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6-①
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車での移動中、会話らしい会話もないのに、強引に繋がれた手は、浦野さんの長い指が私の指の間を撫でるように緩やかに動いている。
こんなの付き合ってた頃に手を繋いだ時だってしてない。
そんな些細なことなのに、凄くいけないことをしているような後ろめたさが芽生えて、手を放してくれないかと隣の浦野さんを見つめてみるものの、彼は悠然と窓の外を眺めてる。
そうして車で移動すること二十分。
テレビや雑誌でしか見たことのない高級ホテルの玄関でハイヤーが停まると、ようやく浦野さんの手が指から離れ、解放された安堵からこっそりと息を息を吐く。
「まずは食事をしよう」
「いや、あの……」
「行くぞ」
離れたはずの手を再び掴まれて、浦野さんと腕を組むように固定されると、見上げるほど高さのある大きなガラス張りのエントランスを抜ける。
こんな高級なホテルならドレスコードがありそうなものだけど、安くて可愛いが売りの通販サイトで買ったようなセットアップに、合皮のパンプスとアンバランスな大きめのバッグ。
一応、秘書室で仕事をするのに及第点は貰えた服装とはいえ、明らかにオーダーメイドの上質なスーツを着こなす浦野さんの連れとしては、限りなくアウトに近いんじゃないだろうか。
そんなことばかりが気になって、ありもしない非難に満ちた視線に晒されている気になるけど、実際には浦野さんが目立つから、また好奇の視線を集めているだけなんだろう。
それなのにどうしても、その傍らに立たされると、お前じゃないだろうと言われてるみたいで気が引けて仕方ない。
すると品のある男性が、浦野さんと私を見掛けるなりこちらに向かって歩いてきた。
「浦野様、本日はようこそおいでくださいました」
「急で申し訳ない」
「いいえ、何なりとお申し付けください。それでは、レストランフロアまでご案内させていただきます」
にこりと微笑んでそう答えると、どうやらコンシェルジュらしいその男性は、こちらですと案内を始め、彼の後に続いて浦野さんが足を進めるので私もそれに倣う。
そもそも浦野さんと腕を組んで、逃げられないようにがっちりとホールドされているので、身勝手に動き回ることも出来ない。
エレベーターで二十四階まで移動し、コンシェルジュの男性はレストランスタッフと二、三言葉を交わした後、浦野さんに挨拶を済ませてその場を離れていった。
「ようこそおいでくださいました」
案内を引き継いだレストランのスタッフは、私たちに挨拶を済ませると、こちらも浦野さんが手配済みだったのか、絨毯の敷かれた通路を通って座席に案内される。
「緊張しすぎ」
私だけに聞こえるように、浦野さんが少し揶揄うように呟いた。
格式張った豪奢な個室を想像していたけれど、通された座席はフロアの中央にあって、空間を丸く切り抜いたようなデザインで、四人掛けの片側はお洒落なソファー席になっている。
いつ粗相をしでかすんじゃないかとヒヤヒヤしながら席に着くと、真正面に座った浦野さんと目が合ってしまって、反射的に目を逸らすために視線を落とす。
「食前酒はいかがいたしましょう」
「何か飲みたいものはあるかな」
スタッフの声に、浦野さんは私を見つめて声を掛けてくる。
「無作法で恥ずかしいのですが、よく分からないのでお任せします」
「構わないよ。すまないが、私も彼女も空腹なので、スパークリングウォーターをいただけるだろうか」
「かしこまりました」
浦野さんに恭しく頭を下げ、ここまで案内してくれたスタッフは私たちに微笑みかけるとその場を離れて行った。
そして平日の夜とはいえ、それなりにお客さんの姿がある賑やかな店内と違って、再び訪れる重たい沈黙を破ったのはもちろん浦野さんだ。
でもその声は、少し厳しく低いものだった。
こんなの付き合ってた頃に手を繋いだ時だってしてない。
そんな些細なことなのに、凄くいけないことをしているような後ろめたさが芽生えて、手を放してくれないかと隣の浦野さんを見つめてみるものの、彼は悠然と窓の外を眺めてる。
そうして車で移動すること二十分。
テレビや雑誌でしか見たことのない高級ホテルの玄関でハイヤーが停まると、ようやく浦野さんの手が指から離れ、解放された安堵からこっそりと息を息を吐く。
「まずは食事をしよう」
「いや、あの……」
「行くぞ」
離れたはずの手を再び掴まれて、浦野さんと腕を組むように固定されると、見上げるほど高さのある大きなガラス張りのエントランスを抜ける。
こんな高級なホテルならドレスコードがありそうなものだけど、安くて可愛いが売りの通販サイトで買ったようなセットアップに、合皮のパンプスとアンバランスな大きめのバッグ。
一応、秘書室で仕事をするのに及第点は貰えた服装とはいえ、明らかにオーダーメイドの上質なスーツを着こなす浦野さんの連れとしては、限りなくアウトに近いんじゃないだろうか。
そんなことばかりが気になって、ありもしない非難に満ちた視線に晒されている気になるけど、実際には浦野さんが目立つから、また好奇の視線を集めているだけなんだろう。
それなのにどうしても、その傍らに立たされると、お前じゃないだろうと言われてるみたいで気が引けて仕方ない。
すると品のある男性が、浦野さんと私を見掛けるなりこちらに向かって歩いてきた。
「浦野様、本日はようこそおいでくださいました」
「急で申し訳ない」
「いいえ、何なりとお申し付けください。それでは、レストランフロアまでご案内させていただきます」
にこりと微笑んでそう答えると、どうやらコンシェルジュらしいその男性は、こちらですと案内を始め、彼の後に続いて浦野さんが足を進めるので私もそれに倣う。
そもそも浦野さんと腕を組んで、逃げられないようにがっちりとホールドされているので、身勝手に動き回ることも出来ない。
エレベーターで二十四階まで移動し、コンシェルジュの男性はレストランスタッフと二、三言葉を交わした後、浦野さんに挨拶を済ませてその場を離れていった。
「ようこそおいでくださいました」
案内を引き継いだレストランのスタッフは、私たちに挨拶を済ませると、こちらも浦野さんが手配済みだったのか、絨毯の敷かれた通路を通って座席に案内される。
「緊張しすぎ」
私だけに聞こえるように、浦野さんが少し揶揄うように呟いた。
格式張った豪奢な個室を想像していたけれど、通された座席はフロアの中央にあって、空間を丸く切り抜いたようなデザインで、四人掛けの片側はお洒落なソファー席になっている。
いつ粗相をしでかすんじゃないかとヒヤヒヤしながら席に着くと、真正面に座った浦野さんと目が合ってしまって、反射的に目を逸らすために視線を落とす。
「食前酒はいかがいたしましょう」
「何か飲みたいものはあるかな」
スタッフの声に、浦野さんは私を見つめて声を掛けてくる。
「無作法で恥ずかしいのですが、よく分からないのでお任せします」
「構わないよ。すまないが、私も彼女も空腹なので、スパークリングウォーターをいただけるだろうか」
「かしこまりました」
浦野さんに恭しく頭を下げ、ここまで案内してくれたスタッフは私たちに微笑みかけるとその場を離れて行った。
そして平日の夜とはいえ、それなりにお客さんの姿がある賑やかな店内と違って、再び訪れる重たい沈黙を破ったのはもちろん浦野さんだ。
でもその声は、少し厳しく低いものだった。
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