと番となることでヒートが起こらなくなるかと云えばそうではなく、Ωは変わらずヒートを起こすが、番のαだけを刺激する性質にヒートが変化するとされている。

 また補足として番となり得るαとΩだが、ただしαやΩはこれを一方的に途中で解消することが可能であり、この手段は様々あるとされる。

 中でも多く見られるケースは、αが別のΩと番うこととされている。番の上書きである。

 そして稀有なケースに、番の証であるΩのうなじの噛み跡を削ぎ落とし、Ω側が強制的に番を解消するものがある。
 しかしこれに関してはΩ自体の命も危ぶまれる行為となるため、ほとんどの場合は類を見ない。

 また番の解消が起こると、Ωが繊細であり、あるいはαのマーキングが消滅しないともされるが、Ωが二度目以降に他のαと番うことは難しいとされている。

 番を解消された、または解消したΩは、番う以前よりも酷いヒートを起こして苦しみ、これについては抑制剤も効かないケースが散見される。

 しかしこの番というシステムにおいて確認されている非常に興味深いケースで、αとΩの間に運命の番と云うものが存在し、この解消は困難であるとされ、それ以前に解消自体がなされないものと推察される。

 運命の番に関しては、当該αとΩが出会った瞬間に判断がつくと言い、Ωが放つ匂いは咽せ返るほど濃く、αにとって他に類を見ない独特の香りで、求めずとも強烈に惹かれ合い、互いの魂が呼応するものであるとされる。

 この時、身体に及ぶ影響については、Ωのヒートに対してαがラットや、強い眩暈、動悸を起こすとされ、またヒートを介さずとも、途絶えぬ興奮状態に陥ることなどがあるとされる。
 ただし、運命の番に関しては報告のある実例が少ないため、これらの例は推測の域を出ないものである。


 ※保健機関〈WEEL〉所蔵、
  生物学博士ライネイル・トリゴ著
  『第二の性とその考察』より抜粋。

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