追放された精霊の愛し子は運命の番をその腕に掻き抱く

濘-NEI-

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(37)帰国

「なんだ。そんな顔をしてなにが不服だ」

「筋書き通りとはいえ、肝が冷えたって話だよ」

 アプハンから戻ったばかりのケイレブは、デルザリオの部屋でアプハンで起こったことのあらましを報告していた。

 デルザリオがケイレブに指示したのは、イヒャルドの力を借りてアマリエ公ゼウル卿の犯罪を明るみにさせること。
 王弟シュレールと王妃マキナの子に関しては、デルザリオがこの話をケイレブにした頃には既に兄であるマグラリアの手によって、隠居した先王の元で安全に保護されていた。

「肝が冷える程度いつものことだろう。それより証拠が足りんな」

「それに関してはカミーリアが続けて捜査を進めてる」

 アプハンでも栄えたガザレル州を巻き込む大事件を摘発したにも拘らず、狡猾なゼウル卿は決定打となるような物的証拠を残していない。

 今回の渡航に関してはイヒャルドの指揮の元、デュロイが暗躍して国から流出したオメガを含む奴隷たちを救出したというのが表向きの話だ。

 あの一件以来、デュロイは完全にケイレブに心酔した様子で騎士団を辞めることも辞さないと息巻いているが、イヒャルドがそれを認める訳もなく彼を継ぐ者としての指導が続いている。

「それよりデリー、お前はその間なにをしてたんだよ」

「イルギルを潰して回っている。さすがに末端までは手が足りんので、一網打尽とは行かんがな」

「繋がってる貴族連中も吊し上げてるのか」

「確たる証拠がある者だけだが、イヒャルドの武功が上がるばかりだな」

 イヒャルドの功績により国内で力をつけていたムーラル伯ナドリックを中心にベータの貴族たちの権威は失墜。
 しかし同じく関与の疑われるアマリエ公ゼウル卿は、恐ろしいほどに沈黙を守っている。

「後はゼウルを引き摺り下ろす証拠か」

「そして父上にも、貴族連中をここまで腐らせたその責任を取っていただく」

 シュレールはいまだ即位する意向を示していないが、マグラリアとデルザリオは連絡を取り合い、ナキーム失脚後の筋書きは固まってきている。

「それはそうとケイレブ。お前はこの期に及んでまだ画策しているらしいが、なにを探っているのかそろそろ教えて貰っても構わんか」

 一気に場の空気が沈んだものになるが、しかしデルザリオは怒りも困惑も見せずにケイレブを見つめている。

「……末の妹が、アマリエ公爵家からの申し出で行儀見習いの名目で攫われたままだ」

 村の鍛冶屋では逆らえる話じゃないからなと、ケイレブは苦悶して机の上で拳を握る。

「なるほどな。今回のアプハンでのことは当然ゼウルの耳に入り、いよいよブレンダの身が危ないということか」

「デリー、お前まさか」

「アボットに懐いてな、来る日も来る日も懲りずに嫁にして欲しいと騒いでる。兄貴ならあの跳ねっ返りを早く諌めてくれ。お前の番と揃うと賑やかすぎて敵わん」

「……すまん。もうこの他は迷惑かける火種がなくなった。感謝する」

「俺に誤魔化せることがあると思うな。そう在るように教え込んだのはお前だろう」

「はは、確かにそうだったわ。まったく、あの問題児がそのまま大きくなりやがって。大したもんだよ」

 デルザリオの部屋で一頻り世間話と今後の動きについての擦り合わせを行うと、食事時が近付いて二人を呼びに来たアボットと共に部屋を出る。

「ブレンダが迷惑掛けてるそうじゃないか」

「あはは、構いませんよ。あれは兄を慕う感じですから。ケイレブさんに会えば俺なんかには見向きもしませんよ」

「そうか。まあ器量は悪くないし、お前が構わんなら嫁にやってもいいんだぞ」

「またまた。ブレンダちゃんまだ十六ですよ、歳上ってだけで舞い上がる年頃じゃないですか。やめてくださいよケイレブさん」

 憂いが晴れて気が緩んだのか、ケイレブは愉しげにアボットを揶揄って肩を揺らしている。

 デルザリオはその後ろ姿を見ながら、このあるべき平和な時間が長く続くように祈る。そしてその更に視線の先にパメラを見つけて人知れず頬を緩める。

「デリーは意外と顔に出るな」
「バカを言え」

 振り返ったケイレブをあしらうと食事が用意された広場に向かい、それぞれに決められた席に着く。

「お兄ちゃん!」

「おお、また背が伸びたかブレンダ。なんだ、今日はまた随分と可愛い髪型に結ってあるな」

「義姉さんがしてくれたの」

「おかえり。無事に帰ってくるって信じてたよ」

「ああ。ただいま、アイルーン」

 人目も憚らずに熱い抱擁と口付けを交わすケイレブたちに、周りから囃し立てるように騒ぐ声と口笛や指笛の音が響く。

「ケイレブさんは、本当にアイルーンを愛してるんですね」

 二人の様子を見ながら、パメラはデルザリオの手をそっと握り締める。

「まあそうだろう。国に追われる身を選ぶほどに焦がれた女だろうからな」

「番というのは夫婦とはまた違う絆なんでしょうか」

「さあな。しかしケイレブの番に関しては、あいつにしか扱えん女だろうな」

「デルザリオ様は本当にアイルーンが苦手なんですね」

 可笑しそうに口元を押さえて肩を揺らすパメラに苦笑して見せると、冷めないうちに料理に手をつける。

 久々に皆が揃って囲む食卓はしばし騒がしくも楽しく得難い時間として流れていった。
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